『ベイビー・ドライバー』



今までエドガー・ライト監督の映画はイギリスっぽさがあったけれど、本作はイギリス人以外の俳優も多く、音楽が中心の映画でありながら、イギリスの音楽はそれほど使われていない。
iPodで音楽を聴きながら、銀行強盗などの逃がし屋稼業をする“ベイビー”が主人公。

以下、ネタバレです。









オープニングからして、The Jon Spencer Blues Explosionの『Bellbottoms』が使われていて、ものすごく盛り上がった。車の運転席の男はノリノリで、曲に合わせて歌っている。歌っているというか、雄叫びである。でも多分、口パクだと思う。私も外ではやらないけれど、曲に合わせて歌いはせず口を動かすことはある。
途中の曲が盛り上がるあたりから超絶テクニックで車を運転し始める。動きが曲に微妙に合っているのがいい。一曲フルで使われるのでまるでビデオクリップのようだった。

次の曲もiPodで音楽を聴きながら街を半分踊りながら歩いていて、少しミュージカル調になっていて楽しかった。
昔、iPodのCMでシルエットが踊っているものがあったけれど、それを思い出してしまった。

ただ、この主人公のベイビーだが、音楽を聴きながら銀行強盗を超絶ドライブテクニックで逃すということでもっとぶっとんだ人物なのかと思ったけれど、嫌々加担していてこの仕事はやめたがっているようだった。これは映画のかなり序盤でわかる。

タランティーノ的なエキセントリックな人物ではなかった。超人的な力を持っているとその人物自体もエキセントリックなのかなと思ってしまうけれど、人物自体は普通の青年だった。ずっと音楽を聴いているのも幼い頃の事故の後遺症なのか、その事故で両親を亡くしているからPTSDなのか、とにかく、理由があってのことだった。
エキセントリックどころか、少し可哀想でもある。

だから、作品のトーン自体ももっとはっちゃけてるのかと思っていたけれど、案外普通というか、ちゃんとしたストーリーがあった。
それがいいか悪いかではなく、思っていたのと違った。

私は、逃がし屋が主人公で彼はそれを嬉々としてやっていると思っていたから、犯罪者が主人公の場合、共感しながら見ることができるかの不安もあった。
細かいことはいいんだよという感じで犯罪者が逃げ果せるクライムムービーだったら、それはそれでご都合主義になっちゃうし…と思っていた。
でも、実際にはクライムムービーではなく、青春映画ですね。それかヒューマンドラマ。犯罪は映画の主体ではなく、孤独な青年が人生を掴むまでが描かれている。

別にこれはこれでいいんですが、音楽を聴きながらカーチェイスをするというキャラクターがいいので、できれば三部作くらいにしてほしかった。本作は三部作の三作目、あと一回で借金返済だと告げられる前までのベイビー奮闘記を見たかった。
最初のジョンスペのあたりは割り切って、自分の仕事に自信を持って、嬉々としてやっているように見えた。その姿ももっと見たかった。

『スーサイド・スクワッド』の予告編でQueenの『Bohemian Rhapsody』に合わせて銃を撃つシーンがあったけれど、本作でも銃声と音楽がよく合っていた。
ただ、それも見ている時には楽しくてにこにこしてしまうのだが、その銃撃戦が終わったあとで取り返しのつかないこと(殺してはいけない人物を殺してしまったとか)があって、一気に真顔になってしまうということが何度かあった。さっきのシーンはどんな顔で見てるのが正解だったの?と思ってしまった。
できればもっと楽しい気分になりたかった。けれど、これもストーリーがきちんとしているが故だとは思う。

The Champsの『Tequila』に合わせて一仕事終えた後、ジェイミー・フォックスが決めゼリフのように「テキーラ」と言うのにしびれた。かっこよかったけれど、本作のジェイミー・フォックスは全体的に凶悪です。

また、ジョン・ハム演じるバディは、恋人が死んだことでベイビーを逆恨みし、執念で追いかけてくるが、なでつけた髪がどんどん乱れてくるのがセクシーだった。最初は大人の余裕を見せていて、ベイビーにも理解をしめそうとしてて、仲良くなるのかと思っていたのに、態度がガラリと変わる。余裕があった人物に余裕がなくなったのが、ヘアスタイルにも表れていたのが良かった。

また、ベイビーとバディがイヤホンを片側ずつ耳に入れて聴くシーンがあって、なるほど、そのための有線のイヤホンか、と思った。
今だったら機動性を高めるためにはワイヤレスイヤホンだと思う。またはヘッドホンのほうが、耳鳴りを抑える能力も高そうだし、格好も良い。
けれど、ヘッドホンは二人で一緒に音楽を聴くことはできないし、ワイヤレスイヤホンでは情緒がない。二人が線で繋がることで音楽だけではない他の何かも共有できる。

と思っていたけれど、ベイビーが持っていたのはiPodだったから、そもそもワイヤレスに対応していなかった。
iPodだけではなく、カセットテープや昔のテレコなど、ベイビーが持っているガジェットは昔のものが多かった。

劇中ではBeckの『Debra』も使われているが、劇中で出てくるデボラという女の子がこの曲を知っている。1999年リリースの『Midnite Vultures』に入っていて、私にとってはなんとなくそんなに昔の曲でもないけれど18年前である。デボラは20代前半くらいだと思うので、子供の頃の曲になってしまう。
もしかしたら、この映画の舞台自体が現代ではないのかなとも思ったけれど、ベイビーが幼い頃に両親からiPodをプレゼントされるくだりがあることを考えると、現代設定で良さそう。
デボラは、私の名前は変わっているからあんまり曲には使われないと言っていたから、子供の頃の曲でも思い出深かったのだろう。そして、ベイビーは単に昔のガジェットが好きなのだと思う。それか、最新のガジェットが好きじゃないのか。

最後の銀行強盗のとき、Blurの『Intermission』のイントロが流れて頭を抱えそうになった。イントロというか、インストナンバーなので歌はないからオープニングというか。
この曲は最初こそ遊園地のようなコミカルで楽しげな雰囲気だが、次第にテンポが速まり、混乱をしたように不協和音になり、ガチャガチャととっ散らかっていく。こんな曲で銀行強盗が成功するはずがない。この曲を知っていたので、流れ始めた時点で失敗することがわかった。

あと、Blurの曲が流れたことで、そういえば同じくエドガーライト監督の『ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!』ではブリットポップがふんだんに使われていたのを思い出した。あれはイギリス人のおっさんどもが若かりし日を想っている映画なので、20年前のイギリスの曲が使われているのも意味があったと思う。

今回、ブリットポップからはBlurしか使われていないのは、多分、出ている俳優もイギリス人以外が大半だからだろう。ブリットポップを使うとどうしてもイギリス色が強くなってしまう。Blurの中でもインストにしたのもそれが理由ではないかと思う。
ちなみに、エドガー・ライト監督はBlurのアルバムの中では『Modern Life Is Rubbish』が一番好きらしい。私もです。

『ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!』の時も思ったけれど、本作でもジョンスペとか『Debra』とか、エドガー・ライトといやに音楽の趣味が合うなあと思ったら、やっぱり同世代だった。

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