『マローボーン家の掟』



“『ジュラシック・ワールド/炎の王国』『永遠のこどもたち』のスタッフが…”と書いてあったので、J・A・バヨナ周りなのだなとは思っていたけれど、『永遠のこどもたち』の脚本のセルヒオ・G・サンチェスが監督。初監督作とのこと。お屋敷ホラーというか、家を舞台にしたあれこれなので、前述2作の雰囲気が色濃く出ているし、特に『永遠のこどもたち』とは共通点も多々あると思います。
J・A・バヨナはエクゼクティブプロデューサー、他スタッフもスペイン人が多いとのこと。
主演はジョージ・マッケイ。妹役にミア・ゴス。弟がチャーリー・ヒートン。友達役にアニャ・テイラー=ジョイ。

以下、ネタバレです。













怖い家に家族が引っ越してくるところから始まるので、家に取り憑いたゴーストに悩まされるものかと思った。『永遠のこどもたち』もこんなスタートでした。
しかし、母親と四兄妹ということで、父親がいない。話を聞いているとどうやら父親から逃れて来ているようだった。DVかな…と思いながら観ていた。でもそれと別に、怪現象も起こっていた。

序盤はDV(?)から逃れ、母親は病床に伏してはいるものの、兄妹は自由に生活を謳歌していた。近所に住む友達もできた。この友達アリー役にアニャ・テイラー=ジョイ。彼女が演じることで、敵か味方かわからなくなるのもおもしろい。服装なども含めてすごく可愛かった。アームストロングの月面着陸のニュースが流れていたので時代はその辺のようだけれど、服装は特にその辺ということもなく、時代背景もそれほど関わらない。携帯がないから行方をくらませやすいというあたりだろうか。

お屋敷の中で鏡を怖がるとか、異音がして何かがいる気配がするというのはお屋敷ホラーの定番であり、『永遠のこどもたち』でも『ジュラシック・ワールド』でも出てきたもの。カラーをよく受け継いでいた。特に、夜に屋根に登るシーンの空が月明かりでぼんやりとなっている様子はバヨナで観た!と思った。
ゴーストが現れた時に兄妹で砦(と彼らが呼んでいる隠れる場所)の中に入るのは、一番小さい弟を楽しませるための遊びなのかなとも思ってしまった。それは秘密基地のようでもあり、兄妹が身を寄せ合って音楽をかけるのは楽しそうにも見えた。怖がっていたけれど。

母が遺したいわくつきの大金など謎がいろいろあるのですが、途中で、追いかけてきた父親を屋根裏に閉じ込めて殺したという事実が明かされる。それで異音が…とも思ったんですが、どうやら生きているらしいと…。死者よりも生者のほうがよっぽど怖いというのも、バヨナ作品ではよく出てくるテーマ。
兄妹が次々と生きている父と遭遇するのですが、ここで、更に父は、過去に強盗殺人で13人殺しているということが明らかになる。
また、序盤で何者かが銃で窓を割り、急に6ヶ月飛ぶんですが、最初は家を奪いにきた弁護士にしては乱暴だったなくらいに思っていて、途中で、父が来てその時に屋根裏に閉じ込めたと明かされる。しかし、もう一つ隠されている真実がある。6ヶ月前のその日、何が起こったのかが明かされる。

長男のジャックは母親からの教えを守り、兄妹を守ろうとする。しかし、相手は大人で父親といえども容赦ない。崖から落とされてしまう。ジャックの頭に傷があるなとはずっと思っていたけれど、これはその時にできたものだった。
そして、気を失ってる間に兄妹たちは父親に殺されていたという。
考えていたよりも数倍つらい真実だった。怖いことがあっても四人で力を合わせて乗り越えてるんだと思っていたが、ジャックは一人だったのだ。兄妹を守ることができなかったことを悔いたのか、ショックでなのか、一人がつらすぎたのか、ジャックは他の兄妹の人格を自分の中に作り出していた。頻繁に気を失っていたのも、頭痛がするというのもすべて説明がついた。また、鏡を隠していたのも、鏡には一人しか映らないという悲しい理由からだった。

鏡は真実しか映さない。それがいいことなのかどうかというのはラストで結論づけられる。
アリーは、怪我をしていたこともあってジャックを病院へ連れて行くのですが、他の人格を消すための薬はジャックには渡していなかった。だって、渡すと三人が消えてしまう。三人との別れは彼にとって決していいことではない。
世間や医者は他の人格を消せと言うだろうし、惨劇のあった家を出ろと言うだろう。でも、ジャックにとっては思い出の家であり、大切な家族なのだ。そこを理解しているアリーは優しい。

それにこれは、この映画の結論でもある。今回はゴーストというより多重人格として出てきたけれど、ゴーストは決して怖いものではない。ゴーストだとしても、一緒にいられるならそれでいいのではないか。生と死が曖昧になるような結末はある種のファンタジーでもあると思う。『永遠のこどもたち』も同じような結論だった。
生きている人に向かって、あの人は死んだのだから忘れなさい、忘れて前を向いて一人で生きていきなさいと言うのが正しいことなのか。死者と仲良くしたっていいではないか。

アニャ・テイラー=ジョイは多重人格者に優しく接する役ということで『スプリット』で演じた役と似ていた。よくここでキャスティングしたなとは思う。ただ、“普通”とちょっとずれてしまった人に優しく接する役が合っているのかもしれないと思った。

ジョージ・マッケイ、私は『サンシャイン 歌声が響く街』で好きになったんですが、今回は日本で観られる映画の中では主演らしい主演だったと思う。多重人格部分ももちろん含めてですが、とてもうまかった。アリーに恋をしていて自転車でいそいそと出かけていくさまは可愛かったけれど、後から考えると泣けてしまう。ジャックに兄妹以外にも繋がりがある人物がいて良かった。
彼は気弱だけれど優しいという役が多いと思う。今回も、兄妹を守ろうとして守れなくて自分が壊れてしまうという役だった。でも、死んでしまってもなお守るという様子はやはり優しいと思う。
時々、すごく色っぽく見える瞬間があるのも気になる。
どうやらワンカットらしいということが明かされたサム・メンデス監督の第一次世界大戦映画『1917』もたぶん主演なので楽しみ。



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