『ナショナル・シアター・ライブ 夜中に犬に起こった奇妙な事件』



去年の第69回トニー賞でベストプレイ賞、アレックス・シャープが主演男優賞を受賞した舞台。今回ナショナル・シアター・ライブで上映されたのは、2012年に上演されたイギリス版。こちらも、ローレンス・オリビエ賞のベスト・ニュー・プレイ賞、ベスト・ディレクター賞など7部門を受賞、ルーク・トレッダウェイも主演男優賞を受賞している。
両方でベスト・ライティングデザイン賞を受賞したPaule Constableは『戦火の馬』も手がけている。

以下、ネタバレです。






ルーク・トレッダウェイですが、弟のハリー・トレッダウェイと双子で二人とも俳優なため、個人的なメモとしてどちらが何に出ているか復習しました。
ハリー・トレッダウェイが『コントロール』、『ロンドンゾンビ紀行』、『ローン・レンジャー』『ペニー・ドレッドフル(ナイトメア〜血塗られた秘密〜)』。ルーク・トレッダウェイが『タイタンの戦い』『アタック・ザ・ブロック』『不屈の男 アンブロークン』。
彼らのことは、元々二人が結合性双子役で出ていた『ブラザーズ・オブ・ザ・ヘッド』で最初に観たんですが、双子だから当たり前なんですが顔がそっくりで区別がつかないくらいだった。それ以降も、何かに出ているとなると、トレッダウェイが出るという認識でどちらがどちらという区別は私の中でしていなかったのだけれど、今回、『夜中に犬に起こった奇妙な事件』を観る前に『ペニー・ドレッドフル』を観ていたら、だいぶ顔が違っていた。これからはちゃんとハリーとルークを分けて考えます。

『夜中に犬に起こった奇妙な事件』、舞台が変わっていた。形はコロシアム型というか円形劇場。舞台のセットは何もない。ステージは液晶なのか、数字や映像が映るようになっている。チョークのようなもので、直に書くこともできる。セットがない分、ステージの平面を使った演出が多いので、座席も後ろというか、上のほうがわかりやすいのではないかと思う。

クリストファーがパニックになり、床に寝転んで痙攣を起こすようなしぐさをしながら丸くなった時、数字がクリストファーの周りをぐるぐると包むように動いていた。

列車に乗るシーンでは、最初は普通に椅子を置いて、何人か乗客が座っていて…という風だったけれど、途中から、電車を横から見たように視点が変わる。椅子を倒し、乗客もステージに寝ながら椅子に座っている形になる。ステージの液晶には車窓が映って動いていて、列車が走っているように見えるのだ。

この『夜中に犬に起こった奇妙な事件』、原作は2003年に刊行されたマーク・ハッドン著のベストセラー小説である。
特殊な作りというか、文字だけではなくて、途中で絵や記号などが入っている場面があった。人の感情を表すemoji、スマイルマークや片眉を上げた顔が入る場面も、ちゃんと舞台でも表現されていた。舞台上にクリストファーがチョークのようなもので描くのだ。これも、上から観たほうがわかりやすいと思う。
また、クリストファーが初めてロンドンに着いたときに、到着した駅でたくさんの看板などを見て、アナウンスを聞いて混乱してしまうシーン、小説でもいろんな企業のロゴが出ていたと思うけれど、舞台でもステージ上にロゴが洪水のように溢れ、いろんなアナウンスが一斉に流れ出す。
この前、映画『パディントン』でパディントンが駅に降り立ったときもそうだったけれど、私も初めてロンドンに行ったときに、情報量の多さ(しかも英語)に混乱したので、気持ちがよくわかった。その経験がなくても、クリストファーの気持ちになれるように作ってあると思う。

『夜中に犬に起こった奇妙な事件』、ご近所の飼い犬ウェリントンが何者かに殺され、クリストファーが疑われるところから話が始まる。
もちろん、自分じゃないのはわかっているので、犯人を探そうと、奮闘する。けれど、この話は、犯人探しだと思ったら大間違いなのだ。犯人は中盤であっさり明らかになる。後半は、クリストファーが一人で母親の元を目指そうとする。
前半が探偵パート、後半が冒険パートといった作りである。

最後に「一人でロンドンへも行けたし、何にでもなれる。なれるでしょ?」といったクリストファーからの問いかけで終わる。そこで先生は黙っているのだが、それに対して、大した冒険じゃないからなんとも言えなくて微妙な表情で笑ってるのだという意見を見かけたけれど、そんなに悲しくはないのではないかと思う。

問いかけの答えは先生がもたらすものではなくて、ここまで観て来た観客に委ねられたのだと思う。そして、最初からそこまでみたら、観客はクリストファーからの問いかけにそうだねと思うに違いない。
彼の未来は明るいと思うし、応援したくなる。勇気を貰う。

小説は、それ自体がクリストファーが語ったものを先生が記述し、注釈をつけたものという設定になっている。
舞台は更に、それを演じたものという設定になっていた。それは最後にわかるのだが、終盤、警官に対してクリストファーが「老い過ぎてる」と言ったり、「さっきとは違う警官」とか、俳優さんに直接文句を付けるシーンがあったが、演劇にはよくあるメタ発言なのかと思っていた。先生の「カーテンコールの時にやったら?」というセリフも同じ。
一人何役も演じているのも、そういうことだったらしい。

ちなみに、『SHERLOCK』のハドソン夫人役でおなじみのユーナ・スタッブスも出ていた。とてもキュートなご近所のおばあさん役他。不倫の関係だったというのをクリストファーに暗に説明しようとして、「とても仲が良かったのよ。とても、とっっっても」のVERYの言い方が可愛かった。

カーテンコールの後のシーンも良かった。クリストファーが受けていた数学の試験の解答です。先生が「カーテンコールにしたら?興味ない人は帰るし」と言っていたものだけれど、解答自体は聞いててわからなくても魅了される。
カーテンコールでも、ルーク・トレッダウェイではなく、ちゃんとクリストファーで出てきた。台に上がって、説明しながらステージ上に数字や三角形などの図が出てくる。手を動かすと、ステージ上にぱっと広がる様子が、まるで魔法のようだった。魔法使いクリストファーは、最後には紙吹雪を降らすというサービスまで!
完璧だ。けれど、本当にあの魔法を感じられるのは、現地にいる人だけなのかもしれないとも思った。

元々、主演俳優が好きだから、好きという評価しかできないけれど、クリストファーのことも大好きになってしまった。
クリストファーは宇宙飛行士に憧れていて、銀河を夢見るシーンがあるんですが、そこで、他の俳優さんたちによって持ち上げられる。小柄に見えたけれど、一応175センチとのこと。それほど小柄ではない。

リフトと舞台の効果によって本当に銀河に浮かんでいるように見えたが、電車や混雑する駅、家に入ってくるところなど、パントマイムのような動きをしていた。セットがないけれど見えてくるのがうまい。

あと、本を読んだときにはクリストファーは随分少年のイメージがあったけれど、ルーク・トレッダウェイで大丈夫なの?と思っていたけれど、大丈夫でした。クリストファー15歳、ルークが演じたときは27歳です。
ちなみに、今演じているアレックス・シャープも27歳でした。ステージデザインやライティングデザインは同じ方のようなので、演出面は同じなのだろうか。

アレックス・シャープ版は観てないですが、こちらもトニー賞をとっているということでいいと思うんですが、ジョン・キャメロン・ミッチェルの『How to Talk to Girls at Parties』という映画への出演が決まっているらしい。ニコール・キッドマンやエル・ファニングと共演するとのこと。

ルーク・トレッダウェイは『A Street Cat Named Bob
』という映画で主演らしい。猫を抱えてギターを持っている画像を見たので、『インサイド・ルーウィン・デイヴィス』みたいな印象だったけれど違うようだ。
ホームレスで麻薬中毒だった男性が、一匹の野良猫と出会ったことから…という話らしい。実話の本の映画化で、“A Street Cat Named Bob”で画像検索をすると可愛いマフラーを巻いた猫がたくさん出てくる。カレンダーなども出てます。

0 comments:

Post a Comment