『LIFE!』


ベン・スティラー監督/主演。てっきり、脚本もベン・スティラーなのかと思っていたけれど、もともと原作小説があり、1947年に映画化もされていて、今回はリメイクとのこと。
原題は『The Secret Life of Walter Mitty』で、登場人物名が入るものは邦題にはなりにくい印象なので、仕方ないかなとは思うけれど、ちょっと検索はしにくい。

以下、ネタバレです。







主人公は“LIFE”というNEWSWEEKのような雑誌の現像部で働いているが、雑誌をオンライン化するため廃刊、人員整理に巻き込まれる。このあたりは今の時代ならではだと思うので、原作だとどうなってるんだろう。
その廃刊にあたって、最終号の表紙にカメラマンが写真を指定してきたのだが、そのネガが見つからない。そこで、ネガを探す旅=カメラマンを探す旅に出かける。
写真の現像をする部署だから当然職場も暗い。恋人紹介サイトのプロフィールに書く内容もない。
そんな彼が、カメラマンショーンの写真を見て、誘われるように、一念発起して旅立つシーンがいい。歴代のニュースが表紙を飾った雑誌のパネルの前を走り出 す。自分の目で見よ、みたいな、“LIFE”という雑誌の信念が、映像内に組み込まれる様子はビデオクリップのよう。オープニングのタイトル名や後で出 てくる同僚からのメールも同じ手法が使われていた。
この一念発起のシーンで流れている曲がアーケイドファイアの『Wake up』。主人公ウォルターを後押しするような、勇気づけられるような曲調が、とてもよく合っている。

この少し後に、別の場所へ移動するのに、酔っ払いの運転するヘリコプターに思い切って飛び乗るシーンがあるんですが、ここでウォルターは同じように曲に後押しされる。ここで使われているのが、デヴィッド・ボウイの『スペイス・オディティ』。ウォルターが片想いをしている女性が歌っている妄想を見るので、正しくは歌だけでなく女性にも後押しされているけれど、本当によく合うし、名曲具合が際立つ。女性の声に、ボウイの声が重なるのも良かった。
ウォルターの場合はロケットではなく、簡素なヘリコプターではあるけれど、lift offもする。飛び立って地上を見て、ここから本当に冒険が始まる。
思い出しても少し涙ぐむくらいいいシーンだった。
この曲は1969年にリリースされたらしいので、リメイク元では当然使われていない。

ネガとカメラマンを探す旅は、少しずつ手がかりを見つけ、居場所が明らかになっていく。謎解きものというか、ミステリーの要素もあるのが楽しい。

それに加えて、グリーンランドとアイスランドの雄大な景色も素晴らしい。空を飛ぶ無数の鳥や野生動物など、ナショナルジオグラフィック的な映像も多いし、映画館のスクリーンで観たかった。
そこを走ったり、自転車に乗ったり、スケボーに乗ったりしながら移動していく様子はまるで冒険のよう。困難に遭遇しながらも、周囲の人間が助けてくれるのも、一人旅であっても力強さを感じた。

ただ、普通の冒険ものと少し違うのは、いくら地の果てのような場所にいても、携帯電話に仕事の電話や恋人紹介サイトから問い合わせの返答などが来る。このあたりもいまの時代のことだし、リメイク元ではどうなっていたんだろう。
この、どこに居ても電話がかかってきたり、メールで職場に呼び戻されたりするのは、逆に考えると、どんなに遠い場所で別世界のような気がしていても、携帯電話は繋がるし、すぐに帰って来られるんだから大丈夫というメッセージがこめられているような気がした。非現実に思えても所詮現実なのだ、だから、怖がらずに、どこでも行き たい場所に行ったらいいじゃないということを言いたいのかなとも思った。そして、それはこの映画のテーマでもあると思う。しかし、そうすると、リメイク元は一体どんなテーマなのだろう。

カメラマンを見つけてからはわりと急展開で、バタバタと話が進んで行く。また、急にコメディ演技(空港でのスキャン、ピアノを売るシーンでの家族のハグ、エレベーター内での同僚とのハグ)やコメディセリフのやり取り(“LIFEのモットーは?”“I'm lovin' it.”“それはマクドナルドだ”)が多くなり作風も変わる。ベン・スティラー節といった感じ。

ラストはうまくいきすぎとは思うけれど、あの丸くおさめ方はとても好きです。映画だし、ハッピーエンドでいい。何より、観て良かったと思えるし、爽やかな気持ちになれる。

カメラマン、ショーンを演じているのがショーン・ペン。どちらかというと繊細なイメージを持っていたんですが、今回は世界を飛び回るフォトジャーナリストということで、危険を顧みないワイルドな男の役。最初の、ウォルターを旅に誘い出す時のモノクロ写真ではショーン・ペンなことに気づかなかった。
実際にショーン・ペンが出て来るシーン自体は少ないけれど、観ている側もウォルターも常にこのカメラマンのことを考えているし、最後の粋なはからいもあって、結局映画全編に出ている印象。

ベン・スティラーは少し物悲しさを纏う中年男役がうまかった。特に、いわくのある元バイト先のチェーン店を見つけた時の表情が、なんとも言えない。現実からは遠く離れているはずなのに、こんなところにもチェーン店があって、そこでバイトをしていた頃のいいとは言えない出来事を思い出す。ここも、世界の狭さを描いているようだった。
また、映画中でウォルターは何度も決意を決めるのですが、その時のベン・スティラーの少し怯えたような、でも気持ちを決めた強さを感じる表情も良かった。
勿論、後半のコメディ演技も好きです。

ウォルターの想い人を演じたクリステン・ウィグも、意地悪髭上司を演じたアダム・スコットもコメディ俳優。
恋人紹介サイトの運営の男性を演じたパットン・オズワルド、どこかで見たことがあると思ったら、『ヤング≒アダルト』のあの人か。この方もコメディアンと、周りはコメディ畑の人でかためていそう。


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