Aug 07
私はこの映画がロシア製作だと思っていたので、本国で上映禁止になっていてそれは大変なことになっているし、随分チャレンジャーだなあと思っていた。けれど、イギリス、フランスの製作で、しかも原作もフランスのグラフィックノベルだった。それでも、上映禁止になっているということは、ロシアに随分怒られていることには変わりない。
スティーヴ・ブシェミが出ているところで気づけばよかったんですが、ロシア語ではなく、英語作品です。スターリン死後の側近たちの椅子取りゲームを描いたほぼ実話の政治ものというととっつきにくい印象ですが、思った以上に観やすかった。
監督もスコットランド生まれのアーマンド・イアヌッチ。次作は来年公開予定のチャールズ・ディケンズ原作の『The Personal History of David Copperfield』。ティルダ・スウィントン、ベン・ウィショー、ピーター・カパルディ、アナイリン・バーナードと楽しみなキャスト。
以下、ネタバレです。
コミカルだし、思わず声を出して笑ってしまうシーンがいくつもあったけれど、不謹慎ギャグというか、笑わせようと思ってるわけではなくて、大真面目なのに結果的に面白くなっちゃってるというシーンが多かった。スターリンが倒れた後と葬儀での騒動だから、それでコントをやろうとすると、当然そうなるのだろうけど。
しかし、ただ笑っておしまいというわけではなくて、そのコミカルなシーンと同時に市民は秘密警察や軍にあっけなく撃たれる。葬儀に訪れた市民も1500人も撃たれていた。壁に立たされて順番に撃たれるシーンでも、急に殺さなくていいってよという通達が来て、隣りの人が撃たれて横で倒れているのを見ながら釈放されるというシーンもあった。あまりにも、ただの作業としての銃殺刑。
上層部のごたごたが中心に描かれているから市民はさほど出てこないけれど、画面の後ろで連行されたり、銃声だけが聞こえて来たりと、決してただゲラゲラ笑うだけのコメディではない。医者についても、優秀な医者から優先して殺してしまったから、ヤブ医者しか残っていないというのも笑えるけれど笑えない。
ベリヤの無慈悲な最期もひんやりした。結局、味方を失った者は容赦無く殺される。ただの権力争いではなく、生死をかけた争いで、根回しがうまく小狡いフルシチョフが勝ったという感じだった。
フルシチョフを演じたのがスティーヴ・ブシェミ。おしゃべりで調子のいい男だった。スターリンにウケたギャグ/ウケなかったギャグをメモしたり、慌ててパジャマで駆けつけたりと小物感に溢れていた序盤から、画策しつつ を陥れるべく目を光らせ、結局は最高指導者になってしまう様子は、結果がわかっていてもおもしろかった。
側近たちはそれぞれ個性が強いけれど、その他、スターリンのアル中の息子やソビエト軍のあまりにも体育会系な雰囲気が漂う元帥など、どんどん面倒な人物が増えていく。
それぞれがそれぞれの事情を抱えているから、ちょっとした群像劇である。
葬儀のパーティーのシーンでは思惑が渦巻いていて、小分けになって何かしら話してるんですが、そこを歩くフルシチョフにカメラがついていくシーンは、会場の様子もわかるし、彼の暗躍具合もわかる。カメラワークが凝っていた。
この映画はスターリンが死去するシーンから始まるのかと思っていたが、ラジオでのオーケストラの演奏シーンから始まり、そこのプロデューサーかディレクターだと思われる裏方の男性がパディ・コンシダインだったのに驚いた。その時点でもロシア製作だと思っていたからだ。言語もロシア語だと思っていたが、英語だったので、少しほっとした。
政治もので、ブラックコメディというと、2015年(日本では2016年公開)の『帰ってきたヒトラー』を思い出したが、あれは笑える部分もあったにはあったけれど、それよりは少し怖くなってしまったし、なんとなく、ドイツ映画のノリに私がついていけてないような気持ちになってしまった。
今回もロシア映画だし、ブラックコメディとはいえ、合わなかったらどうしようと少し身構えていたけれど、イギリスとフランス製作なのと知っている俳優が多く出ていたことでまずとっつきやすかった。
かつ、美麗な美術(考えてみれば当たり前だけれど、ロシアでは撮影できなかったそうで、室内でのシーンはほぼイギリスで撮影したらしい)と、凝ったカメラワークも見応えがあった。
『スターリンの葬送狂騒曲』
Posted by asuka at 1:21 AM
私はこの映画がロシア製作だと思っていたので、本国で上映禁止になっていてそれは大変なことになっているし、随分チャレンジャーだなあと思っていた。けれど、イギリス、フランスの製作で、しかも原作もフランスのグラフィックノベルだった。それでも、上映禁止になっているということは、ロシアに随分怒られていることには変わりない。
スティーヴ・ブシェミが出ているところで気づけばよかったんですが、ロシア語ではなく、英語作品です。スターリン死後の側近たちの椅子取りゲームを描いたほぼ実話の政治ものというととっつきにくい印象ですが、思った以上に観やすかった。
監督もスコットランド生まれのアーマンド・イアヌッチ。次作は来年公開予定のチャールズ・ディケンズ原作の『The Personal History of David Copperfield』。ティルダ・スウィントン、ベン・ウィショー、ピーター・カパルディ、アナイリン・バーナードと楽しみなキャスト。
以下、ネタバレです。
コミカルだし、思わず声を出して笑ってしまうシーンがいくつもあったけれど、不謹慎ギャグというか、笑わせようと思ってるわけではなくて、大真面目なのに結果的に面白くなっちゃってるというシーンが多かった。スターリンが倒れた後と葬儀での騒動だから、それでコントをやろうとすると、当然そうなるのだろうけど。
しかし、ただ笑っておしまいというわけではなくて、そのコミカルなシーンと同時に市民は秘密警察や軍にあっけなく撃たれる。葬儀に訪れた市民も1500人も撃たれていた。壁に立たされて順番に撃たれるシーンでも、急に殺さなくていいってよという通達が来て、隣りの人が撃たれて横で倒れているのを見ながら釈放されるというシーンもあった。あまりにも、ただの作業としての銃殺刑。
上層部のごたごたが中心に描かれているから市民はさほど出てこないけれど、画面の後ろで連行されたり、銃声だけが聞こえて来たりと、決してただゲラゲラ笑うだけのコメディではない。医者についても、優秀な医者から優先して殺してしまったから、ヤブ医者しか残っていないというのも笑えるけれど笑えない。
ベリヤの無慈悲な最期もひんやりした。結局、味方を失った者は容赦無く殺される。ただの権力争いではなく、生死をかけた争いで、根回しがうまく小狡いフルシチョフが勝ったという感じだった。
フルシチョフを演じたのがスティーヴ・ブシェミ。おしゃべりで調子のいい男だった。スターリンにウケたギャグ/ウケなかったギャグをメモしたり、慌ててパジャマで駆けつけたりと小物感に溢れていた序盤から、画策しつつ を陥れるべく目を光らせ、結局は最高指導者になってしまう様子は、結果がわかっていてもおもしろかった。
側近たちはそれぞれ個性が強いけれど、その他、スターリンのアル中の息子やソビエト軍のあまりにも体育会系な雰囲気が漂う元帥など、どんどん面倒な人物が増えていく。
それぞれがそれぞれの事情を抱えているから、ちょっとした群像劇である。
葬儀のパーティーのシーンでは思惑が渦巻いていて、小分けになって何かしら話してるんですが、そこを歩くフルシチョフにカメラがついていくシーンは、会場の様子もわかるし、彼の暗躍具合もわかる。カメラワークが凝っていた。
この映画はスターリンが死去するシーンから始まるのかと思っていたが、ラジオでのオーケストラの演奏シーンから始まり、そこのプロデューサーかディレクターだと思われる裏方の男性がパディ・コンシダインだったのに驚いた。その時点でもロシア製作だと思っていたからだ。言語もロシア語だと思っていたが、英語だったので、少しほっとした。
政治もので、ブラックコメディというと、2015年(日本では2016年公開)の『帰ってきたヒトラー』を思い出したが、あれは笑える部分もあったにはあったけれど、それよりは少し怖くなってしまったし、なんとなく、ドイツ映画のノリに私がついていけてないような気持ちになってしまった。
今回もロシア映画だし、ブラックコメディとはいえ、合わなかったらどうしようと少し身構えていたけれど、イギリスとフランス製作なのと知っている俳優が多く出ていたことでまずとっつきやすかった。
かつ、美麗な美術(考えてみれば当たり前だけれど、ロシアでは撮影できなかったそうで、室内でのシーンはほぼイギリスで撮影したらしい)と、凝ったカメラワークも見応えがあった。
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