『イーグル・ジャンプ』
Posted by asuka at 2:13 PM
イギリスやドイツ、アメリカでは2016年公開。日本ではビデオスルー。
監督はデクスター・フレッチャー。
この監督さん、DVDの特典映像で顔を見て、なんか見たことがあると思ったら『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』のソープ役の方だった。他、『レイヤー・ケーキ』や『キック・アス』など、マシュー・ヴォーン監督作常連の俳優さんで、本作は製作にマシュー・ヴォーンの名前がある。
製作とはいってもマシュー・ヴォーンは本作にだいぶ関わっているようで、主演のタロン・エガートンを推薦したのも彼らしい。『キングスマン』関連ですね。
原題は『エディ・ザ・イーグル』。実在したイギリスのスキージャンプの選手のニックネームだが、日本での知名度の低さから変えられたのだろう。
また、本作はこの選手について描かれているが、やはりこれも知名度が低くてビデオスルーになったと思われる。
ヒュー・ジャックマンとタロン・エガートンの二人の力で公開できなかったかなとも思うけれど、ポスターなどに二人の姿は映っていても、二人三脚という感じではないからかもしれない。いわゆるブロマンスな雰囲気はない。あるのかと思っていた。
エディ(タロン・エガートン)は素人なので、元スキージャンプ選手のピアリー(ヒュー・ジャックマン)から基礎を学んだのは良かったと思うが、あくまでも基礎である。
エディがぎりぎりオリンピックに出場できる記録を出した時に、ピアリーは「今出てもオリンピックで恥をかくだけだから、みっちり練習をして四年後にメダルを目指そう」と提案する。
普通なら、エディがコーチであるピアリーの意見に同意して、すったもんだありながらも二人で頑張って、見事メダルをとってエンディングとなるところだ。
けれど、これはフィクションではないからそうはならない。
彼は子供の頃からオリンピックに出ることに憧れていた。憧れて、様々な努力を続けてきた。
それで、やっと出られることになったのだ。四年後に出られる保証はない。基準となる記録が変わるかもしれないし、怪我をするかもしれない。最悪、死んでしまうかもしれない。
周りの選手は子供の頃からスキージャンプをやっていたのも知っていただろうし、おそらく彼は、きっとメダルまでは遠いのはわかっていたのだろう。
だから、押し切って、意見が割れたまま出場する。
ピアリーはオリンピックには行かず、テレビで見ている。エディはメダルこそ取れないが活躍…と、実話だからこうなるのだ。
完全にエディの独壇場である。
オリンピックに出る!という気持ちだけで突っ走るエディ。素人だから周囲のサポートはもちろんある。だが、他の人は等しく脇役という感じで、ピアリーはその中の一人という感じなのだ。
ただ、かつてのコーチから破門されそこから認めてもらうということで、一応ピアリーの成長物語の意味も含まれているから他の脇役よりは出番が多い。
また、最初のほうで、アル中同然のピアリーが酔っ払ってジャンプをして見せるシーンがめちゃくちゃ恰好良かった。服装もジーンズである。くわえタバコで頂上に立ち、滑り始める姿をカメラはすぐ横で追う。挑むような表情だけれど、とても楽しそうだ。タバコをポイっとこちら側に捨てると、雪に落ちてジュッという音がする。映画内で一番忘れられないシーンである。
タロン・エガートンはエディご本人に近づけて、大きな瓶底メガネで、口を少ししゃくれさせていて、とてもいつもの彼には見えない。
役柄もいつものわんこ系ではなかった。スポーツなんてやりたくないけれどコーチ(ヒュー)に見初められて、仕方なしにやっているうちにジャンプに目覚め、やがてオリンピックに…という内容なのかとなんとなく思っていたけれど違う。
エディは一途にオリンピック一筋。夢を叶えるために猪突猛進。スキーの柄のジャンパーまで着ていて、ちょっと病的でもある。
しかも、これならいけるかも?という単純な理由で大人になってからスキージャンプを始める。
何度失敗しても、上に上がっていって繰り返す。怖くはないのだろうか。
映画内でPOVっぽい映像も出るが、頂上に立っただけで足がすくみそうだ。映画でもスタントすらやりたがらないらしく、選手の方を使ったらしい。
大抵子供の頃から始めるスポーツというのも、物心つく前に慣れさせるのが目的らしい。物心がつくと、恐怖心で飛べなくなるのだとか。
エディの場合は恐怖心よりもオリンピックに対する気持ちが強かったのだろう。しかも、ピアリーの手助けや送り出してくれた両親(というか母親か)の後押しもあって、一年でオリンピックに出てしまう。さらに、メダルまでは遠いとはいえ、自己ベストを叩き出す。
エディはイギリス初のスキージャンプオリンピック代表選手であると同時に、カメラの前ではしゃいだ様子が話題になったらしい。
記録よりも記憶に残る選手である。そして、エディが出たのは、1988年のカルガリー冬季五輪だが、なんと『クール・ランニング』で有名なジャマイカのボブスレーチームも同じ大会に出ていたらしい。映画内でも話題に上がる。
映画内には80年代ポップスが多く使われている。時代に合わせたのだと思うけれど、あまり仰々しくなく、ある意味軽薄な音楽が映画の雰囲気ともよく合っている。特に、ここぞというタイミングで、ヴァン・ヘイレンの『Jump』の印象的なイントロが流れた時にはぴったり来すぎて笑ってしまった。
映画内のエディもへこたれない前向きさと、逆に考えると呑気な性格のチャーミングな人物だったが、ご本人も負けず劣らずで脚色なしのようだった。
DVDの特典映像で撮影現場を見に来た話をしていたけれど、紅茶を進めると「ありがとう。ビスケットもいただいていいかな?」と言っていたらしい。ちゃっかり者である。
記録以外の部分で人気になったようだし、オリンピックはこの一回限りでスポーツはやめたのだろうと思っていたら、スピードスキーで世界歴代9位の記録を持っているらしく侮れない。映画が終わる場所が到着点ではなかった。好きだけでどこまでも突っ走る姿が痛快である。
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