『ノー・エスケープ 自由への国境』



メキシコとアメリカの国境付近の攻防の話。というと、現在はトランプ大統領がメキシコとの国境に壁を作るという発言をしていたし、今観るべき映画!というような言われ方をしているのもわかる。

主演のガエル・ガルシア・ベルナルはアカデミー賞にプレゼンターで登場した際に、「壁の建設に反対です!」というポリティカルなスピーチを行った。それは、もしかしたらこの映画に出ていたこともあるかもしれないけれど、ただ、この映画の内容としては、政治的なメッセージはそれほどなく、スリラーの度合いが強い。

監督はアルフォンソ・キュアロンの息子であるホナス・キュアロン。この作品の脚本を父が読んで、『ゼロ・グラビティ』の着想を得たという話もあるけれど、ワンシチュエーションからの脱出という点でそう言われればそうかな…という程度。

本作ではアルフォンソ・キュアロンとその弟のカルロス・キュアロンが製作に名を連ねている。

以下、ネタバレです。












メキシコからの移民を乗せたトラックが、国境を越える途中でエンジントラブルを起こし止まってしまい、そこから砂漠を徒歩で越えることになる。
なんとなく、国境にたどり着くまでの話なのかなと思っていたけれど、最序盤でたどり着き、国境も有刺鉄線がはられているが、あっさりと越えていた。本番はそこからである。

移民たちは歩くのが遅い集団とはやい集団とに分かれてしまう。ガエル演じる主人公のモイセスは遅い集団だったが、先を行く集団が何者かに銃で撃たれるのを目撃する。

この先、この襲撃者にずっと追われるんですが、この男の素性や動機が一切明らかにされない。
確実な腕前のスナイパーなので、元軍人なのかもしれない。
動機は単なるレイシストなのか、かなり偏った愛国者なのか。かなり執拗に追ってくるのでもう少し明瞭になったほうがいい気もするけれど、その執拗な理由が不明だから怖いというところもあるかもしれない。

またこの男は相棒として、ジャーマンシェパードを連れている。岩をもろともせずに探しに行くし、見つけたら噛み付いて殺すし、呼んだら戻ってくるなどかなり優秀でお利口。怖いです。実際に警察犬としての訓練を受けた犬らしい。

この犬がいるかぎり逃れられないので、モイセスは犬を殺す。男は犬を殺されたことで、一層恨みを強くする。このような動機が最初からあれば良かったのにと思った。

また、映画はこの男と移民たちの追いかけっこに終始してしまう。
移民たちが国境を越えて無事に逃げのびるために、もう少しいろいろな脅威があったらおもしろかったのにと思う(政治的な話とか実際問題ではなく、映画のエイターテイメント性という意味で)。
男は自警団のような感じだけれど、本物の警察は最初に出てくるだけで仕事をしない。砂漠なので、地表に蛇がうねうねする場面もあるけれど、移民たちではなく、追いかけてくる男たちの脅威になっていた。最初にラジオで「今日は50度になります」みたいな天気予報が流れているが、気温もあまり問題にはされていなかった。水が足りなくなる描写も出てきたけれど、危機ではなかった。
一難去ってまた一難のほうがメリハリがつくと思う。

上映時間も短いし、危機が一つの方がシンプルで緊迫感も続くこともあるかもしれないけれど、悪く言えば飽きてしまう。

一人になってしまったモイセスと犬を失った男との、大きな岩での一対一での攻防はおもしろかった。大きな岩は少し離れた場所から撮られていて、二人の動きが同時に見える。意外と近くにいるのに気付かなかったりとひやひやした。
演じているガエルは小柄なので、岩のくぼみにぴったりとはまったり、岩をひょいひょいと飛び回ったり、その体型を生かした動きをしていた。

一方、追いかけてくる男は大柄である。モイセスが後ろに立ったときに、突き落とすのかと思ったけれど、体ごとタックルしていてなるほどと思った。突き落とすだけの力はない。
また、モイセスが岩の上に立ったときも、そこで大きな岩でも落とせばいいのにと思ったけれど、きっと倒せるだけの大きな石を持ち上げる力は無さそう。

こんな怖い人はさすがにいないだろうし、リアリティというよりはエンターテイメントでホラーだなと思ったけれど、実際に国境付近に自警団がいるらしい。移民の流入を侵略とみなし、退役軍人が武装しているのだとか。
この映画でも、通報しても警察はぽやぽやしていたし、この映画の男も、警察は信用ならないとばかりに自ら排除していたのかもしれない。もしかしたら、これは現実に起こっていることなのだろうか…。




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