『僕たちのラストステージ』



原題『Stan & Ollie』。BAFTAにていくつかノミネートをされていましたが、日本公開はないと思っていたら、気づきにくいタイトルで公開されていた。実在のコメディアンコンビ、ローレル&ハーディの話。スタン・ローレル役にスティーヴ・クーガン、オリヴァー・ハーディ役にジョン・C・ライリー。
このコメディアンコンビについてはまったく知らなかったのですが、楽しめました。
監督は『フィルス』のジョン・S・ベアード。

以下、ネタバレです。








1937年、彼らがまだまだ好調だったあたりから映画が始まる。ぺらぺらととりとめのない話をしながら撮影所の中を歩いていく二人にカメラがついていく。長回しなのか、その時点で二人の息が合っている名コンビっぷりがよくわかる。そして、16年後の1953年に時代が移る。

二人も年を取っているし、新しいコメディアンは出てくるし、テレビができたのでみんな劇場に足を運ばなくなり、人気が下火になっている。そんな時代の話だった。

二人が舞台に立つシーンは本当に二人の舞台を見ているようで、スティーヴ・クーガンとジョン・C・ライリーであることを忘れてしまった。しかもこの二人は日常からコントをやっているようで、映画自体がコメディータッチになっている。
ホテルにチェックインするシーンと電車に乗り遅れそうになるシーンは、二人が意図してコントをやってるのか(奥さん方を迎え入れるところは意図したコントだったけど)、日常生活を映画内でコメディータッチにしてるのかわからなかった。

どちらにしても、ステージのシーンも日常のシーンも、このスティーヴ・クーガンとジョン・C・ライリーの二人が本物のコンビ、しかも長く活動している息の合ったコンビにしか見えない。演技の上手さに舌を巻いた。演技が上手いだけではなく芸達者である。

また、この二人の奥さんコンビ、シャーリー・ヘンダーソンとニナ・アリアンダのやりとりもコントっぽくなっていた。軽妙さが楽しい。

スタンの脚本がプロデューサーに受け入れてもらえず、映画をやりたいのにできないとか、二人が言い合いの喧嘩をしても、何もわかってない市長他の人々がコントをやっているのかと思って「ブラボー!」などと囃し立てるシーンは、コメディアンの悲哀を感じた。二人は変わらなくても世間とのズレが生じてくるセンチメンタルのようなものを感じた。この物悲しさは、少し『フィルス』にも似ている。

オリヴァーは心臓発作で倒れてしまう。そこからスタンは違う人とコンビを組もうとするがうまくできなかったり、結局、病床に寄り添ってあげていて、友情を感じた。
言い合いをしていたので、このまま別れ別れになって死んでしまったらどうしようかと思ったけれど、そんなコンビではないのだ。あっという間に仲直りをする。
スタンにしても、ここまで何十年も一緒にやってきて、ここにきて相方が倒れて違う人と組むなどできないのだろう。今更である。

最後のステージの時は、スタンの気遣いの表情と、つらそうでも楽しくて仕方ないというオリヴァーの表情、二人のやりきった達成感などすべてが感じられた。
時代の終わりは寂しいものだけれど、必ず終わる時がくる。彼らには後悔がなさそうだった。

57年にオリヴァーが亡くなって、スタンは65年に亡くなったらしく、そこまで長くは生きなかったようだ。それにオリヴァーが亡くなった後も、他にコンビも組まなかったという。

描かれているのは晩年の巡業についてなのだが、この二人の間にしか芽生えていない絆、歩んできた道などが全部見える演技が良かった。
また、ステージのシーンも多いので、古き良きコメディーの舞台を観たような気持ちにもなる。爆笑といった感じではないが、可笑しいし、笑ってしまう。古典的ではあっても、それは心が温かくなるような笑いだった。

原題が『ローレル&ハーディ』というコンビ名ではなく名前のほうの『スタン&オリー』になっているのがとても良いなと思います。

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