『奇跡』
Posted by asuka at 2:02 PM
2011年公開。最初にジェイアール東日本企画の文字が出るんですが、JR九州とジェイアール東日本による九州新幹線全線開通記念の企画ものとのこと。
両親が離婚して、母方と父方に別れて暮らす兄弟の話という情報しか知らなかったので、『そして父になる』のような家族ものなのかと思っていたけれど、どちらかというと子供たちの冒険映画でした。もちろん家族ものの側面はありつつも、子供主体だし、学校でのシーンも多い。
『そして父になる』でも両方の家の子供がいきいきと描かれていたが、今回は子供中心なので、より一層輝いている。そして、『そして父になる』の子たちよりも少し大きいので、しっかりとした意見を持っているあたりも面白い。
主演がまえだまえだなんですが、名前となんとなくお笑い?みたいなところまでしか知らなかったのも良かったのかもしれない。先入観がまるでなかった。姿見たのも初めてでした。
この二人はやっぱり少し慣れているのか、ちゃんと演技をしている部分もある。天真爛漫で場所にすぐに適応しちゃう弟と、いつまでも元の家族と元の生活が忘れられないしっかり者の兄。しっかりキャラクターも作られていた。そして、そのキャラクターが二人に合っていて良い。
電話で空気を読まずに野菜の話をするところや、女の子に囲まれているところなど父親に似ているし、新幹線に乗る金の工面の仕方も兄がおもちゃを売ったりしているのに対して、弟は直接父親に交渉するなどシンプル。兄弟の性格の違いがよく出ている。
演技をしているシーンも良かったけれど、たぶん勝手に喋らされているんだろうなと思うシーンも良かった。
大 きくなったら何になりたい?という夢について、丸くなって話すシーンや、はじめての熊本の町を散策するシーンはまるでドキュメンタリーのようだった。子供たちがかたくならずに素の表情で映っている。熊本で知らない人の家に泊まった夜のまるで修学旅行のようなはしゃぎっぷりも良かった。
新幹線がすれ違う時、子供たちがそれぞれの願い事を叫ぶけれど、その願い事でそれぞれの性格がわかりやすかった。
「女優になりたい!」と叫んだ子は、たぶん願いを叫んだことで自分の心がかたまったのだろう。家に帰った後、東京へ行くと親に宣言をした。
先生と付き合いたいと言っていた子は、結局は「父ちゃんパチンコやめてー!」と叫んだ。一番の願いはそれだった。
飼い犬が死んでしまった子は生き返ってと叫んだが生き返らなかった。それで死を受け入れたのだろう。
弟が叫んだことで、父親のバンドが番組に出ることになった。奇跡もちゃんと起こっていた。
そして、兄は「桜島火山が噴火して鹿児島に人が住めなくなって、また家族が一緒に暮らせますように」という願いを結局口にできなかった。「家族より世界を選んだ」と言っていたが、一つ大人になった。鹿児島の自分以外の人々のことも考えられるようになった。
別れ際に弟に「父ちゃん頼んだで」と言っていたので、もう家族は元に戻れないというのを受け入れたのだろう。
新幹線に乗るだけで、小学生にとっては大冒険なのだ。冒険をして、みんなきちんと成長している。
子供主体の作品ではあるけれど、この大冒険はいい大人たちに囲まれていなかったらなし得なかった。お母さん、おじいちゃん、保健の先生、老夫婦など、周囲の大人たちのサポートする様子の描き方も素晴らしかった。
子供たちが願い事を叫ぶ前に、モチーフ映像が連続して出てくる。
ポテチの袋に残ったカス、体温計の液晶に映る40.1度、桜島噴火の絵を描いたあとの茶色赤黒の絵の具の乗ったパレット、老夫婦の家で出前でとった親子丼、灰にまみれた水着のパンツ、自販機の下の100円玉、地面に棒でかかれたバッターボックス、フラダンスの指先、 死んでしまった犬のマーブル、駅にいた幸せそうな四人家族の後ろ姿、一口かじった鹿児島特産和菓子かるかん、自転車のベルを先生が指で魅力的にはじく様子、出発進行の駅員さんの指先、手の平に乗せたコスモスの種、笑顔の兄弟が二人一緒に写ってる写真、父親のインディーズCDのジャケット…。
これらはそれぞれ、映画内では映っていなかったものだ。自販機の下でお金を発見するシーンは出てきた。ポテチの袋に残ったカスが一番おいしいという話は出てきた。脇の下で擦ると体温計の温度が上がるから仮病に使えるという保健の先生のアドバイスは出てきた。だけど、実際には100円玉もポテチの袋の中も体温計の液晶も、その場では出てこない。
人物の顔が映らない、何気なく切り取られた写真のような映像ながら、本編で起こったいろいろな出来事をまとめて思い出すことができる。
この本編関連モチーフ映像は『ゴーイング マイ ホーム』のエンディングでも、手の平に乗せたもみじ、餅ピザが出来上がったところ、子供からのおじいちゃん退院祝いのカードなど同じ形で出てきた。撮影が同じ山崎裕さんでした。
途中で流れるギターインスト曲がおしゃれで良かったんですが、挿入歌でくるりが流れて、もしやと思ったらエンドロールで流れる曲くるりで、音楽はくるりでした。おそらく、電車と言えば、という感じで抜擢されたのだと思う。
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