『すばらしき映画音楽たち』



こちらも、シネマカリテのカリテ・ファンタスティック!シネマコレクション、通称カリコレにて上映。(追記:10/7より全国で公開されるとのこと)
原題は『SCORE A FILM MUSIC DOCUMENTARY』ですが、画面にはただ『SCORE』と書かれていた。

多数の映画音楽の作曲家のインタビューから映画音楽の歴史を紐解いたり、作成する過程や気持ちまでを描く。

映画作品のネタバレは普通に出てくるのである程度観ている人向け。
といっても有名作品ばかりだし、映画音楽のドキュメンタリーに興味がある人は観てるような作品ばかりです。

ドキュメンタリーなのでネタバレもなにもありませんが、感想というより備忘録のため、細かく内容に触れます。













もともと、リュミエール兄弟の頃から映画に音楽は付いていたらしい。1900年前後だろうか。無声映画でも、映写機の音をごまかすため音楽を流していたとか。
映画館には専門のピアノ弾きがいたというから豪華である。

それが変わって革命が起きたのが『キングコング』(1933年)。これで、初めて映画にオーケストラが使われたという。
音がないと安っぽくなってしまう画面にオーケストラが乗ると雰囲気が変わる。

『サイコ』もシャワー音のみではまったく怖くないし偽っぽく見えてしまう。それがあの有名な音がつくことで一気に緊迫感が生まれる。
あれも、バイオリンの端を弓でキュッキュと弾いているというのを初めて知った。普通の生活の中ならノイズになってしまうだけだが、あのシーンにはあの音しかない。すごい相乗効果だと思う。

おもちゃのピアノや小さいスチールドラムみたいな変わった楽器を使っている場合もあって、少し音効さんのようにも見えた。
『アングリーバード』や『怪盗グルー』シリーズのヘイター・ペレイラは、『ミニオンズ』でバイオリンをスタジオ奏者の方たちに「ウクレレみたいに爪で弾いて」とか「もっと揃ってなくていいから」とか「かたい音で」とか無茶とも思える注文をしていた。
頭の中に確固たる世界があって、その音を作っていく作業をしていた。

音というのは形にできないから厄介である。
作曲家が映像を観ながら監督と話し合っている場面もあったが、どの映画でもやっていることなのだろうか。
たいていの監督さんは思っている音を言葉で表現ができないらしいから、作曲家はそれを引き出すセラピストのような役割だと言っていた。

『007』からはジャズが取り入れられたそうだ。あの有名なテーマ曲を作曲したモンティ・ノーマンはビッグバンドのボーカルだったらしい。同じ頃、エンニオ・モリコーネによる西部劇の哀愁溢れる独特の楽曲たちも生み出された。これが60年代で、70年代になると、歌が入った曲も使われるようになっていった。

そして、80年代はジョン・ウィリアムズの時代である。
ジョン・ウィリアムズの楽曲はもうどれもこれも超有名で、映画内でも言われていたが、リズムだけでもどの曲かわかってしまう。
それが、『スター・ウォーズ』などの名シーンと合わせて流されるから涙が出てきた。
『インディ・ジョーンズ』ではあの有名なテーマ曲の他にBメロのような曲があって、ハンス・ジマーは「あれは自分のために作ったのだろう」と言っていた。

また、『ジョーズ』はあの二音がなくて映像だけでは何が何だかわからなかっただろうと言われていた。あの二音がどんどん速くなっていく様がエンジンがかかっていくようにサメが近づいてくる恐怖感をあおる。
また、これもハンス・ジマー談だが、「二音だけではなく、あのあとにちゃんと交響曲もあるんだ」とのこと。
作曲家としてそりゃそうなのだろうが、ハンス・ジマーはジョン・ウィリアムズのことをかなり尊敬しているようだった。

『スーパーマン』ではアカデミー賞授賞式なのかな、何かの授賞式で主演のクリストファー・リーヴが「あの音楽がなかったら、ワン、ツー、ヒュウ〜(落ちる音)…。飛べないよ」というスピーチをしていた。

『E.T.』のラスト付近の自転車で疾走するシーンは、あんなに力強く音楽で引っ張っていくシーンも珍しいとのこと。
そしてE.T.が宇宙船に乗り込むと音が小さくなる。けれど、最後は高らかにファンファーレが鳴らされる。ここで表現されているのは別れの悲しみではなく、E.T.を無事に宇宙船に届けるという任務を成し遂げたことを祝っているのだろうと脳科学の博士が説明していた。

この博士の話は他にもなるほどと思えるものが多かった。
音楽はメロディとリズム(時間)で脳で反応する場所が違うらしい。また、チョコレートを食べた時と同じく快楽の中枢が反応するとのこと。

映画を一本観る中で、視線は二万回以上動くらしい。それを音楽によって誘導することもできるとか。
でも、英語がわからないから基本的に字幕見ちゃうからなあと思いながら観ていたら、例として出されていたのが、『カールじいさんの空飛ぶ家』の最初の部分だった。ああ、あれは音楽だけのシーンだ。

『ロード・オブ・ザ・リング』は同じ短いフレーズが序盤から何度も出てきて、そのフレーズが耳に馴染んだ頃、そのフレーズを使った曲が盛大に流されて最高潮に盛り上がるらしい。
やはり音楽によって、感情がうまく誘導されている部分がありそうだ。

そして、ポストジョン・ウィリアムズのように紹介されていたのが、トーマス・ニューマン、ダニー・エルフマン、ハンス・ジマーの三人だ。
これも知らなかったのだが、ダニー・エルフマンはオインゴ・ボインゴというバンドで活動していたらしい。ビデオクリップを見ると、だいぶ前衛的な音楽だった。オインゴ・ボインゴとして来日したくらいだし、もしかしたら人気だったのかも。
そして、オインゴ・ボインゴファンだったティム・バートンが声をかけて『ピーウィーの大冒険』の音楽を担当し、ウマがあって、そのあとの2人のコンビっぷりは周知の通りである。

ハンス・ジマーの曲は、打楽器のリズムが独特だと言われていた。
『パイレーツ・オブ・カリブアン』の曲がオーケストラ版レッド・ツェッペリンと称えられていた。ジョニー・デップもジャック・スパロウはキース・リチャーズをイメージしたらしいし、全体的にロックなのか。

ハンス・ジマーは素晴らしい作品に呼ばれたときには有頂天になるが、その後で、「できなかったらどうしよう。ジョン・ウィリアムズに頼んでくれ!と思う」と言っていた。
当たり前だけれど、彼ほどの人物でも不安になるのだ。

他の作曲家も看板に自分の名前が出ているけれど曲ができあがっていないときにどうしようと思うと言っていた。『アルマゲドン』では映画完成までのカウントダウンをするタイマーが渡されたらしい。その実物も出てきた。

まあそれでも、ハンス・ジマーは毎回不安にはなるけれど辞める気はないと言っていてホッとした。
ハンス・ジマーはやわらかくて低くて素敵な声だった。
紫のビロードのジャケットにペイズリー柄のズボン、派手なしましまソックスというなかなかな服装だった。

そういえばそうだったと思ったけれど、『ラジオ・スターの悲劇』のバグルスのビデオクリップのバックでキーボードを弾いている姿も映りました。

『グラディエイター』のラスト付近で、曲にリサ・ジェラルドの歌が乗る。麦を触る手の映像は、女性ボーカルがあることで詩的な映像に昇華されたと言っていた。そのままならカットされていた映像だろうと。

『インセプション』のラストの部分が本当に好きで、観るたびにここまで気が抜けないと思っているんですが、そこについてもとりあげられていて、やっぱり特殊なシーンなのだと思った。

飛行機の中で目覚めるシーンの音楽は夜明けっぽいと言われていた。
そして、家族に会う。穏やかなシーンである。音楽も穏やかだ。でも、カメラが家族の再会からそらされて、ちょっとおかしなものが映って、あれ?と思っていると音楽が大きくなって、パッと消える。
いやー、よくできてる。
今回、ラストだけですが久しぶりに映画館で『インセプション』が観られて嬉しかった。
これは『ロッキー』や『スター・ウォーズ』、『E.T.』などについてもですが、短いシーンでもやはり家で観るのとは違う。

トレント・レズナーとアッティカス・ロスは、別ジャンルから呼ばれる例として出てきた。
実は、この映画の予告編を見ていて、ハンス・ジマーとかジョン・ウィリアムズはまあ当たり前としてとらえていたんですが、どうやらトレント・レズナーも出るらしいというのがわかって観ることにしたのだ。
もう立派な映画音楽の人だなと思っていたのですが、あくまでもナイン・インチ・ネイルズのボーカルとして紹介されていた。『The Hand That Feeds』のライブ映像が流れて、これが映画館で見ることができたのも嬉しかった。

トレントは、最初にデヴィッド・フィンチャーから話をもらったとき喜んだが、内容を聞いてみたらFacebookで最初はがっかりしたらしい。この時の呆れ顔が笑いを誘っていた。もっとセクシーな題材がやりたかったと言っていた。
でも、音楽を映画のないようを象徴的に表すものにはしたくなかったとのこと。
象徴的にしていたら、ありがちでダサい(とは言っていなかった)大学生の過ちモノになっていたかもしれないと言っていた。

そして、このような新しい音楽のつけ方が話題になって、映画音楽専門でなくてもアカデミー賞をとるのは当然だろうと言われていた。

これ以降、他の作曲家もより自由に映画音楽が作れるようになったし、制作者側もいろいろなジャンルの人に頼めるようになったらしい。

ただ、『ソーシャル・ネットワーク』が最初みたいな言われ方をしていたが、『ロスト・ハイウェイ』(1992年)でも音楽を担当している(アンジェロ・バダラメンティと連名)。そこからのつながりなのか、『ツイン・ピークス The Return』にはナイン・インチ・ネイルズがゲスト出演しているらしい。

エンドロールで時々見かけるロンドンのAir STUDIOも出てきた。もともと100年の歴史のある教会で、幽霊が出るらしい。イスがくるくるまわったとか。
『007 カジノロワイヤル』はそこで録音されたらしい。また、作曲のデヴィッド・アーノルドは『SHERLOCK』も担当している。

ロンドンだと有名なアビーロードスタジオは、壁が吸収しないからライブっぽい音質になるとのこと。

映画音楽の作曲家は自分で指揮をするタイプと、指揮は他の人にまかせてブースで監督のそばから見ていて、監督の反応も知りたいタイプがいるらしい。ヘイター・ペレイラやハンス・ジマーはこのタイプらしい。
自分で指揮をするタイプの作曲家は自分の子供が生み出される瞬間に立ち会うようだと言っていた。

オバマ元大統領は、大統領の勝利宣言のスピーチのときに『タイタンズを忘れない』のテーマ曲を使った。
映画の内容が人種問題を扱ったものだし、曲を聴いただけで同じような気持ちになるから使われたのだろうと言っていた。映画の曲の持つ力である。
ただ、作曲者のトレヴァー・ラビンには断りは無く使用されたらしい。苦笑していた。

『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』のブライアン・タイラーは45歳と若めの作曲家だが、映画館に実際に出かけて行って、客席を見渡して表情を確認しに行くのが楽しみらしい。また、上映後にトイレにこもって、他の個室から映画のメロディーの鼻歌が聞こえてくるのを聞くらしい。
自分が死んでしまっても作品は残るのが素晴らしいと言っていた。

エンドロールでは、2015年に亡くなったジェームズ・ホーナーのエピソードをジェームズ・キャメロンが話していた。
“sketch”という曲があって、ジャックがローズをスケッチするシーンに合っていたため、なるほどと思い使ったそうだ。しかし、“試作”という意味だったらしく、ちゃんと作り直すと言われたらしい。しかし、シンプルなピアノ曲が合っていたので、そのままでいいと言ったら、じゃあ、ちゃんとしたピアニストを用意すると言われた。
なので、「君に弾いてほしいんだ」と言ったらしい。

作曲家と監督のいい関係である。
そして、このいいエピソードを聴くと、これから映画を観る目が少し変わる。

『タイタニック』だけではない。今回紹介された映画もされなかった映画も、今までそこまで意識しなかった、けれど確実に心には入ってきていた音楽を、これからはしっかりと意識して聴いてみようと思う。

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