『アルゴ』


ベン・アフレック監督・主演作。偽の映画を制作し人質たちをロケハンに仕立て上げるという、小説よりも奇なる事実、CIAによるイランでの人質救出作戦を題材にしたあたり、まず目の付け所が大正解。これで映画がおもしろくならないわけがない。
ベン・アフレックが手がけた前作『ザ・タウン』は、いい映画だけど手堅いというか、少し地味な印象だった。しかし、今回は堅実さだけではない面も見られる。それでも、彼の高潔さとか生真面目さ、正しさみたいなものはちゃんと残ってるあたりが、監督としてのカラーを確立させた感じもする。
以下、ネタバレです。







実話なのでネタバレといっても、脚色はあると思いますが事実の通りです。私はその事実をまったく知らない状態で鑑賞したため、最後の最後までどうなってしまうのかわからなかった。

終盤の空港以降のシーンのつくりが特に素晴らしい。空港とCIAと映画スタジオをぱっぱっと切り替えながら状況を見せていくことで、リアルタイムにすべてが絶妙のタイミングで進んでいくのがわかる。どこかが少しズレても駄目になる、このギリギリの状況は観ていて本当にハラハラした。ラストに向かっての畳み掛けるように次々とピンチが訪れ、それを回避して…という展開は、くちびるかんで観てました。手に爪の跡も付いた。
飛行機が飛び立ち、イランの領空を出たシーンでは、これ以上ないというほどのカタルシスが訪れて、拍手をしそうになってしまった。終盤の演出は本当にうまくて、感心しながら観てました。120分が短く感じられるほどだった。

しかし、それだけではなくて、序盤の画づくりもおもしろかったです。ざっと歴史をおさらいするのですが、漫画のコマと報道のような映像が混ざっていて、重い事実を重苦しく見せず、テンポ良く辿っていく。フィクションとノンフィクションの境界が曖昧になっているのは、この先起こる奇妙な人質救出作戦へ向けての布石にも見える。

また、その序盤のあたりでは、歴史をまったく頭に入れてこなかったことを後悔して、もしかしたら難しい話なのではないか、予習してくるべきだったとも思ったけれど、監督・主演であるベン・アフレックが登場したあたりから、ストーリーに軽快さが加わる。
緊迫した状況ながらもそれだけではなく、偽映画製作現場での笑いの取り入れ方も良かった。特に、脚本の読み合わせのシーンはうまかった。淡々と声明文を読み上げるイラクの女性と、宇宙人のような奇妙な衣装でSF脚本を読み上げる偽映画のキャスト陣が、時に混ざりながら交互に映る。偽映画パートは呑気にやっているようにも見え、笑いも起きるが、実はこれは重要な作戦の一環だというのが思い出され、観ている側も気を引き締められる。この辺のさじ加減は監督の手腕によるものだと思う。

こんなのを見せられたら、ベン・アフレックの監督としてのこの先にもとても期待してしまう。もちろん、題材選びも良かったと思いますが、展開や演出も本当にうまかったし、これをベン・アフレックが?と思うと、贔屓目でよりうまく感じられた。文句無しにおもしろかった。

また今回、役者としてもとても恰好良かった。髭と長めの髪で野暮ったい外見ながらも、目が使命感と正義感に溢れたようにきらきらしていた。ただ、その髭や長髪が、顔の輪郭を隠すのに役立っていて恰好良く見えたのでは、という説もあるようですが…。

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