『ブラック・スキャンダル』
Posted by asuka at 9:10 PM
ジョエル・エガートン、ジョニー・デップ、ベネディクト・カンバーバッチと豪華出演者が揃っている実話を元にした作品。
FBIとギャングと政治家とが組んで悪巧みをする作品かと思ったけれど、政治家(ベネディクト・カンバーバッチ)が荷担していたのかというのは描かれていない。よって、出番も少ないです。
以下、ネタバレです。
FBI捜査官のコノリーはギャングのバルジャーと同郷の幼馴染みなため、情報屋として雇う。バルジャーはその立場を利用して、野放しのまま犯罪を犯し続けるという話。
なんというか、観ていてもまったくおもしろくならなくて、バルジャーが悪行を重ねれば重ねるほど、それをコノリーが庇えば庇うほど、イライラしてしまった。
FBIの上司や妻は、最初からバルジャーをとりこむことを反対していたけれど、私も反対だったし、最後までその気持ちは変わらなかった。
コノリーは、ことあるごとに「地元の絆」とか、「忠誠心」という言葉を口にしていた。しかし、実際に映像では出てこず、話だけだ。若い頃、一緒につるんでいた頃に何があったのか。それをちゃんと描いてくれないと説得力がない。だから、なんでそこまでしてコノリーがバルジャーに肩入れするのか、コノリーの気持ちがまったくわからずに、彼が独りよがりなだけに感じてしまった。
妻に、何故あの人(バルジャー)と付き合うのかと聞かれた時、「昔からの忠誠心なんだよ! わからないだろうけど」などと逆ギレをしていて、こっちもわからないわと思った。
けれど、もしかしたら、ここで逆ギレしたことに意味があるというか、不当な怒りをぶつける登場人物をそのままにはしないだろうと思って、ここで言い訳や種明かし的に、昔のエピソードを挟んで来るのかと思った。ああ、そんなことがあったなら仕方ないねと思える。序盤に過去エピソードを持ってこないで、あえて終盤で持ってきたんだ…とも思える。このシーンの逆ギレだけでなく、証拠を隠すなどしてバルジャーを庇ってきたことにも納得できる。同情すら抱いてしまうかもしれない。
しかし、別に過去のエピソードなど流れない。もしかして、最後の最後に贖罪のようにして流すのかなとも思ったけれど流れない。
妻には話せないこともあるかもしれない。それは仕方がない。けれど、観客には教えて欲しかった。うちに秘めた想いをこっそり知ることで、共犯者になれる。そうすれば、理解者になれる。
理解者になれればキャラクターを愛せるけれど、考えていることがわからないキャラクターは愛せない。そりゃあ、妻にも愛想をつかされる。
バルジャーもバルジャーで、「町の人気者」とか「根は善人」などと言われていたけれど、そんな様子は少しも見えなかった。「息子と母を亡くしてから人が変わった」と言われていたけれど、亡くなる前からそれほど印象は変わらなかった。亡くしてから凶悪になるならば、弁解の余地もあるし、可哀想とも思う。
悪人でも愛嬌のある悪人ならいいけれど、低い声でぼそぼそと話すバルジャーはこわいだけだった。笑顔もない。手下の恋人を殺し、その手下に死体の処理を任せるというのも血の涙もない。
残忍なギャングとして描きたかったのだろうけれど、だとしたら、尚更、過去の、残忍でなかったころのエピソードが観たい。それがないと、同郷だとはいえ、FBIという役職についた男が慕う理由が見つからない。
ラスト、逮捕される時に悲しげな音楽が流れていたけれど、やっと逮捕されたか!とかスカッとした気持ちにしかなれなかった。バルジャーだけでなく、コノリーに対しても同じ気持ちです。
もしかしたら、三人(かコノリーとバルジャー兄二人だけでも)の若い頃のエピソードを話せる人がいないのかもしれない。実話だから、話せる人がいなければ、映像として作ることもできない。
けれど、公式サイトのプロダクションノートを見ると、“貧しい生まれ”とか“公営住宅に住み、”とか“いじめられていたところを助けてもらった”とか、ヒントとなるようなことはちょこちょこと書いてあった。
それを映像で観たかった。監督の頭の中には過去も映像として出来上がっていて、それを踏まえた上での映画だったのかもしれないけれど、見せてくれないとわからない。三人を使わなくてはいけないのなら、若いメイクをさせたらいい。
過去に地元で何があったのかを描かずに、現在だけで撮るならば、FBIの上司(ケヴィン・ベーコンです)とか、新任捜査官とか、新聞記者の二人(この映画の原作者でもある)とか、正義の人を主人公にして、バルジャーとコノリーは完全に悪役にしてしまえば良かったと思う。共感したいのだ。
それか、兄がギャングであるにも関わらず、なぜか昇進している政治家のバルジャー弟。兄弟の間で、何か施しがあったのかどうかは描かれないのでわからない。
けれど、何かあったとしても、過去が特に描かれなくても“弟だから”という理由ですべて納得できる。コノリーがバルジャーを慕うような意味のわからなさはない。
元々、新聞記者の二人は、ギャングと政治家という、まったく違った道にすすんだ兄弟にスポットを当てて何かを書く予定だったらしい。けれど、兄について調べるうちに、不自然な点が多々見つかり、調査したところ、今回映画で描かれたFBIとギャングの癒着が発覚したのだそうだ。
あと、プロダクションノートで、「二人の人間味を出すために妻を出した」と言っていたけれど、 どうせ妻にも何も話さないなら、妻エピソードをまるまる削って、過去エピソードをやったほうが人間味が出たと思います。
calendar
ver0.2 by バッド
about
- asuka
- 映画中心に感想。Twitterで書いたことのまとめです。 旧作についてはネタバレ考慮していませんのでお気をつけ下さい。
Popular posts
-
アカデミー賞で作品賞、主演男優賞、歌曲賞ノミネート、脚色賞受賞。その他の様々な賞にノミネートされていました。 以下、ネタバレです。 北イタリアの別荘に夏の間訪れている家族の元に、一人の青年が訪れる。家族の父親が教授で、その青年は教え子である。 まず舞台の北イタリアの夏の風景が素晴...
-
ウェス・アンダーソン監督作品。前作の『ムーンライズ・キングダム』は、ブルース・ウィリスやティルダ・スウィントンは良かったし、家の中の撮り方も良かったけど、お洒落映画でしかないかなという感想だった。そのため、今回もかまえてしまっていたけれど、すごく面白かった。 やはり、撮り方な...
-
いわゆるロードショー公開はされない注目作を上映するのむコレ2018にて上映。 今年公開された映画らしい。 あまり内容を調べずに観たので、タイトルと、主演が『ゲーム・オブ・スローンズ』のラムジー役でお馴染み、ウェールズ出身のイワン・リオンだったため、RAFのイギリス部隊の話かと思っ...
-
試写会にて。わかったことと、わからないこと。 以下、ネタバレです。 クーパーがどうやって助けられたのかがよくわからなかったんですが、あの時のアメリアの顔は幻じゃなかった。映画の序盤でワームホールを通る時に、アメリアが“彼ら”の姿を見てハンドシェイクをする。結局“彼...
-
ドルビーアトモスで観たんですが、席が前方だったせいもあるかもしれないけれど、あまり音の良さはよくわからなかった。前回がIMAXだったからかもしれない。 IMAXと同じく、最初のプロモーション映像みたいなのはすごかった。葉っぱが右から左へ。 以下、二回目で思ったことをちょこ...
-
2013年公開。あんまり評価がよくなかったので映画館へは行かなかったんですが、ハリー・トレッダウェイが出ているということで観てみたらおもしろかった! 映画館で観れば良かった。 149分と多少長く、長いわりにエピソードが細切れでまとまってない印象はあったけれど、これも劇場で観ていれ...
-
ほぼ半月あけて後編が公開。(前編の感想は こちら ) 以下、ネタバレです。 流れ自体は前編と同じ。ジョーがこれまであったことを話し、それに対して、セリグマン(今回はちゃんと名前が出てきた。ステラン・スカルガルドが演じている男性)が素っ頓狂なあいづちをうつ、と...
-
IMAXレーザーというと109シネマズ大阪エキスポシティのものが有名ですが、このたび109シネマズ川崎と名古屋にも導入された。そのプレオープンで『ダンケルク』の上映があったので行ってきました。 ただし、大阪のレーザーはGTテクノロジー(旧次世代レーザー)という名称で、スクリーンの...
-
新宿シネマカリテにて、毎年行われているちょっと変わった作品を集めた映画祭カリコレにて上映。 ステファン・ダン監督初長編作品。カナダ出身なのと、同性愛もの、家族もの、音楽がふんだんに取り入れられたスタイリッシュな映像…ということこで、第二のグザヴィエ・ドランというふれこみの...
-
2000年公開。曲や映像づくりなど、とてもダニー・ ボイルらしい映画だった。 幻のビーチに辿り着くまでの話なのかと思っていたけれど、 かなり序盤でビーチには辿り着いてしまう。 そこから物語が展開していくということは、 ビーチがただの天国ではなかったということ。 一人旅の若者が...
Powered by Blogger.
Powered by WordPress
©
Holy cow! - Designed by Matt, Blogger templates by Blog and Web.
Powered by Blogger.
Powered by Blogger.
0 comments: