『ザ・ウォーク』



ロバート・ゼメキス監督、ジョセフ・ゴードン・レヴィット主演。綱渡りで有名な大道芸人、フィリップ・プティの実話。
フィリップ・プティと言えば、『マン・オン・ワイヤー』が2008年に公開されてますが(未見)、あれはご本人出演のドキュメンタリーらしい。それに、今回の映画の中心である、1974年のワールド・トレード・センターのツインタワー間での綱渡りは映像にはおさめられていないらしい。

以下、ネタバレです。











途中までは、ストーリーの進み方が予告で見たままをなぞっているだけに思えた。それでも、映像が凝っていて楽しませてもらった。景色を見て、手に持った細いロープを重ね、綱渡りが出来るのではないかと連想するフィリップの様子や、ワールド・トレード・センターの写真にペンで一本線を引く様子を紙の裏から撮るとか(そうすると線を引いている表情も見える)。

また、特に3Dの使い方が効果的でした。個人的には、3Dが生きるシーンというのは、飛行シーンか上からぱらぱらと細かいものが落ちてくるシーンだと思っている。今回は、ぱらぱらはしていなかったけれど、綱渡りのバランスを取るために持っている棒が上から落ちてくるシーンで、思わずビクッとして目をつぶってしまった。3Dでこんな感じになったのは久しぶりである。
テストで飛ばした槍もこちらに飛んできたし、ジャグリングをしているのを上から撮影しているシーンではピンがちゃんと浮き上がって見えた。
最近の3Dは飛び出すというより奥行きを出すのが主流になっているけれど、高いところにかけたワイヤーの上を歩くという行為に距離感の臨場感が生まれ、奥行きであってもリアルだった。

フィリップ・プティはフランス人なんですが、JGLが最初に出てきたときに「この訛り、わかるでしょ?」と言っていて、確かに少し変わった発音で英語を喋っているのがわかった。ただ、他のフランス人キャストの中に混じってしまうと、アメリカ人であるJGLの発音は少し浮いてしまうように感じた。それに、私は彼がフランス人ではないことを知っている。目が青いのも不自然に見えてしまった。それならばJGLでなくても、別のフランス人俳優を使った方が良かったんでは、と思ってしまった。

事前に許可などおりるはずはないからなのか、ツインタワー間の綱渡りはこっそり建設中のビルに忍び込んで、警備員の目をかいくぐり、設営なども密かに行われた。もちろん違法である。
そのため、反対のビルにも人を配置するなど様々な根回しが必要で、フィリップ一人で行うことができる所業ではない。映画内でも“共犯者”という言葉が使われるが、元々の友達や、様々な特技を持った人物が協力者として現れ、まるで銀行強盗でも企むかのようだった。まるでケイパーものである。特に、高所恐怖症のジェフはよくがんばっていた。うまくいったときの喜び方もかわいかった。また、フィリップと同年代の仲間が多かったために、みんなで力を合わせて一つのことを成し遂げる青春ものにも見えた。

クライマックスの綱渡りのシーン、予告の感じだと、釘を踏んだ足の怪我が致命傷になって落ちそうになるのかと思った。けれども、落ちそうになるシーンは見受けられなかった。あったのだろうけれど、記憶にない。
一回目の綱渡りがあっさり終了し、フィリップはなんと反対側へ戻り始める。そして、反対側で警察が待ち受けているのが見えると、綱の上でUターンをしてしまう。
何往復もするし、綱の上で膝をついてお辞儀をしたり、上で寝転んだりして、観ているこちらが、やめてよーもういいよーとひやひやしてしまった。隣りの席の人も、綱渡りのシーンではお祈りポーズみたいになっていた。
カメラも綱を渡っている上から撮ったりするんですよね。上から撮っていて、ぐーっと下に寄っていって上を見上げている人々を撮ったりする。110階のビルの上から下を眺めるのは怖い、けれど、見てみたい…。そんな欲望を叶えてくれる。

フィリップが綱渡りをするのを見て、危ない!と思ったり、足の裏から出血しているのを見て気をつけて…と思ったりするのは、JGLの演技に説得力があるからなんですよね。だって、ワールド・トレード・センター自体がないのだ。だからもちろん、綱もかけられない。それでもちゃんと、見ている側がひやひやする。
また、JGLが実際にフィリップさんご本人に綱渡りの指導を受けたという話も、あのシーンにリアリティを持たせたと思う。もちろん110階ではないけれど、12フィート(約3.6メートル)くらいの高さの綱渡りは実際にやったらしい。3.6メートルでも充分に高い。
彼の身体能力の高さがうかがえる姿勢の良さも、バランスを保つためには重要なのだろう。なので、途中まではJGLでなくても…などと思っていたけれど、やはり彼でなくてはならなかったのだ。

フィリップ役のJGLは、自由の女神の上から、ツインタワーを眺めつつ、全編にわたってナレーションをしている。ワイヤーは渡り終わっていて、けれど、まだツインタワーはある状態。渡ったのが1974年なので、たぶんフィリップさんが24歳の時の話。現在のJGLが34歳なので、その10年後と考えて、1984年とか、それくらいの状態から過去を振り返っていたと考えられる。

彼は渡った時のことを「素晴らしい日々だった」と振り返る。そして、ツインタワーの展望台へのパスを持っていて、普通は期日があるけれど、「“永遠”と書いてある特別パスを貰った」と話す。
そこで、ほのかに寂しそうな顔でツインタワーを見るのが切ない。現在は無くなったツインタワーを。
1974年の綱渡り時にはツインタワーはまだ上のほうは建設中だった。けれど、綱渡りによって、ビルも有名になり、市民にも愛されるようになったと言っていた。それが、あんな形でなくなってしまうとは、もちろん、フィリップさんも知らなかったろう。
最初は無茶な挑戦だっただろう。けれど、もしも、フィリップさんが気持ちを貫かずに諦めてしまったら。ツインタワーはなくなってしまうのだから、後悔してもしきれなかっただろう。

劇中のフィリップは、ツインタワーとも心を通わせていて、まるで人間に対して関係を築くように見えた。人間だって同じだ。いつ、どんな風にふっと消えてしまうかわからない。
永遠なんてないのだ。だから、やりたいと思ったことはやったほうがいい。もちろん映像的な見所の多い映画だけども、そんなメッセージも感じた。

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