『オクジャ/okja』



2017年ネットフリックスでの配信のみのオリジナル映画。ポン・ジュノ監督。
『最後の追跡』と同じく、こちらも映画館で公開されていないのがもったいないが、このような作品が増えていくのだろうか。

ストーリーについてまったく調べていなかったんですが、内容自体はシンプルながら、とっかかりと題材がなんでこんなことを思いつくんだろう…と思ってしまうような意外性があった。内容は全く違うけれど、突拍子もなさは『スノーピアサー』と同じです。

以下、ネタバレです。







舞台はおそらく近未来。食料が不足していて、スーパーピッグという豚を改良した謎の生物を使って食糧不足を解消しようとルーシー・ミランドが会社を立ち上げる。世界の26軒の農家に預け、10年後にどこの農家が一番うまく育てられるかを競わせるというエンターテイメント性も付加して、発表も派手にして、話題性も抜群。しかし、このスーパーピッグは品種改良がおこなわれていたことは消費者には知らされていない。ルーシーの発表会の様子は胡散臭さすら感じられた。ルーシー役にティルダ・スウィントン。57歳ですが、メイクによって何歳にも見えるし、疲れている時には歳をとって見える。人物自体の胡散臭さも彼女が演じるからこそ表現できている。それに、生き生きと演じているのがわかって笑ってしまう。
『スノーピアサー』と同じようなぶっとんだ印象で、ポン・ジュノ監督の彼女に対する印象…というか信頼がうかがえる。

この時点ではスーパーピッグについては謎のままなんですが、ここから10年後に舞台が移る。26軒の農家のうちの一つへ移る。おそらく韓国の山の中。少女ミジャが巨大な生物と戯れている。これが10年経って育ったスーパーピッグらしい。鳴き声は豚っぽいけれど、顔はカバに似ている。乳房は一つ。少女と意思の疎通ができているようだったし、感情もありそう。それに、崖から落ちそうになっている少女を機転を利かせて救うということで知性もある。目が人間の目に似ているのも特徴的だと思った。
ミジャはオクジャと名前をつけて、彼女と4歳から一緒に育って来たようだ。しかも、両親が亡くなっているようだし、山奥なので友達もいなさそうだった。オクジャがミジャの唯一の友達である。

ところが、10年後のコンテストでオクジャが一位になってしまう。ミジャの家にルーシーと同じく胡散臭い動物博士が来るんですが、演じているのがジェイク・ギレンホール。似ているなとは思っていたけれど、あまりにもハジけた役だったのでエンドロールを見るまで自信が持てなかった。
そして、ソウル、それからニューヨークへ連れて行かれてしまったオクジャを連れ戻すミジャの旅が始まる。

ソウルでなんとか取り戻せそうになるものの、失敗…しそうになるところで、動物解放戦線(ALF)が邪魔をする。Animal Liberation Frontとは実際に存在する団体らしく、劇中の通り、かなり過激な行動に出るようだ。動物解放のためには手段を選ばないらしく、テロリスト的な扱いを受けているらしい。それに比べると、劇中の団体はおとなしかったかもしれない。
ALFのリーダー的なジェイ役にポール・ダノ。このポール・ダノはかなり良い役でした。過激な手段に出つつも、ミジャの意見を尊重しようとする。物腰も柔らかい。ただ、いつものポール・ダノのような気弱さはない。意志は強い。
だから、通訳の役割だったALFのKが嘘の訳をした時にも怒って、ボコボコにしてALFを追放していた。

ホテルマンに変装したジェイが、韓国語と英語を併記したプラカードでミジャに物事を伝えているシーンも好きでした。「私たちはあなたが好きです」で締めているところも良かった。一人きりだと思っていたミジャにやっと味方ができる。

オクジャはスーパーピッグの中で、データや見た目から優勝したのだが、そのせいで研究所に連れて行かれてしまう。オクジャの耳の裏にはカメラが取り付けられているのだけれど、このシーンがかなりつらい。
巨大な雄によるレイプ、部位のサンプルを採取されての試食…。これらが、酔った動物博士によって行われる。彼だって、本当は動物が好きだったはずで、人気の落ち込みによって歪んでしまったのではないか。
ただ、オクジャに関しては可哀想とか見てられないとか思うけれど、私は普通に豚肉を食べるし、豚に関してはここまで考えない。この映画はそこに関しても警鐘を鳴らしているのだろうか。製作がプランB(ブラッド・ピットの会社)であり、少し説教くさいこともなくはないのかなとも思う。けれど、おそらくそこが主題ではないかなと思った。

サンプル食べる試食係が三人出てきますが、そのうちの一人が少し気になったので調べてみたら、Cory Gruter-Andrewという子でした。俯いていたので、ルーカス・ヘッジズかトーマス・B・サングスターかと思ったら違った。『Summer of 84』という15歳の男の子4人が肝試し的な冒険をするって映画に出てるみたいで観たい。今年8月に公開されたばっかりのようですが、日本ではやらなさそう。(追記:2019年8月3日より新宿シネマカリテ他でロードショーとのこと)
ネットフリックスで配信されているドラマ、『アンという名の少女』のシーズン2や『ハンドレッド』のシーズン3のE3、4、7、9にも出演しているらしい。

ルーシーの会社の従業員役の俳優たちも豪華。秘書のような役割のシャーリー・ヘンダーソン(相変わらず声かわいい)や『ブレイキング・バッド』のガス役でお馴染みジャンカルロ・エスポジート(相変わらず怖い印象)など知っている顔が次々と出て来る。

スーパーピッグのナンバーワンのお披露目式のパレードが浮かれていて禍々しい。映画最初のスーパーピッグ発表会も空元気と楽しそうな雰囲気で胡散臭かったけれど、パレードはさらに規模が大きくなって、禍々しさだけが際立つ。
スーパーピッグを模った巨大な風船人形、パレードをしている人も豚の帽子を被っていて笑顔で手を振っている。
動物博士はステージではしゃぎまくり、調子のいいことばかりをスピーチするルーシーの後ろで柱に乗ってぐるぐる回って上がっていく様子もいらっとして、何をやっているのか見ていたら、その柱からミジャが出て来た。あの中ではミジャだけがまともに見えた。

ミジャはここでオクジャと久しぶりに対面をするんですが、酷い目に遭ったオクジャはミジャのことがわからない。目が充血していて、やっぱり、オクジャに感情を与えているのは瞳なのかなと思った。
それでも、ミジャがオクジャを信用してあげて、オクジャも正気を取り戻す。ここでは、裏でルーシーたちは逃げ、警察とALFとが揉めてるんですが、ミジャとオクジャにはそれらがまったく関係なさそうだった。二人だけの世界になっていた。

オクジャは解体施設へ運ばれるんですが、そこには無数のスーパーピッグがいる。次々に解体されていく様子はグロテスクで、でもやっぱりここで、豚肉は食べるしな…と考えさせられた。
この施設からはオクジャと、子供のスーパーピッグ一匹だけを救ってミジャは村へ帰る。

おそらく、ALFが正義のように描かれていても(ポール・ダノが良すぎて私が勝手に正義だと受け取ってしまっただけで実際には描かれていないのかも…)、動物を食べるのはやめよう!というのが主題の映画ではないのだ。
かといって、『ブタがいた教室』的な、豚を学校で育てて食べるという教育の話でもない。
主題はあくまでも少女と不思議な生き物の友情だと思う。不思議な生き物の危機を、少女が救うというシンプルなストーリーに、ALFや食品偽造などが関わって来ているだけだ。

というのも、ミジャ自体、魚を捕って食べていたし、おじいさんも鶏の煮物を作っていた。家で鶏を飼っていたから、あれが鍋になっていたのかもしれない。
鶏や魚とオクジャ、何が違うのかというと、やはり感情とか知性という話になるのだろうか。ただ、イルカは頭がいいから追い込み漁は可哀想みたいな話とも繋がって来てしまいそうで、それも違う気もする。

ただ、オクジャというかスーパーピッグは遺伝子操作によって作り出された謎の生物だというのが違うのかもしれない。
ここで思ったんですが、あの目と感情と知性、それに耳打ちをしあったり、「電話をさせて!」と言っていたということは言葉もわかるということで、これってもしかして、人間の遺伝子も入っているのでは…。
映画内でそんなことまでは明かされないけれど、もしかしたら。

エンドロール後、ジェイとKは一緒に出所する。Kがタバコを吸っていて、それをジェイに渡すと、ジェイは靴底でその火を消す。とてもいい関係。

Kについて、裏切り、そして戻ってくるというのはテンプレだとも思うんですが、さじ加減が完璧だった。悪い奴ではないのは、わざと違う訳をして瞬時に後悔していたことからもわかる。困っている時に戻ってくるのも良かったし、これからはジェイにちゃんと従うのだろうし、ジェイも許していた。
最後、ジェイなりALFメンバーがミジャに会いにいくという展開もなくてもいい。ミジャはいままで通り、オクジャと子豚と祖父と穏やかに暮らしていくし、ALFたちは目出し帽をかぶって次の現場へ急ぐのだ。それぞれの日常が続いていくというラストが好きでした。



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