『13 サーティーン/誘拐事件ファイル』



BBCにて2016年放送の全5話のミニシリーズドラマ。
アナイリン・バーナードが出ているということで観ました。
13歳で誘拐された少女アイビーが、13年ぶりに誘拐犯の元を逃げ出して帰ってくるところからスタートする。
アイビーとアイビーの家族や周囲の人物の離れていた期間の時間の埋め方に焦点が当てられていた。単に犯人探しをする話ではなく、誘拐事件という一つの出来事を通して、周囲の人物の心情の変化がつぶさに描かれていて、群像劇的な側面もあった。

アイビーが帰ってきた時点では、家族はばらばらである。父は不倫をしていて別居中、母も父以外の男性と会っているときにアイビーがさらわれたということで罪の意識を抱えている。妹もあれが本当に姉だとは思えない。
それでも、娘が13年ぶりに帰ってきたのだから、元どおりの状態で迎えてあげたいと努力をする。父は不倫相手と別れる、母は過保護すぎるくらい過保護になる、妹は婚約者そっちのけで姉を大切にする。しかし、良かれと思ってやったこれらのことが、アイビーの孤独感を高めることになってしまう。妹も婚約者と不仲になってしまうなど、いろいろな齟齬が生じる。

かつて、といっても誘拐される前の話なので13歳の頃に好きだったティム(これがアナイリン・バーナード)と友人エルとのエピソードも切なかった。ティムはアイビーに寄り添おうとするし、理解者であろうとする。けれど、すでに結婚している。それなのに、アイビーの前では指輪をはずすし、結婚していることを言わないんですね。優しいけれど、ずるい。
しかも、1話では戸惑うように作り笑いをしていたのに、2話では戸惑いも消えてすっかり恋をしている表情になっていた。口調も優しいし、13年間のヒットソングを入れたiPodを渡すあたりが憎らしい。片耳ずつイヤホンで聴くシーンも出てきた。
草原を二人で走るシーンは美しかったけれど、アイビーだけが13歳で時が止まっているけれど、ティムは進んでるんだよな…と思い、切なくなった。二人の時がずれるパターンです。
ティムは結局アイビーに結婚していることを言えないままで、しかも妻であるヤズには「結婚したことを言った」と言っていて、もうこれは優しさではなく気弱でずるいだけだなと思った。当然バレます。それで、アイビーの孤独感はまた強くなる。
けれど、4話になると、「僕はアイビーのことを愛しているかもしれない」などと言い出して、本当にずるいなと思っていたら、友人のエルが思いを代弁してくれた。なんでも、ティムの初恋の人がアイビーらしいが、「あなたはノスタルジーと罪悪感を感じているだけ」と。本当にそうだと思う。アイビーといると、自分も13歳の頃の気持ちになっていたのだろう。純粋で、何も難しいことを考えなくてよかった頃。好きだという気持ちだけあれば十分だった頃。2話の最後、二人で踊るシーンなどは本当にピュアだった。そして、好きだったにもかかわらず、彼女が帰ってくるのを待たずに結婚してしまったことの申し訳なさも当然あるだろう。しかし、それは錯覚だと思うし、何よりヤズはどうするつもりだったのだろう。別れることなんてできなさそうだ。
結局、ティムはアイビーに夢を見すぎていると思うし、妻と別に面倒ごとのない中で好きというのは不倫のような都合のいい関係にも思える。
エルは面倒だから結婚しないと言っていた。性別問わず、関係を持っていて、自由奔放に生きているようだった。けれど、もしかしたらアイビーと一番近くにいるのは彼女かもしれないと思った。エルに関するエピソードは消化不良気味でした。
ティムはアイビーに、「ヤズと会った時に僕は最悪の状態で…」と言い訳をしていた。どう最悪だったのか知りたかったけど、その辺のエピソードは無い。また、ベンチに座って話している時に、手をアイビーの方に出して、自分からは握らずに握らせるのも本当にずるいと思った。
きっと、彼のような優しいけれど気弱な男性は、ヤズのような女性に引っ張ってもらったらいいと思う。アイビーとでは合わなさそう。

アイビーは皆には相手がいるのに自分はひとりきりなことで孤独を実感していく。ただでさえ、13年という長い期間、周囲の人と離れて過ごしていたのだ。そのために、話を聞いてくれた男性刑事にも依存しそうになっていた。
この事件は男性と女性の刑事が二人で担当していて、二人は恋人ではないけれどまあまあ良い関係のように思えた。けれど、捜査方法をめぐって対立していく。
この二人の刑事が捜査大詰めという段階で、犯人を追跡中に事故にあって、一人はICU、一人も大怪我で追うことはできなくなってしまう。終盤で二人が捜査の最前線から離脱する意外な展開に驚いたんですが、そこでも、どうやらこれは犯人探しが主題ではないのだなと察することができた。

犯人の名前は1話ですでに明らかになるし、顔も判明する。
最終話でアイビーはもう一度犯人に監禁されるんですが、そこで、彼女がどんな目に遭っていたかの一端がしめされて、もう本当に気持ちが悪かった。犯人逮捕が主題ではなく人間関係の話だというなら、犯人をここまで気持ち悪くする必要があったのか…。
小さな女の子をさらってきて、16歳になるのを待って、子供を作って、家族になりたいという。彼のこれも孤独なのかもしれないけれど、見ていられなかった。
自分好みのワンピースを着せたり、髪を洗わせたりと、もう描写をするのも嫌なくらい気持ちが悪かった。

アイビーを必死に探すうちに家族は団結、アイビーも逃げ出して大団円といったところではあるんですが、もう1話くらい欲しかった。短いシリーズにありがちなんですが、後日譚が欲しい。
個人的には、エルとアイビーがもっと仲良くなるところが見たかった。

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