『ボブという名の猫 幸せのハイタッチ』



2012年にイギリスで出版された『ボブという名のストリート・キャット』が原作の実話。
ホームレスで薬物中毒だった男性が、野良猫との出会いにより人生を一変させる。
メッセージ性はある映画だけれど、難しいことを考えずただの猫好きとしても十分楽しめる映画。

以下、ネタバレです。









これも、『ビニー/信じる男』と同じく、フィクションならば、こんなにうまくいくの?と冷めてしまいそうだけれど実話である。
両親の離婚により、自分の居場所がなくなってしまったジェームズ。
生い立ちは詳しくは描かれないので、ホームレスになったのが先か、ストリートミュージシャンになったのが先か、薬物中毒になったのが先なのかはわからない。原作には書いてあるのかもしれない。でも、ホームレスとドラッグが密接な関係なのがわかった。

ホームレスだけではなく、貧困層とも密に繋がっていそうだった。
施設の支援により住宅を与えてもらったジェームズの暮らしていた住宅地には、夜になると売人が外に立っていた。
ジェームズがボブと出会ったのが2007年ということだから、それほど昔の話ではない。まだまだ、イギリスの現状といってもいいのだと思う。

もちろんボブの力が一番大きいとは思うけれど、支援をしたヴァルの力も大きい。『ダウントン・アビー』のアンナ役でおなじみ、ジョアンヌ・フロガットが演じています。彼女もホームレス支援なのか、薬物中毒者の支援なのかわからなかったが、もしかしたら両方なのかもしれない。
薬物を断つのは1人、ましてやホームレスでは難しいだろうし、ちゃんとサポートしてくれる人がいたのは大きいだろう。それに、そのプログラムをジェームズがしっかり実行したのも素晴らしい。

でも、しっかり実行できたのもきっとボブとの出会いがあったからだろう。また、近所に友達ができたというのもある。ジェームズは1人じゃなくなったのだ。

ボブが元々どこかの飼い猫だったのか、捨て猫なのか、野良猫なのかも不明。懐くのがはやかったみたいだし、ずっと野良猫だったわけではないのかもしれない。
それとも、怪我をしているところを保護したから懐いたのかもしれない。猫がそんな恩義のようなものを感じるのかわからないけれど、猫の恩返しとしか言いようがない。

1人で路上で演奏をしていても見向きもされなかったけれど、猫と一緒ならみんな立ち止まる。ボブが、「僕を連れて行けば注目を集められるよ」なんて思っていたかどうかはわからないけれど、結果そうなって、ジェームズの人生も上向き始めたのだから不思議な縁もあるのだと思う。
ボブだってあの貧困地域で野良猫をやっていたら先は長くなかっただろう。もちろんジェームズだってどうなっていたかわからない。出会えてよかったと思う。

“人生どん底でもあきらめちゃいけない、セカンドチャンスは来る”というものと、“ホームレスや薬物中毒者へ支援を”というメッセージがこめられていると思う。

勇気をもらったり、考えさせられたりという面もある。
しかし、実は、深刻な事態だったり、真面目な意見よりもどちらかというと、アイドル映画の意味合いが強かったりする。
なにしろボブが可愛い。

映画内ではボブを演じているのは7匹のようだが、そのほとんどをボブご本人が演じたらしい。
最初に家に忍び込んできて、支援してくれたヴァルの差し入れのシリアルをがさごそ食べている時点から一気にボブのとりこになった。

病院で犬に怯える姿や、家のネズミを追いかける姿など、他の動物との戯れも可愛い。
肩にひょこっと乗って歩くのをさぼるのもちゃっかりしてる。
ジェームズが演奏しているアコースティックギターに乗ってるのも可愛いし、乗っていない時もそばでおとなしくしているからよっぽどジェームズが好きなのだろう。家でギターを弾いているときにも目を細めていたから音楽が好きなのかもしれない。
スーパーでボブ用の缶詰を選んでいるときは興味津々で鼻を近づけていたけれど、薬はすぐに顔を背けていて、その様子には劇場からも笑いが漏れていた。

もちろん喋ったりはしないけれど、常にゴロゴロのどを鳴らしている。

今ではトレードマークになっているマフラーも巻かれても、嫌がらずにちょっと得意げになっているようにも見えた。
映画内では、最初にお客さんからプレゼントしてもらった縞々のマフラーをしているところをガールフレンドが「ドクター・フーみたい!」と言って褒める場面も。さらっと『ドクター・フー』が出てくるあたりがイギリスだなあとも思った。

乳製品が好きらしい。特にスティッククラッカーにクリームチーズをつけたものが好きらしく、何かあった時用にスタッフは全員忍ばせていとのこと。映画内でも

また、「ハイファーイブ!」と言って手をさし出すとボブもペコッと手を合わせてくる様子も本当に可愛い。

ラスト付近で、ジェームズの本の出版イベントにジェームズさんご本人が登場して、「僕の人生そのものだよ!」という少しお茶目なシーンがありますが、その時にボブがジェームズさんご本人のことをすごく見ちゃっているのも可愛い。演技(?)を忘れて素の顔です。たぶんあれは、ボブもご本人だと思う。

普通の猫でもダメだったと思う。利口で、人懐っこくて、ジェームズを慕っている。これは、ボブだからうまくいったストーリーなのだと思う。

主演のジェームズを演じているのがルーク・トレッダウェイ。彼が好きだから余計にアイドル映画感が増した。
ボブ目線のカメラになるところもちょくちょくあって、その部分は、猫になってルーク・トレッダウェイと共同生活を送っているようでドキドキしました。個人的に好きなので許してください。

ジェームズはストリートミュージシャンなので、ルークは映画内で何曲も歌っています。10代の頃にハリー・トレッダウェイとバンドを組んでいたらしいし、『ブラザーズ・オブ・ザ・ヘッド』もバンドマン役だったから、歌うのは初めてではないはず。サントラは実質ルークのソロアルバムになるのでは?とも思ったけれど、本作の曲を手がけたイギリスのインディフォーク・バンドNoah And The Whale のフロントマンだったチャーリー・フィンクが歌っているらしい。ルークの名前もクレジットされているようなので、彼の曲も入っているのかもしれない(視聴した限りだと入ってなさそう…)。

また本作は、コヴェントガーデン、テムズ川、二階建てバスなどロンドンの風景もたくさん出てきて、イギリス映画としても堪能できる。
それだけじゃない貧困地域に立つドラッグの売人やホームレスたちなど、負の部分も映し出し、問題提起もされているが、可愛い猫ちゃんが見たい!という気持ちをきっかけにするのは間違いではないと思う。入り口はどこでもいい。

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