『ナショナル・シアター・ライブ:エンジェルス・イン・アメリカ 第二部 ペレストロイカ』




『エンジェルス・イン・アメリカ』の第二部。一ヶ月前に第一部を観て楽しみにしていました(『ナショナル・シアター・ライブ:エンジェルス・イン・アメリカ 第一部 至福千年紀が近づく』の感想)。
先日、オリヴィエ賞のノミネートが発表されましたが、本作はベストリバイバル賞、ベストディレクター賞にマリアン・エリオット、主演男優賞にアンドリュー・ガーフィールド(プライアー)、助演女優賞にデニース・ゴフ(ハーパー)、助演男優賞にジェームズ・マカードル(ルイス)のほか、ライティングデザイン賞と多数の部門で注目されている(再演なので作品賞関連は無し)。

第一部の時には気にしていなかったのですが、ノミネートされているマリアン・エリオットは『戦火の馬』、『夜中に犬に起こった奇妙な事件』の人らしい。両方好きだったので、この作品も好きだということはマリアン・エリオットの他の作品も観たくなる。

第一部よりも宗教色が強くなっていたと思う。
第一部のラストで、天使がプライアーの病室に実際に出てきてしまったけれど、第二部はいろんなシーンで出てくる。
第一部のラストではとても禍々しい存在に見えたが、今回は禍々しくはありつつも、神々しさも感じた。羽根が大きく圧倒される。両方の羽根を数人が操っていて、その動きもリアルだった。

プライアーは天使を見たことで啓示を受けたようになる。預言者とも呼ばれていた。
友人のベリーズに天使を見たことをぺらぺらと話していて、ちょっと小難しくてわかりにくかったんですが、ベリーズが私と同じような反応だったので、そこまで理解しなくても大丈夫なのがわかってよかった。

ただ、天使が置いていった書を天国へ返しに行くのは、モルモン教に『原典を翻訳して天使に返還した』という話そのままだったので、少しはモルモン教のことがわかっていた方がいいのかもしれない。
また、ジョーの母親は敬虔なモルモン教徒ですが、彼女とプライアーも精神的に繋がる。
ただ、別にモルモン教が素晴らしいという話ではなく、ジョーの妻ハーパーやルイスはむしろ嫌っているようだった。

プライアーが天使を見るのも、実際に天使がいるわけではなく、おそらく薬や病気が見せた妄想なのだと思う。夢精とかオーガズムもおそらく副作用のようなものだろう。天使が近づいてきた時に勃起するというのがあって、プライアーが部屋にジョーの母がいるときに、「近づいてきてるんです!わかるんです!理由は言えないけど!」と言いながら股間を隠しているのが可愛かった。

天国へ書を返しに行くのも、現実世界ではプライアーは死にかけていたのだろう。雨に濡れて肺炎になりかけていた。熱も出ていた。
光るはしごを登って行くとそこには荒廃した天国があるんですが、その上下の高さを表現するセットが凝っていました。床の高さを移動させることで人物が上下しているように見える。

また、手前にセックス後のルイスとジョーがいて、後方にジョーの母に着替えさせてもらっているハーパーがいるシーンでは、もちろん、その二組が同じ場所にいるわけはない。けれど、ハーパーは精神安定剤の飲みすぎで妄想をよく見る。妄想でセックス後のジョーを責めていたけれど、実際にはルイスの部屋の様子なのだと思う。妄想が二つの場所を近づけた。

同じように、モルモン教センターでのシーン。ジョーの母はジョーが同性愛者であること、ハーパーをないがしろにしたことに怒ってアパートを売り払い、モルモン教センターで厄介になる。ハーパーもそこに住んでいる。
よくボタンを押すと人形が動いて事柄について説明してくれるものがセンターに置いてあったりしますが、このモルモン教センターにもそれが置いてある。
ハーパーがそれを見ていて、迷い込んできたプライアーも一緒に見るんですが、人形劇の幕が閉まっているときに、ハーパーが「父親の人形が夫に似てるのよ」なんて話すんですが、開くと本当にラッセル・トービーでおもしろかった。ラッセル・トービーの人形演技が素晴らしい。
しかし、そこに横からルイスが現れる。ルイスが人形のジョーと口喧嘩を始めるんですが、これも、実際にルイスがここに来たわけではなく、プライアーが見た妄想だ。しかし、ルイスの部屋で実際に行われたやり取りなのだと思う。ここでも妄想が二つの場所を繋げていた。

プライアーとハーパーは似ているところがある。第一部でも夢の中で会っていたけれど、第二部でも天国で二人は会う。イマジナリーフレンドと呼んでいた。二人とも、まだ生きたいと言って、天国から降りていった。

幕間が二回あるものの、約4時間20分とかなり長丁場なんですが、最後の幕間の時には終わってしまうのがさみしかった。それくらい各キャラクターが好きになってしまった。

でも、ロイ・コーンは第一部でもそうでしたが、怒鳴ることが多く、威圧的で好きになれなかった。怖かった。これも前回の時には知らなかったんですが、実在の人物らしい。隠れゲイだったり、ゲイのくせにホモフォビア(よくいるらしいですが…)だったり、エイズなのを隠して肝臓癌だと言っていたりとすべて真実だったらしい。なんと、ドナルド・トランプの弁護士もやっていたとか。
ただ、好きにはなれなかったけれど、「病気になるとアメリカは列からはずされる」と言っていたが、資格もあっという間に剥奪されてしまい、さみしく死んでいったのはかわいそうでもあった。

ハーパーは信じていた夫が実はゲイ(バイセクシャル?)で男と浮気をしていて…というのはつらくはあったと思うけれど、妄想は彼女の味方だったし、何より、最後はジョーを捨てて一人で飛行機に乗って飛び立つという決着のつけ方が良かった。強い。

ジョーは善人というか、善人であろうとした人なのかなと思う。それでも結局、上昇志向はあったようだし、差別主義者のロイ・コーンに仕えていたし、そのためには同性愛者を陥れるようなこともしていた。
法律では…と繰り返していたけれど、融通が利かないとか堅物というよりは、安全安心な道をただ歩きたかったのだと思う。

ただ、第二部の序盤、ルイスの家に連れて行かれて、「自分には妻がいるから…」と拒もうとしていたけれど、ルイスにがんがんに迫られて落ちちゃうあたりは良かったです。ここはジョーがどうというより、ラッセル・トービーが上手かった。またそこからズルズルとジョー側がルイスにはまっていくのも良かった。ジョーから熱烈なキスをしていた。

ルイスは第一部でも病気の恋人プライアーから逃げていて酷い奴だと思ったけれど、第二部はジョーに迫り、三週間ほどセックスをしたけれどモルモン教徒だとわかって気持ちが冷める。さらに、プライアーの元に行って、被害者面でやり直したいなどと言っていた。本当に酷いと思っていたら、プライアーに「誰が一番厳しい状態なのか考えてみて」と言われて追い返されていた。よく言った。

さらに、ジョーがロイ・コーンの元で働いていたことが発覚し、ただでさえ左寄りだったルイスは、ジョーに怒り出す。ちなみにこの時の喧嘩でそんなに強くはないけれど、ジョーに殴られた(初めて人を殴ったと言っていた)ルイスが床に寝転がる。その奥にプライアーのベッドがずっと置かれていて、その次のシーンのロイのベッドが手前に出てきていた。傷ついたままみんな舞台に残されていた。

ルイスはどうしようもないなと思うけれど、怒ったり泣き叫んだり逃げ出したりと、すごく人間臭い。結局臆病なだけなんですよね。見ていて怒りすらわく部分もあったけれど、プライアーのように強くはなれないし、一番自分に似ているのがルイスな気がして、とても愛しくなった。それに、観た後で一番考えてしまうのはルイスのことです。

ルイスが友人に依頼されて、亡くなったロイ・コーンの病室で、ユダヤ教の祈りを捧げるシーンがある。本当に嫌いだったやつを許す。このことで、ルイスも多少成長したのではないかと思う。

プライアーは視界が狭くなり、足も悪くなり、紫斑も多くなり…と病状が悪化していく。肺炎になりかけのときには自暴自棄にもなっていたと思う。また、例え妄想の中の話だったとしても、書物を返しに行かずに受け入れたら死んでしまったのかもしれない。でも、返しに行って、まだ生きたいと言って天国から帰ってきた。ルイスに関しても、「元のようには戻れない」と言っていたから別れるのかと思ったけれど、ラストシーンでは一緒にいてほっとした。

ところどころでやはり、プライアーを演じるアンドリュー・ガーフィールドが可愛かった。つんつんして強がっているけれど、ふにゃふにゃしているし、天使が現れたら錯乱する。全身真っ黒の妙な衣装もおもしろかった。
最後、退院しておそらく薬物療法をしているのだと思うけれど、発症から四年数ヶ月経つと言っていた。「ルイスと一緒にいた期間より長い」とも。背後に水の出ていない天使の噴水があって、ルイスとベリーズとジョーの母がわいわい話している。いまだにこの三人と一緒にいるのだというのがわかる。
手前側にプライアーが来て、観客に向かって話しかけているのが映画的でもあると思った。プライアーは穏やかな顔をしている。もう錯乱せずに、病気を受け入れて、一緒に生きていこうと覚悟を決めたようだった。強くなっている。「冬は凍るから水を止めているけれど、夏になればまた噴水の水が出る。僕はそれが見たい」というセリフが良かった。おそらく、生きる意志なんてそんなものでいいのだと思う。
また、観客あてに祝福を授けていたので、やはり彼が天国へ行くこと、また天使に会うことでなんらかの啓示を得たのかなとも思う。

ラストシーンは、カメラが斜め上から撮っているのも映画的だった。これはナショナル・シアター・ライブのカメラワークのうまさである。ただ、アンドリュー・ガーフィールドもカメラを見ていたと思うので、撮影が入るときだけの特別仕様だったのかもしれない。


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