『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』



実在の脚本家ダルトン・トランボの自伝。
この人のことを知らなかったので、家族を顧みない、でも才能のある脚本家の話かと思った。サブタイトルの“ハリウッドに最も嫌われた男”というのも、その原因は気難しい性格ゆえかと思った。
偏屈オヤジが家族のあたたかさに触れて改心するハートウォーミングストーリーを想像していた。

実際には、赤狩りの話だった。家族ものというよりは、社会派ドラマの面が強い。家族も重要な役割なので、家族ものとも言えるけれど、単純にそれだけじゃなかった。

予告編を何度か見て、その時には、共産主義のきょの字も入ってなかったと思ったんですが、今公式サイトの予告編を見直してみたらばっちり入っている。予告編騙しかと思っていたけれど、私がちゃんと見ていなかっただけのようです。

トランボ役のブライアン・クランストンが主演男優賞にノミネートされた。

以下、ネタバレです。関連作品である『ヘイル、シーザー!』についてもネタバレがあります。






『ヘイル、シーザー!』も同じ時代であり、題材も同じくハリウッド関係者の赤狩りである。冷戦ものと言ってもいいかもしれない。
『ヘイル、シーザー!』のほうがコメディ色が強いかなとは思う。市街地から離れた場所にある小屋の中で、共産主義者たちが隠れつつ議論をかわしていた。今から考えれば、あの人たちがハリウッド・テンのメンバーだったのかもしれない。『ヘイル、シーザー!』は実話ではないけれども、なぞらえてはいそう。
チャニング・テイタム演じるミュージカル俳優が結局共産主義者たちのリーダーであり、ソ連に憧れて、潜水艦に乗って行ってしまうが、あそこまでやるとやはりスパイ容疑がかかるというか、結局スパイになったりするのだろうか。

あの時代(1940年代後半あたり)の背景、アメリカでの共産主義者に対する弾圧をまったく知らなかったので、『ヘイル、シーザー!』も俳優は豪華だけれど、話は理解できたようなできていないようなと思っていた。けれど、『トランボ』を観た後ならば理解できることも多いと思う。

ただ、『トランボ』は社会派作品とはいっても、堅苦しさはない。逮捕されて、刑期を終え、出所後は特に開き直ったかのような強さが見えた。
トランボの飄々としていて、したたかな様子はおかしみすらある。ブライアン・クランストンがよく合っていた。『ブレイキング・バッド』の教授の印象が強いので、裏で何かとんでもない悪いことを考えているのではないかとひやひやもしたけれど、そんなことはなかった。
年齢も高齢のようにも見えるから、幅広い年齢が演じ分けられていた。もちろん、顔だけではなく演技でも表現していたとは思う。
個人的には肩にインコを乗せていたあたりのトランボが好きです。

トランボご本人は、実際にはどんな人物だったのだろう。
他の名前でもアカデミー賞はもらっているくらいだし、映画の通り、ちゃっかりしたしたたかな人物だったのかもしれない。

映画本編には、予告編に入っていた家族に対して冷たくあたるシーンもある。これだけ観ると、家族をないがしろにする人物なのかなと思ってしまった。でも、それはほんの一部であり、最初から最後まで、基本的には家族想いな男だった。

違う名前で脚本を書いていても、その別名義は家族は知っているから、アカデミー賞授賞式に出席していなくても、家族だけでわっと喜ぶ。
別にステージにあがらなくてもいい。そんなことは重要ではなく、才能が認められたことには変わりない。そして、家のソファに受賞した本人も居て、家族全員で喜びをわかちあえるという状況は逆に幸せそうにも見えた。
けれど、エンドロールで、トランボご本人による音声で、「子供に3歳の時から秘密を背負わせたのは申し訳なかった。父親の職業を聞かれても答えられないのはつらかっただろう」という言葉があった。
確かに、常に守らなければいけない秘密があるというのは大変だったと思う。ましてや小さい子供だ。自分のために子供が苦労するのはしのびなかったと思う。

でも、トランボは意志を強く持って、貫き通していた。決して、権力に屈することなく、自分を曲げていなかった。
そして、それがしっかり娘にも受け継がれていたのが感動的だった。娘は共産主義者ではなく、黒人排斥反対運動をしていたのだが、ちゃんと親のことを見ていて、自分が正しいと思ったことは曲げないというのを学んでいたようだった。

エンドロールに使われていたトランボご本人や家族の写真が、写真集にできそうなくらい素敵だった。
エンドロールを見進めると、どうやら妻のクレオが撮ったものらしい。映画内でもよく写真を撮っていたし、本当にカメラが好きだったようです。

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