『スプリット』



M・ナイト・シャマラン監督。
シャマラン監督作品はそれほど何作品も観ているわけではないのですが、私は前作の『ヴィジット』(2015年)を期待したけれど『ヴィレッジ』(2004年)だったなという感じ。
主演にジェームズ・マカヴォイが抜擢されているのがとても意外だった。けれど、合っていたと思う。

以下、ネタバレです。『ヴィレッジ』、『ヴィジット』など、シャマラン監督過去作のネタバレも含みます。







多重人格の男に女子高生三人がさらわれてしまい、どう逃げ出すのか?という内容であることは知っていた。なので、開始数分でジェームズ・マカヴォイ演じる男が出てきて女の子たちをさらい、監禁していてよかった。おもしろくなるのはそこからだろうし、前置き部分が長いとはやくさらわれろという気持ちになってしまうので。

前作『ヴィジット』は社会問題的なものも含まれていたし、主人公姉弟も成長していた。だから本作も、男が小さい頃に虐待されて、自分を守るために別人格を作り出したことがきっかけで多重人格者になったということだったので、最後には癒しに近い力で救われるのかと思っていた。

カウンセラーの先生も親身になって相談にのっていた。
母に虐待されていたようだけれど、彼女は母がわりのようでもあったし、病気について、周囲の理解をえるべく、学会で発表しようともしていた。
あそこを突破口にしていくらでもいい話にできたと思うのだ。
でも、この映画では、男の中の一番凶悪な人格が誕生して、彼女を殺してしまう。

ビーストというのは、話に出てきても、それが本当に出てきてしまうのはどうなのだろうと思った。
なんとなく不気味だけれど、それは架空の存在である。それが本当に出てきてしまうと話が破綻してしまうというか、一気にファンタジーのようになってしまう。
それは、『ヴィレッジ』を観たときににも感じたことで、話に出てくる怪物が暗喩ではなく、本当に出てきてしまっていた。
今回のビーストも、『ヴィレッジ』の怪物も、こんなのが本当に出てきてしまったらどうにもならないというか、話自体も行き詰まってしまうというか、もう元の場所へは戻せなくなってしまう。

多重人格者というのは、(映画の中で言っていたことなので調べてはいないけれど)人格によって、盲目の人物に視力が戻ったり、重量挙げができたり、糖尿病でインスリンを射つ必要があったりと、普通ではありえないような、まだまだ謎な部分があるようだ。
それは超能力の元になるものではないか?と言われていて、マカヴォイなので少しX-MENを思い出しもした。
ただ、それでも見た目は変わらないと言っていた。

ビーストは、サイのような皮の厚さと言われていたが、実際に刃物?が刺さっていなかった。天井を伝って歩くとか、金属を曲げるとかは、重量挙げの例と同じであり得ることなのだろうか。しかし、筋肉は盛り上がっていた。

ただ、シャマランをあまり観ていないからわからないけれど、怪物にしてもビーストにしても、映画だとわかりやすいように映像にして見せているだけで、劇中には実際には出てきていないのかもしれない。作風がいまいちわかっていないです。

それで、最後にブルース・ウィリスが出てきても、ブルース・ウィリスだなとしか思わなかったが、わざわざダンという名前が出たってことは誰かなのかもしれない。調べてみたら、これが、『アンブレイカブル』の主人公なんですね。
そういえば、『アンブレイカブル』と『スプリット』が一緒になった映画を作るよとシャマラン自身がツイートしていたのは読んだ。けれど、『アンブレイカブル』は観ていない。

ただ、この話は知っていたけれど、ネタバレらしいネタバレというか、どんでん返しがあるらしいけれどわからなかったので、もしかしたら『アンブレイカブル』のことがネタバレだったのかもしれない。
ネタバレ内容を知ってたのが悲しいし、知らなかったとしても、『アンブレイカブル』を観ていなかったので、特に驚きもなかった。
これから観ます。

『アンブレイカブル』のあらすじの最初の方だけ読んだ感じだと、もしかしたら、化け物には化け物をぶつける(『貞子vs伽椰子』のコピー)みたいなことが起こるのかなとも思うけれど、どうなのだろう。

さらわれた女子高生のうちの一人、ケイシーは、幼少期に叔父からの虐待を受けていたので、もしかしたら男とわかりあえるのかと思っていた。
また、この女の子も同じように多重人格だったり、別人格でもって男を倒すのかと思っていた。
また、実はこの女の子も、男の一つの人格だったりして?とも思ったけれど違った。

結局、ケイシーは男から見逃されたけれど、同じ虐待を受けていても、別にわかりあえたわけではない。なんとなく、酷い目に遭ってて良かったな!とでも言うようで少し納得がいかなかった。

また、高校生になった今も叔父と住んでいることがラストでわかり、おそらくそのまま虐待を受け続けていたのも想像できる。
警察に保護され、釈放されるときに、もしかしたら通報したのかもしれないけれど、そこまでは描かれない。

ケイシーは幼い頃に父と叔父に狩りを教わっていた。
閉じ込められていたのは動物園の地下である。
男の目覚めた巨悪な人格はビースト(獣)である。
この辺は、なにかうまいこと繋がらないのだろうか。この事実がぽつぽつぽつと出てくることが繋がりなのだろうか。
それか、もしかしてこれも『アンブレイカブル』関連なのかもしれない。

ちょっと話としては納得ができなかったり、もう少しどうにか…とは思ったけれど、男を演じたジェームズ・マカヴォイの演技のうまさは堪能できた。多重人格なので、いろんなマカヴォイが見られる。

23(+1)人格のうち、映画に出てくるのは6(+7)人格だった。ただ、20何人も出てきたらおぼえられないと思っていたので、これくらいで良かった。残りの人格は続編で出てくるのだろうか。

表情、声、喋り方で、性別も年齢もまったく違う人物を演じ分けていた。

バリーは男の様々な人格の中のリーダー。社交的と言われていたけれど、確かに親しみやすそうだった。ファッション関係のデザイナーをやっているようだった。

デニスは潔癖症で眉間にしわを寄せており、気難しそう。三人を誘拐したのも彼で暴力的。他の人格とは馴れ合わない。

パトリシアは一見、上品でエレガントで優しそうだけれど、ヒステリック。たぶん、影ではとても怖いことを考えている。

ヘドウィグは9歳の子供。脇が甘い部分もあるが、簡単には言いくるめられない。キスに憧れるとかおませさんな部分もあるし、子供特有の邪悪さも持っている。
カニエ・ウェストに合わせて痙攣ダンスをするシーンは特に圧倒された。

デニスがバリーを演じているシーンもあって、さらに複雑。本当はデニスでしょ?と言い当てられて、すっとデニスに戻る瞬間が素晴らしかった。

なんで坊主なのかなと思ったけれど、坊主が一番どの人格でもしっくりする。髪型があると、邪魔になってしまうかもしれない。
また、得体の知れない怖さがある。

ただ、少し過剰な舞台演技になってしまってるとは思った。それは、子供から女性まで、幅広いから極端なくらいの演技のほうが見分けがつきやすいからか…とも思ったけれど、男のもともとの人格、ケヴィンはいつものマカヴォイでなるほどと思った。
ケヴィンが作り出した人格は、わざと極端な演技をしていたのだ。それはまるで、ケヴィンが他の人格を演じるように。
だから、ケヴィンが演じたデニスが演じたバリー…を演じるマカヴォイということになってくる。幾重にも重なった演技の素晴らしさに唸る。


0 comments:

Post a Comment