『カメラを止めるな!』

観ようと思っていても映画館が満席なことが続き、そのうちどんどん話題になって更に入れない…といったところに拡大ロードショーが決まったのでやっと観られました。

以下、ネタバレです。ネタバレを知らぬまま観たほうが面白い作品です。











ゾンビものというのは聞いていたので、なんとなく、ゾンビ映画撮影中に本物のゾンビが現れて…?という話かと思っていた。

チープな映像でスタート。ゾンビになってしまった恋人に追いつめられるシーンというのはゾンビ物によくあるゾンビセンチメンタルですね。
そこに監督がカットをかけて、俳優陣を怒鳴り散らす。ポスターにも出ていたし、この監督の横暴で、ゾンビパニックが起こるのかと思っていた。実際、ゾンビ映画撮影中にゾンビが…という内容だったけれど、そこに本物が現れると思っていたのだ。

カットをかけても階段を登っていく俳優陣にカメラが付いていく。なるほど、全編長回しでファウンドフッテージ方式(私は、この時点でもまだ本物のゾンビが出てくると思いこんでいるので、カメラマン自体もゾンビに襲われて、あとで映像が発見されるのかと思っている)なんだな…と思いながら観ていたら、監督が長回しカメラに向かって、カメラ目線で「カメラを止めない!」と言う。え、これを撮ってるの誰かがいるってことなの?

ゾンビ映画自体はありきたりだし、血糊や切断された手足も安っぽい。カメラも手持ちでそれで走るからぶれぶれだし、映像自体も汚い。出ている俳優も舞台のような大げさな演技だった。長回しというのはいいアイディアだと思ったけれど、そのせいで、特に舞台感が強くなっていた。
この映画は、もともと300万円という低予算で作られたことが話題になっていた。それが頭にあったので、まあそれくらいでしょう…と、流れるエンドロールを観ながら思ってたんですが、待って、監督の名前が違う。制作著作ゾンビチャンネルって? え? 何を観せれられてたの?それに上映時間が短いような?

混乱していたら、時間が一ヶ月前に遡る。このゾンビの番組の企画が来るところからスタート。映像もがさがさしたものではなくなる。もちろん、ワンカットではない。
ここからは前半のゾンビ映画製作の裏側が始まる。そして、ここからが本番だった!

主人公はドキュメンタリー番組の再現VTRなどを作っている。監督ではあるが、ろくな仕事がまわってこない。ゾンビの企画も、まあ所詮B級だし、ちゃんとした監督に依頼することはないだろうということでまわってきた。馬鹿にされているのだ。

俳優たちもスタッフもテレビ局の上の人らもかなり濃い。監督は上と下の板挟みで大変そうだった。でも、前半に観たようなチープっぽいゾンビ映画でも、関わってきている人がこれだけいることに驚く。

しかし、ここで気の弱そうな監督は、前半のゾンビ映画で役者として出ていてしかも横暴な監督役だった。監督の妻も、前半の映画に役者として出てきていた。一体何があったんだ…と思っていたら、俳優陣が事故に遭って、急遽代役として出ることになったんでした。
だから、前半の映画で演技が大袈裟だと思ったのも、計算され尽くされていたのだ。

撮影に入り、ここからは前半の映画の種明かしのようなスタイルになる。
前半の映画は本当にチープで、え?今の何?とか、こんなシーンいる?みたいな引っかかる部分がいくつかあったんですが、そのすべてに理由があって、それが一つ一つ明かされるたびに声を出しながら笑ってしまった。笑いすぎて涙も出てきた。

まず、序盤で監督が主演の若者二人にキレ気味に怒りますが、これは元々の気弱な監督が我慢していた部分(女優に対しては「お前の人生は嘘ばっか!」、男優に対しては「いちいちケチつけやがって!監督は俺だ!」など)をどさくさに紛れて出していて、ここからまず笑った。
引っかかったシーン、「カメラは止めない!」と言ってたのは本当に監督としての指示だった。後ろで何もしないのに座ってるのおかしいなと思ったら下痢をしていた。護身術の話は唐突だと思ったらトラブルが起きたから引きのばせというカンペが出ていた。手持ちカメラが明らかに下に置かれたシーンがあったが、カメラマンの腰が砕けて動けなくなっていた。

ワンカット長回し、しかも生放送だから、トラブルが起きるたびに一つ一つを解決したり取り繕ったりしながら番組が進む。これは、三谷幸喜の『ラヂオの時間』を思い出した。
実際、この映画の上田監督は三谷幸喜が好きらしいので、いしきされているのかもしれない。

ちなみに、私はまだ少し本物のゾンビの存在を疑っていたため、小屋に隠れている女優の元に足だけのゾンビが現れるシーンが不気味だったんですが、これも足だけメイクをしたカンペを持った人だった。種明かしをやってくれてよかった。

本物のゾンビが現れて場をめちゃくちゃにすることなどない。エンディングに向かって、みんなが力を合わせる。
壊れたクレーンの代わりとして、スタッフや俳優陣が組体操のピラミッドを作るのは、全員が力を合わせている様子が視覚的にもわかりやすい。
みんなきつそうな顔で必死になっている。頑張れ!と応援したくなる。ここに、企画を持ってきたこなれたテレビマンの男性と主演男優がいたのに泣いてしまった。この二人は監督のことを馬鹿にしていたのだ。でも、クライマックスでは全員が協力しあっている。
しかも、正面を向いた時にゾンビメイクの俳優陣が混じってるのもコミカルでいい。

一番上に監督が乗り、監督は娘を肩車して、娘がカメラを持つ。これは、娘が幼い頃に撮った昔の写真と同じ構図なのだ。この伏線の回収のされ方はお見事でここでも泣いてしまった。映画づくりの映画であり、映画愛も感じられるけれど、ここに娘からの尊厳を取り戻すという父娘愛という要素も加えられている。

前半に観たチープなゾンビ映画の裏側でこんなことが起こっていたとは。
たくさんの人が関わっているし、普通に映画を観ただけではわからない部分が描かれているのが楽しい。

本物のエンドロールでは、最初の映画の本当の撮影風景が流れる。もちろん、本当に映画後半の感じで撮られたわけではないのだ。だから、たぶん二周同じ撮影をしている。血糊なども大変そうだし、すごい労力。熱意とアイディアに脱帽です。本当におもしろかった。

種明かしをすべて知った上でもう一度観たいけれど、笑うシーンではない部分で笑ってしまいそう。初見の方々の邪魔にはならないようにしたい。

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