『ビューティフル・ボーイ』



主演がティモシー・シャラメなので、最初にタイトルを聞いた時にはティモシー・シャラメが美しいという話かと思ったら、薬物中毒の息子を立ち直らせようとする父親と周囲の人物たちの話であり、タイトルはジョン・レノンの曲名だった。
そして、主演ティモシー・シャラメというよりは、父親役のスティーヴ・カレルとのダブル主演となっている。
監督はベルギーのフェリックス・ヴァン・フルーニンゲン。初の英語作品とのこと。

以下、ネタバレです。








情報を入れずに見たので、実話だということも最後まで知らなかった。父親のデヴィッドの書いた回顧録と息子のニックの書いた回顧録、それぞれが元になっていてほとんどリアルな内容とのこと。
序盤からすでにニックは薬物中毒で行方不明になっていて、施設に入れられる。過去の回想が入るので、この更生施設に入るまでの話なのかと思ったが違った。一度施設に入ったらそれでめでたし終了ではないのだ。施設に入ったところで、一時的に断つだけ。大学に行きたいとの言葉を尊重して行かせれば、結局そこでまた摂取してしまう。
この大学の話も過去回想なのかと思って観ていたが違ったのだ。更生施設はあまり意味がない。

デヴィッドはニックを愛してるし、頭もいいと思っているから本人が勉強したいならそれを押さえつけることはしたくない。悩んだ末だったと思うのだ。それでも結局、駄目だった。裏切られる。

少し『君が生きた証』を思い出した。親だから当たり前に子供のことを生まれた時から知っている。でも子供は大人になるほどに自分の意志を持ち、勝手に行動し始める。別々の人間だからコントロールすることなんてできない。
なるべく力になりたいし、正しい方向へ導いてあげたいと思っていても、干渉しすぎると反発もされるし、親から見たら子供でも子供自身は自分で自分をちゃんとコントロールできていると思っている。

ニックが薬物にはまった原因は何とははっきり示されないし、そんなものなのだろうと思う。
両親の離婚の影響はあるのだろうか。子供の頃に離婚したみたいだし、多少はあるのではないかと思ってしまう。性格形成の一端を担っていそうだった。
好きなものがニルヴァーナやデヴィッド・ボウイなどというのも関係あるのだろうか。ニルヴァーナは『Territorial Pissings 』が使われていて、車の中で絶叫して歌っていた。彼の思想を作るものだったのかもしれない。また、エンドロールで彼の好きな詩が朗読されるが、それもまた孤独感が滲み出ているものだった。

最初は大麻から始まって、そのうちに強いドラッグに移行し、最後はクリスタル・メスを使っていると言っていた。
クリスタル・メスを使うと脳の神経が死ぬとか、その副作用についても説明される。かなり詳しく説明されていて、薬物乱用『ダメ。ゼッタイ。』映画でもあるのだろうと思った。子供をオーバードーズで亡くした親たちの会の様子もだ。
このあたり、プランBらしいというか、いい意味での説教くささを感じた。
しかし、ドラッグを使った時の描写も多く、ハイになっているニック、というかティモシー・シャラメがかなり魅力的で、興味もわいてしまうのはどうなのかと思う。
ティモシー・シャラメは体重をかなり落としたらしく、裸だと肋骨が浮き出ていた。
スティーヴ・カレルは先日観た『バイス』とまったく違っていて驚く。『バイス』『フォックスキャッチャー』『バトル・オブ・セクシーズ』あたりは破天荒な役で演技も大袈裟だったりするのだが、今回のような人格者というか、抑えめの演技もできるのが本当に素晴らしい。
もともとはマーク・ウォールバーグとウィル・ポールターだったらしく、そのパターンも観てみたかった。ティモシー・シャラメは美少年すぎて、この人が人生うまくいかないの?と疑問にも思ってしまった。でも、繊細さと弱さはティモシー・シャラメのほうが合っているかもしれない。

ニックはドラッグを断ち切ろうという気持ちもあったようだった。特に、デヴィッドの家で幼い妹と弟と遊んでいる様子は明るくて、このままなら立ち直れそうだと思った。しかし、そう簡単にはいかないようだった。
家から去った後で、デヴィッドが『少し落ち込んでるようでしたね。いつでも相談してください』とメールを送っていた。楽しいことが起これば起こるほど、それが終わった後に一人になった時に耐えられない。それがデヴィッドにはわかっていたようだった。
ニックはあのままデヴィッドの家にいることはできなかったのだろうか。もう自分だけがよそ者という気持ちになってしまったのだろうか。大人なのだし、いつまでも親に甘えてはいけないと思ったのかもしれない。

結局、その帰りに昔、通っていた遊び場に行く。そこに昔の彼女がいるんですね。ここも脚色無しなのだろうか。落ち込んでる時に昔好きだった女の子がいて、ドラッグを進めてきたらやってしまうのは仕方がないと思う。孤独感を紛らわすにはそれしかない。
でも、そこから再び転落していくニックは見ていられなかった。勝手にしろと思ってしまったし、デヴィッドも愛想をつかしていた。
ニックが扉を壊して家に忍び込んだ後には、デヴィッドの新しい妻のカレンが泣きながら追いかけていた。
カレンにとってもニックは息子だし、助けてあげたいという気持ちももちろんあったとは思う。けれど、それよりも、あんたがそんなだと夫はあんたにばっかり構うのよ!という怒りを感じた。個人的にはデヴィッドの親ならではの大きな愛よりも、カレンの怒り混じりの愛のほうに涙が出た。

結局、ニックは過剰摂取でERに搬送され一命を取り留める。その後、現在に至るまで、8年間クリーンなのだそうだ。
映画内でも文才があると言われていたが、Netflix『13の理由』の脚本も2エピソード書いているらしい。

アメリカでは50歳以下の死亡理由の1位がオーバードーズとのこと。日本では違法だし、薬物がそこまで蔓延していないから違うだろう。大麻くらい合法にしてもいいのではないかと思っていたこともあったけれど、ニックの様子を見ていると転げ落ちる原因にはなるのかもしれない。

タイトルの『Beautiful Boy』はデヴィッドが幼いニックに歌う子守唄として使われていた。本作は音楽にも注目していて、ニルヴァーナの『Territorial Pissings 』は納得したけれど、マッシヴ・アタックの『Protection』は私があなたを守るという歌詞なので、歌詞付きでどこかデヴィッドの心情と重ねて使われるのかと思っていたが、違った。そんなセンチメンタルな使われ方ができるほど甘い話ではなく、もっと重く、つらい話だった。『Protection』はニックの部屋で流れていた。ニックはマッシヴ・アタックも好きなんですね。趣味が合う。

好きな音楽と薬物乱用の関係なんぞわかりませんが、日本でももっと薬物が出回っていたら、ここがアメリカだったら、などと考えるともしかしたら私もニックのようになっていたかもしれないとも考えてしまった。

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