『ザ・ギフト』



ジョエル・エガートン監督作品。アメリカでもスマッシュヒットしたというので期待してました。監督だけでなく脚本も書いていて驚いた。もちろん出演もしています。

気味の悪い人が贈り物をしてくるというので、サイコスリラーものかなとも思ったけれど、ちょっと違う。ひねりがきいている。

ただ、ビクッとさせる演出はあった。私は椅子からちょっと体が浮いてしまったし、近くの席の人は「わっ!」と声が出てしまっていた。苦手な人は注意したほうが良さそう。

以下、ネタバレです。






贈り物というのは、基本的には善意に基づいているため、いただくと嬉しいものである。ただ、一度ならともかく、何度も何度も、しかもそんなに親しくない相手からとなると、何か見返りを求められているのかなとか、裏があるのかななどと勘ぐってしまう。
また、教えたわけでもないのに家を知られているとなると、次第に不気味にもなってくる。

引っ越してきたサイモンとロビン夫婦と隣人とまではいかないけれど近所に住む知り合いのゴード。ただ、知り合いとは言っても、ゴードはこちらのことをよく知っているようだったけれど、サイモンはよく覚えていないようだった。学生時代の知り合いとのことだった。

そんな相手から過剰に贈り物が送られてくる。しかも、見計らっているのかいないのか、日中、サイモンが仕事でいないときに家にやってくる。
悪意はなさそうだけれど、夕飯に混じってこようとしたり、なんとなく家に招き入れないといけないような空気を作ってくる。こちらが少し迷惑に思っているのはわからないのか、単に人付き合いが下手なのか距離感がわかっていなように見えた。
そのような常識の通じない相手は何を考えているかわからない部分もあって、付き合わないで済むならばあまり付き合いたくない。

多数の贈り物と訪問からは執着心のようなものも感じて、その理由がわからないだけに気味が悪かった。
招待された家も豪邸で、人物と家が合ってないだけにいかにもあやしく見えた。二階には子供部屋があったり女性ものの服があったりで、この人はもしかしたらこの豪邸の住民を殺しているのではないか?と思ってしまった。

結局、運転手をやっている家の主人が留守のときにそこを家を偽ったようだが、なぜ見栄を張る必要があるのか。しかも、この訪問時の出来事がきっかけで亀裂が入り、夫婦の家が盗まれるなど、やはりと言っていいのか、不気味なことが起こり始める。

この辺まではよくあるサイコスリラーだと思う。ゴードは『過去のことは水に流そう』という手紙が届く。ここで、ロビンはゴードとの過去についてサイモンに聞くが、教えてはもらえない。

当然ロビンとしては気になるからそのことについて調べ始めるが、そこでサイモンの過去が明るみに出る。過去だけではない、明るみに出たのはサイモンの本性だ。

サイモンはロビンに内緒でゴードのことを独自に調査していた。ロビンはその書類をサイモンに叩きつける。部屋に帰っていくロビンの背中と、叩きつけられて頭を抱えるサイモン。別々の場所にいる二人を一緒に映すカメラワークがおもしろかった。撮影は『フランス組曲』『シングルマン』のエドゥアルド・グラウ。
思えば、ロビンは最初から威圧的な態度をとるサイモンに何か違和感があったようだったけれど、これで決定的に悪い印象になったのだと思う。
そして、それは映画を観ている人の目線も同じである。

サイモンはゴードの元へ謝りに行く。ゴードは誰も聞いていないような飲み屋で催されているクイズ大会の司会をしていた。少しおどけた格好をしているのも悲しい。これは今まで隠していたゴードの真の姿であり、それを見たサイモンにも道場が生まれるのだと思っていた。そして、過去を謝罪し、和解…という流れになるのだと思っていた。

けれど、サイモンには謝る気は全く無く、ここへもロビンに行けと言われたから来ただけだなどと言う。しかも、逆ギレをして、ゴードのことを蹴っ飛ばしていた。
結局、この人は何も変わっていないのだ。過去のゴードに対しての態度も、若気の至りなどではない。
仕事でも汚い手を使う、妻に対しても常に上に立とうとする。サイモンについて知れば知るほど、悪い印象が強くなる。性根が腐っている。

映画を観ている側は最初は主人公だと思っていたサイモンに怒りをつのらせ、ゴードの味方をしたくなってくる。視点の転換の誘導が鮮やかである。

終盤、サイモンにとって念願の子供を授かる。途中でゴードが出てくるかとも思ったが、何もないまま出産をする。そこでサイモンが改心するのかと思った。
しかし、ここでサイモンにとって一番残酷な手法がとられる。中途半端な場所から落とすよりも、一度天に昇らせてから落としたほうが落差でダメージが大きくなる。

まず、子供が生まれて幸福の絶頂のときに電話がかかってきて、汚い手がバレて会社から解雇を告げられる。加えて、妻からも離婚を言い渡される。

そして、家に帰るとゴードからの贈り物が久しぶりに届いている。出産祝いである。ただのベビーベッドかと思いきや、中には1、2、3と書かれた個別の包みが入っていて、そこには写真、音声、映像が。盗撮、盗聴…、すべて監視されていた。

また、妻が倒れた際に、家にあがりこんでいた。
まさかこれは、生まれた子供が実は…のパターンかなと思ったらもっとひどい。レイプをするのかと思っていたが、そんなショッキングシーンはない。わざと映像を切るのである。
いっそ自分の子ではないとわかったほうがまだいい。どちらだかわからないのが一番タチが悪い。

結局、サイモンがなすすべなく病院で一人きりで座り込んで頭を抱えているシーンで映画は終わる。バッドエンド…ではないのだ、これが。映画を観始めたときには考えられなかったことだけれど。

ゴードを演じたのが、本作の監督、脚本のジョエル・エガートン。ハの字眉が気弱っぽく、いい感じに気持ちが悪い。最近は俳優さんで監督をやることも多くなってきているけれど、うまさを感じた。次回作も期待。

サイモンを演じたのがジェイソン・ベイトマン。コメディで見慣れてるから意外な気がしたけれど、裏表がなく正義感の強い男に見えた。最初は。けれど途中から、表情が威圧的に見えたり、口をへの字にして煽るような表情に腹が立ったり…。印象がガラッと変わった。

サイモンの妻ロビンはレベッカ・ホール。長身でショートカット。サバサバしているだけかと思っていたが、途中からは意志の強さも見せる。

言い方がおかしいかもしれないが、ただベストキャスティングというだけではなく、全員、役によく合った顔をしていると思った。

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