『水の中のナイフ』


EUフィルムデーズ2012にて。EU各国の映画が観られる映画祭です。ポスター(?)からはデンマークの『ポートランド』という作品も気になった。『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』の監督の、長編デビュー作らしい。時間が合わず観られませんでした。ソフト化もされてないだろうし、残念(調べてみたら、VHSでは出ているみたい)。他にもいろいろと珍しい国の映画が気になったけれど、ロマン・ポランスキー監督の長編処女作ということで、『水の中のナイフ』にしました。ポーランド語です。

1962年の映画ですが、いま観てもとても面白かった。水の上のボートという逃げ場のない場所を舞台にしてるワンシチュエーションもの。出演者も富豪の男性、その妻、若者の三人きりです。芝居にも向きそう。この前観た、『おとなのけんか』とも似通っている部分がある。
撮影方法も俯瞰でとらえる画は少なく、ボートに一緒に乗っているような画が多い。あたかもボート上が世界のすべてであるかのようなカメラワークだった。

ワンシチュエーションもので重要な役割を持つ会話のテンポが心地よく、観ていて飽きさせない。また、ワンシチュエーションですが、その提供されている場所がとても狭いのもスリリング。水に落とされるのではないかとか、そんな狭いところでナイフを出さないでくれとヒヤヒヤした。加えて、駆け引きを感じさせる会話で、一触即発ムードになったりもする。
そんな中で、序盤は無鉄砲な若者をたしなめる富豪、両方に理解のある妻といった感じの関係性が、物語が進むにつれて少しずつ変化していくのもおもしろい。
以下、ネタバレありです。








原題は『Nóz w wodzie』。読めないし、当然意味もわかりませんが、『水の中のナイフ』という邦題の付け方は良いと思う。「森を歩くときにはナイフで道を切り開く」と若者は言っていた。つまり生きるのにナイフは必要だった。しかし、水の上では進むのにナイフが必要の無いことがわかって、新しい価値観を知る。そのナイフが水に捨てられてしまって、最初は大慌てで水中に探しに行くけれど、結局見つからなくても未練はないようだった。わかりやすい若者の成長譚。

言葉の一つ一つに裏の意味が隠されていそうで、字幕を考えながら読んでいたんですが、これは字幕を担当した方がうまかったのかもしれない。「肌を与える」という字幕が出てきて、今では見かけないけれど、趣があっていい表現だと思った。他にもいろいろと昔ながらの言い回しがいくつか出てきて新鮮でした。いつ付けられた字幕なんだろう。

若者役の人が少しユアン・マクレガーに似ていた。『ゴーストライター』の主演がユアンだったし、監督好みの顔なのかもしれない。

EUフィルムデーズは東京国立近代美術館フィルムセンターでやっていたんですが、大人500円という素晴らしい価格設定だった。映画館というよりはホールのようだったけれど、映像の上映に適している空間でもあると思う。他の企画もいろいろやってるみたいだし、また行ってみたいです。

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