『ハドソン川の奇跡』



2009年1月に実際に起こったUSエアウェイズ1549便不時着水事故を描く。
監督はクリント・イーストウッド。『アメリカン・スナイパー』に続く実話。
ほぼ全編IMAXカメラで撮影されたとのことで、IMAXで観ました。IMAXが観られる状況ならば、オススメです。

以下、ネタバレです。









バードストライクにより左右のエンジンが停止、機長のサリーは飛行機をハドソン川に不時着させ、乗客155名全員を救う。
最初は救うまでの話なのかと思っていた。けれど、予告編を見ると、救った後で機長が容疑者になったと言われていた。さらに予告編だと、妻が「私はあなたを信じている」というようなことを言っていて、どうやら飛行機事故の後の話なのだなと思った。でも、アクション映画ならともかく、このような人間ドラマで、なぜIMAXカメラで撮影したのかなと思っていた。

サリーにかけられた疑いは、ハドソン川への不時着は乗客を危険にさらした、離陸した空港へ戻るか、他の空港へ着陸した方が良かったのではないかというものだった。国家運輸安全委員会によって、問い詰められていた。

私は単純だから、誰も亡くなっていないのだし結果オーライで今更そんなこと言わなくてもいいじゃないかと思っていた。
サリーだって簡単な決断をしたわけではないから、街中に墜落する悪夢を見たり、空母に乗っている戦闘機を見ると、それに自分が乗って命からがら着陸することを考えてしまう。PTSDになりかけているのだ。
それなのに、外部の人間が安全な場所から言いたいことだけ言う姿には憤りを覚えた。

公聴会のシーンは別にIMAXでなくてもいいんですが、サリーの悪夢の中の墜落シーンは音の迫力もさることながら、大きな飛行機が落ちていく様は大きなスクリーンだとより映えて怖い。
また、悪夢だけでなく、事故の様子もサリーが思い出しているという形で映像が出る。
飛行機からの映像と、飛んでいる飛行機を外側からとらえる映像。どちらも素晴らしかった。川に不時着し、水しぶきが上がる様子も大きいスクリーンならでは。
また、飛行機だけでなく、ヘリや救助するボートなど、いろいろな乗り物が出てくる。それが川に浮かんでいるところを遠くからとらえた映像も、テレビや小さいスクリーンでは見応えがないだろう。
通常版を観ていないからわからないけれど、IMAX版との画角の違いでも見え方が違うと思う。

もっと人間ドラマ寄りのものを想像していたし、妻の出番も多いのかと思ったけれど、妻とは電話をするだけで戻って抱き合うこともしない。もちろんサリーの心の支えにはなっていたとは思うけれど、重点は置かれていなかった。

後半にも公聴会のシーンがある。その中で、参加している全員でブラックボックスの音声を聞くシーンがある。登場人物は音声を聞いているだけだが、サリーと副機長は実際にその場にいたし、状況をありありと思い出す。そして、観客にも映像で見せる。208秒間の緊迫した状況。

公聴会の前にサリーが事故のことを思い出しているシーンでも不時着から救助までが描かれるが、ここでは機内や乗客の様子を中心に描かれていた。
その前に、少しの乗客について、家族との関係などを描くことで、155人がモブではなく、ちゃんと心の通った人間だと示されているのがうまい。ほんの少しの時間でも、乗客について描かれていると、キャラクターに親しみが湧いて、死者が出ていないというのはわかっているのに、より緊迫感が増す。また、自分も機内にいるような気持ちになってしまった。「大丈夫ですよ」と安心させるように言っていた客室乗務員の方々が、本当に危機の時には「衝撃に、備えて!」と声をそろえて言っていた。

それでも、慌てているのは乗客たちだけで、客室乗務員や副機長は冷静な対応をしていた。
また、管制官の男性もトラブルがあった1549便をなんとか救おうと必死になって導いていた。ボートで助けに来た方々も迅速に対応していた。

もちろん、タイミングが重なって、155人が救われたのは奇跡的な出来事だったのかもしれない。サリーも腕が良かったのだとは思う。でも、それだけではなく、その場に居あわせた人々が自分の仕事をそれぞれの場所で必死に、けれど冷静にこなしたことでの結果でもあるだろう。

この、人々がそれぞれの持ち場で仕事をする感じから、『シン・ゴジラ』や『オデッセイ』を思い出した。公聴会とか会議のシーンが割と多く、ウェットな描写が少ないのも『シン・ゴジラ』っぽい。

乗客の描写を入れることでモブに見せないというのもうまいなと思ったけれど、同じ不時着シーンが繰り返されても、外からの描写とコックピットの中だけの描写と、描き方が違うと見え方が違ってくるという構成がうまい。さすが、クリント・イーストウッド。しかも、96分とコンパクトなのもいい。
時間が短いから、サリーが家族の元に帰る様子まで入れることもできたのに、おそらくわざわざ抜いている。多分、入れたとしても、どこかで見たような映像になるだけだから別にいいやと思ったのではないだろうか。大成功だと思う。

トム・ハンクスが人格者の役にハマるのは、『キャプテン・フィリップス』や『ブリッジ・オブ・スパイ』でも明らかである。今回もとても良かった。冷静に、誰よりも冷静に努めようとしながらも、脈拍はいつもの倍、悪夢も見る。ジョギングで道路に飛び出してしまったりと、見た目よりも相当堪えている男を演じていた。
また、副機長役のアーロン・エッカートもすごく良かった。最近はアクション映画への出演が多く、『エンド・オブ・〜』シリーズの大統領もそれはそれで好きだけれど、初期のような演技も見たかった。今回、だいぶ痩せていて、どちらかというとどっしりした印象の機長の隣りにいるとひょろっとしていて頼りなくも見える。けれど、事故の時にも、機長の隣りの席で同じように生きるか死ぬかの状況を味わった。機長のことを一番わかっているのは彼である。もちろんサリーの判断を責めることはなく、どんな時にも一緒に反論して、サリーの味方になっていた。サリーが一人きりだったらもっとおかしくなっていたかもしれないし、副機長に救われた面は多いと思う。いい役でした。


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