『地獄でなぜ悪い』


園子音流の少し血が多すぎるコメディ。最近、どちらかというと社会派な映画を撮ることが多かったけれど、監督を数話でつとめているエロコメドラマ『みんな!エスパーだよ!』が面白かったため、期待してました。
やくざの組長が獄中の妻のために映画を作るということで、『アルゴ』っぽいのかなと思ったらそうではなかった。

トロント国際映画祭でミッドナイト・マッドネス部門というよくわからないあやしそうな部門の観客賞を受賞しているらしい。

以下、ネタバレです。





親に反抗する組長の娘、その娘に恋する男、対立する組同士、映画一筋の男、その男と長年つるんできたが疑問を感じ始めた主演俳優…。登場人物たちがそれぞれ別の方向をむいている。しかも、キャラクターが濃いのでまったく収拾がつかない。
前半はカット数が多く、ちょこまかと落ち着かない。しかし、一つの出来事に向けて話が動いていくのがわかる。

その出来事というのが、本作のクライマックスでもある討ち入りシーンを映画に撮るシーン。バラバラだった全員があれよあれよという間に、冗談みたいに巻き込まれて集結していく。その過程にはわけのわからないスピード感がある。

両者が入り乱れて日本刀で斬り合うシーンを撮影していく(混ざるので片方が和服を選んだのだと納得)。しかも、カメラマンも音声さんもやくざという冗談だか本気だかわからない画面。
斬りつけて大量に血が吹き出るのでエグさもあるけれど、首が吹っ飛び、手首が吹っ飛び、頭に刀を刺されても死に体で動いている姿などを見ていると、だんだんギャグに思えてくる。行き過ぎた描写で残虐性が排除されていて、見ていて痛さを感じない。

出演者の殺陣の恰好良さと、大人数の斬り合いと、室内を真っ赤に彩る血液と、その中で大興奮で撮影し続ける映画仲間ファックボンバーズ。映像からものすごいパワーみたいなものを感じて圧倒的される。
『愛のむきだし』の満島ひかり登場シーンや、『冷たい熱帯魚』のでんでんを思い出す。理屈抜きで映像に釘付けになってしまう、あの感じが戻ってきた。

セリフが変に芝居がかっていたり、主演俳優にブルースリーの黄色いトラックスーツを着せたりと、ファックボンバーズの監督平田はかなりコミカルに描かれている。
そのため、こんな監督が日本の金をかけた映画のことを嘆いたり、映画のことを熱く語っていても、映画讃歌なのか、その様子を馬鹿にしているのかわからない。
園監督自身ももうそれほどマイノリティでもない気がするし、園監督の言葉を代弁しているのではないかもしれない。
とにかくすべてにおいて、冗談と本気の境目がわかりづらい映画なので、平田というキャラクターのとらえ方もどうしていいかわからなかった。

しかし、ラスト、自分も撃たれながらも、ふらふらの状態でフィルムと音声を回収して「ヤッター!」と叫びながら夜道を走る様子は、冗談ではなく本当の映画バカだし、そんな姿は妙にエネルギッシュで、観ている側は元気になれる。

小さい場末の映画館はもう開店することはないし、首をはねられた組長は、首に包帯巻いて実は生きていましたなんてこともない。拍手は起こらない。それでも夢は見ていられる。

やくざモノと映画愛に満ちた青年たちの青春物語をよく混ぜたと思う。しかも、全員一癖も二癖もあって、まともな人が出てこないのに、よく一本の映画にまとまっている。
まさに、唯一無二、こんな脚本みたことないです。

更に、エンドロールの最後に、“監督・脚本・音楽:園子温”と出て驚いた。音楽も園監督でしたか。
ということは、あの耳に残る劇中内CMソング♪全力歯ぎしりレッツゴーもかな、と思って調べてみたら、作詞作曲ともに監督自身によるものでした。頭の中で延々と流れてしまう感じがCMソングとして非常に優秀。

映画館で音が結構大きかったんですが、バルト9だからか映画の方針なのかは不明。でも、大音量で観て気持ちのいい映画です。 



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