『フリー・ファイヤー』



『ハイ・ライズ』のベン・ウィートリー監督。
キャストはブリー・ラーソン、キリアン・マーフィ、アーミー・ハマー、サム・ライリー、シャールト・コプリー、ジャック・レイナーと豪華。
90分、ほぼ撃ち合いのみ。

以下、ネタバレです。







出演者が多いので、最初の姿…例えば、服装とか、髭の有無とか(ただし、だいたい髭)を覚えておいたほうがいい。
あと、大きく分けて二つのグループの対立なので、どちらに誰がいるかも覚えておくとスムーズかもしれない。

開始ほどなくして撃ち合いが始まると、全員移動は匍匐前進、這いつくばって転げまわる。顔もあまり映されない。
ほこりと血まみれで、御髪も乱れ、区別がつきにくくなる。

みんな体のどこかを撃たれ、これ以上は撃たれたくないという気持ちは同じなので、身を隠し、だいたい怪我をしているのでひょこひょこした歩き方になっている。動きも同じなのだ。

序盤はよくある、金を渡して銃を受け取る取引のシーン。場所はどこかの廃倉庫のような場所だ。ただ、撃ち合いの映画という情報は入れていたので、いつ来るかいつ来るかとひやひやしてしまう。

そして、撃ち合いが来てからはノンストップ。ほぼリアルタイムで事態が進行していく。ブリー・ラーソン演じるジャスティンは紅一点ですが、別に女性だからって甘やかされないし、自分からもガンガン撃っていく。

アーミー・ハマー演じるオードは体がでかくてひときわ目立つ。正体不明感というか偽者感がぷんぷんであやしい。銃の扱いにも一番慣れていそうなので、知る人ぞ知るような大物なのかもしれない。もしかしたら、一番髭が長かったからかもしれない。
これは全員に対してだけれど、特に素性は明らかにされない。そんなことをするシーンに時間を割くくらいなら撃ち合うシーンを増やしたいとでも言いたそうな感じである。
もちろん裏設定はちゃんとありそうで、それを予想するしかないが、オードは何か貫禄のようなものを感じた。そして、悪いことも人一倍してそう。

キリアン・マーフィー演じるクリスは一番まともかなとも思いつつ、最初の過剰な試し撃ちの具合から見る限り、まともじゃないかも。
ジャスティンのことが気になっているみたいだったのでロマンス展開があるかとも思ったが、特にそこまで進展はしなかった。
なまりのある英語だったけれど、アイルランドなまりなのだろうか。劇中でもアイルランド人役だったが、実際にアイルランド人である。

最初、クリスとシャールト・コプリー演じるヴァーノンがギスギスしていたので、この二人が打ち合いを始めるのかと思った。一触即発ではあったけれど、なんとか持ちこたえていた。
ヴァーノンは高いスーツを気にするかっこつけで、ちょっと弾がかすっただけで大騒ぎしていた。
撃たれたところにダンボールを巻きつけて、「ばい菌が入らないように」などと言うのはちょっと可愛くも見えて、オードとは逆に小者感が漂っていた。役職(?)は多分上。

ちなみには劇中でヴァーノンは「なまりからしてオーストラリア人か」と言われていたが、南アフリカ系のイギリス人だった。
実際のシャールト・コプリーはアングロアフリカンという、イギリスやアイルランドからの開拓民を先祖に持っている。
キリアンと同じく、劇中の登場人物が実在の俳優さんと同じ人種になっているのかもしれない。

サム・ライリー演じるスティーヴォはいわゆるチンピラで、しょうもないトラブルメイカー。すべての原因は彼でした。彼がジャック・レイナー(『シング・ストリート』のお兄ちゃん)演じるハリーと問題を起こしたことで撃ち合いが始まる。
口だけでいきがっていて、友達は大切にするヤンキー体質。
また、途中でドラッグをやり、しぶとく生き残っていた。痛みを感じていなかったのかもしれない。まるでゾンビのように何度も立ち上がり、まるでゾンビのように、頭を車で轢かれて死ぬ。

映画のほとんどは撃ち合いだけだけれど、ちゃんと人間ドラマだったのがおもしろい。
極限状態だから、本当の性格、本当の自分が出てくる。死にたくないから駆け引きをする。過去や人物の説明なんて、最初にはなかったけど見てるとどんなキャラクターかがわかってくる。

ちなみにこれは、映画の中の登場人物たちも同じで、二つのグループは顔見知りもいるけれどほぼ初対面なのに、撃ち合うことで一気に濃密な関係になっていく。わかり合っていく。ただ、相手がどんな人物かわかったからといって仲良くなる訳ではない。ただ、わかるというだけだ。

撃ち合ううちにわかりあうなんてことがあるのか。撃たれたら死ぬだろうし、そんな時間がないのではないかと思うと思う。
しかし、上映前に監督からの『FBIの資料を読むと、人は一発の銃弾であっさり死ぬことがないのがわかった。そんな悪あがきを描いた映画です。』というようなメッセージが出る。

なるほど。劇中の人物たちは、足を撃たれたり、肩を撃たれたりして、歩けなくなっても致命傷は負っていない。
普通だと、拳銃を出す人物と撃たれる人物がいて、一瞬で関係は終わる。拳銃出されたら、それっきり。コミュニケーションなどはとれない。
でも本作では、撃ち合いが始まってからのさぐり合いが本番だ。
みんな這いつくばって、汗をかいて、もう死ぬみたいなことを言いながら、逃げ惑って、銃を撃つ。もう誰が悪いとかではなくなって、ただ撃ちまくる。

耳をつんざく銃声は映画館ならではのものだと思う。家で観るなら是非大音量で。
がらんとした廃倉庫内だから、余計に響く。他の音はない。

唯一流れるのは、ジョン・デンバーの曲である。緊迫した空間に急に和やかなナンバーが流れるので合わない。ただ、まるでBGMのようだけれど、そうではなく、カーステレオから流れているものなのだ。カセットテープなので、次の曲に移るあたりも芸が細かい。

最後、ジャスティンは何を見たのか。その顔に浮かぶのは恐怖だった。一人だけ無事ということもなさそう。

最初は、豪華俳優さん目当てだったが、思った以上に楽しかったし、アイディアに溢れていた。変わった映画ですがおもしろかった。


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