『最終目的地』
Posted by asuka at 1:39 PM
アメリカでは2008年公開というから4年前の映画だったんですね。
アンソニー・ホプキンスの恋人役を真田広之が演じているという情報だけしか知らずに観に行ったのですが、最初、登場人物の相関図がよくわからなかった。作家の伝記を書く許可をもらうために、青年が家族がいるウルグアイへ向かうのですが、アンソニー・ホプキンスが作家なのかと思った…。
以下、ネタバレです。家族の関係性くらいは頭に入れていったほうが、話に入っていきやすいです。
アンソニー・ホプキンスは死んだ作家の兄、その恋人が真田広之。そして、作家の妻と作家の愛人と愛人の娘が一緒に暮らしています。
それぞれ個性が強くて、ギスギスした空気が漂っている中に、見た目普通の少し冴えない、聡明な彼女に愛想をつかされ気味の主人公がやってくる。彼がうまく風通し役になる。
主人公の青年はそれほどでもなかったけれど、主要人物四人の演技が上手かった。ゆったりしていて渋めな話なだけに、役者さんたちの演技力が際立っていた。
真田広之、いいですね。英語もうまいし、演技もナチュラルでした。ふわっとした優しい役柄も合ってた。全裸で寝てるシーンもあったけど、いやらしくない。
アダム(アンソニー・ホプキンス)とのエピソードも良かったです。アダムはピート(真田広之)を自分と一緒にいても幸せになれないと考えて、彼を解放するために金を工面しようとする。それを知ったピートは「僕はもう40歳だ! 25年間一緒にいたのに!」と怒る。
そりゃ、アダムみたいな爺さんからしたら、まだまだ若者に見えるかもしれない。でも、40歳は立派な大人で、自分の意思でなければ近くになどいない。嫌ならとっくに自分から離れている。その辺の事柄もちゃんと口に出さないと、はっきりと相手には伝わらないんですね。25年間の中でなあなあになっていたことが、解消された。
主人公の青年・オマーが言われるがままにアダムの宝石を密輸していたら、金は出来たかもしれないけれど、犯罪者として捕まっていたかもしれない。また、ピートがそんな方法で作った金を手切れ金として受け取ることもないだろう。
オマーが蜂に刺される事故があったから、彼の彼女のディアドラがウルグアイへ来た。ディアドラがアダムからの密輸依頼をオマーに代わって断ったことで、結果的に事態が良い方向へ大きく進んだ。すべてが繋がっている。
そして、その宝石をピートが犯罪ではない方法でさばいて金を作り、本当に金が必要な人物へと渡す。
常に眉間に皺を寄せ、居心地が悪そうだった作家の本妻のキャロライン(ローラ・リニー)。真に解放されたがっていたのは彼女で、その辺も、義理の兄であるアダムと昼間から酒を飲みながらゆったりと会話をする中で明らかになる。金を渡すのと引き換えに、土地の権利を譲り受けることで、キャロラインは家を出られる、ピートは土地を有効利用できるという誰もが納得の結果になった。
シャルロット・ゲンズブールは、『アンチクライスト』が強烈だったせいもあるのかもしれないけれど、幸薄顔/愛人顔に見えた。今回も愛人役がよくハマってました。彼女のいるオマーを好きになってしまい、またしても…という感じではありますが、最後は強さみたいなものを供えた幸せな顔になってただけに、幸薄顔/愛人顔も演技なんでしょうか。着ていた古着風のワンピースも可愛かったです。
静かながらも映像で登場人物の気持ちが察することができるシーンがいくつもあった。
ベッドに寝ているオマーにディアドラがレースのカーテン越しに話しかけるシーン。顔の表情が透けて見えるような薄いカーテンではあるけれど、二人の間を隔てているものはそれ以上に感じられる。この二人の関係はもう終わりなのだと思う。
蜂に刺されたオマーを見舞うために、アーデン(シャルロット・ゲンズブール)が運転する車の助手席にディアドラが乗っている。多数の牛が車の前を横切って、気まずい時間が流れる。どうにも手持ち無沙汰になったのか、アーデンは「医者が私をオマーの彼女だと勘違いして…」といま話さなくてもいい話を切り出す。間が持たないときって余計なことを話してしまいますよね。痛いほどわかる。
ラスト前のシーンの大雨は、少しありがちというか演出過多だったかもしれない。でも、アーデンに追い出されて、アダムとピートのところに駆け込んでアドバイスを受けるのは好きでした。あのシーンが晴天だったら、オマーはそのまま帰国してしまったかもしれない。
数年後の様子もまた良かった。
キャロラインがオペラ鑑賞に来ている。眉間に皺も寄っていないし、ひっつめていた髪の毛を下ろしていて、雰囲気が優しく変わっている。隣りにはパートナーらしき男性がいて、幸せそう。
ここで偶然会うのがディアドラだというのもおもしろかった。ディアドラの隣りにもパートナーがいる。コロンビア大学で教授をやっているらしく、彼女らしいエリートコースを驀進中のようだった。そして、いま住んでいる場所が近いことを話し、電話番号を交換する。なんとなく気が合いそうにも見える二人の再会はこの先に繋がりそうだった。
絡まっていた糸が解けて、すっとすべてが収まるべきところに収まって、幸せな結末を迎える。最終的には、複雑だった人間関係も納得のいく形になっていた。なるほど、そこが彼らの“最終目的地”なのだ。
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