『バグダッド・カフェ〔ニュー・ディレクターズ・カット版〕』


1987年公開作品ですが、今回観たのは〔ニュー・ディレクターズ・カット版〕ということで、監督が色彩と構図を多少変更したもの。2008年のカンヌ映画祭で上映され、日本でも2009年とわりと最近上映されたらしい。
有名作ですが、タイトルを聞いていただけで、内容はまったく知らないまま、今回初めて観ました。

一言で言ってしまえば、とても雰囲気の良い映画。ゆったりと流れる時間と風景と音楽。ずっと観ていたくなる。ファンが多いのも納得。
ストーリー自体も重大事件が起こるわけではない。しかし、最初は痛いくらいにひりひりと乾いた空気が、一人の人物の登場によって、少しずつゆっくりと和らいでいく。

序盤、ブレンダがヒステリックに喚き散らし、果ては夫を追い出してしまうシーンで、これは観ていられないと思った。不快な想いに頭痛がするほどだった。しかし、夫が本当に出て行ってしまうと、こっそりと涙を流していて、この人は悪い人ではなく、不器用なだけなのだと察することができた。ヤスミンがカフェや事務所を片付けたシーンでも怒っていたけれど、結局、自分のほうがおかしいことにすぐに気づいたり、ブレンダの子供がヤスミンに懐いたあとも、「自分の子供と遊びな!」とガミガミ言ったあと、すぐに「ごめん、言い過ぎた」と謝りに来ていた。

このヤスミンという女性がとても魅力的だった。ドイツからの旅行者でカフェ併設のモーテルに泊まるうちに、カフェの住民に溶け込んでいく。この女性がふくよかなのがまたいい。優しそうだし包容力がありそう。

ラスト付近のミュージカルのようなシーンの多幸感も素晴らしい。かつて閑散としていて、常連さんがぽつりぽつりとしか訪れなかったカフェは満員御礼。お客さんを巻き込んでの合唱と合間に挟まれる手品ショー。一緒に手拍子をしたくなる。

なんとなく、アート映画の印象があったので、もっと高尚でわかりにくいものを想像していたけれど、そんなことはまったくなかった。クスっとしてしまう小さな笑いがふんだんに取り込んであったのも好印象。有名作にはちゃんと理由があるのが良くわかった。


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