Aug 29
『ボーダーライン』の脚本のテイラー・シェリダンが監督・脚本。その時点で気づくべきだったんですが、“なぜここで少女ばかりが殺されるのか”というコピーから猟奇連続殺人ものだと勝手に思っていたのですが、もっと重く、深く、考えさせられる内容だった。ニック・ケイヴの音楽も合っている。
主演はジェレミー・レナーとエリザベス・オルセン。「この扉を出たら君もアベンジャーズだ」のホークアイとスカーレット・ウィッチコンビ。
以下、ネタバレです。
舞台はワイオミング州ウインド・リバー・カントリー。冬は雪深く、厳しい土地のようだった。ここにインディアン保留地が舞台。私はインディアン保留地というのも知らなかったんですが、先住民が集められた場所がアメリカ国内に300箇所以上あるらしい。
本作で描かれている限り、牛がピューマに襲われたり、周囲には何もなかったり、雪もかなり降るようだったりと、住むのも大変そうな場所だった。
ジェレミー・レナー演じる コリーはここで野生動物被害に対応するハンターをしている。どうやら妻との関係がうまくいっていないようで、妻はこの場所を離れるらしい。観ているうちに明らかになるのだが、妻はネイティヴ・アメリカンの血をひいていて、白人のコリーはここに婿入りしたようだ。
コリーは野生動物の捕獲途中に少女の遺体を見つける。裸足、口から血が出ていて暴行の痕もあるという異常な状況。口からの血は、寒さで肺が傷つき、出血したとのこと。夜はマイナス30度になるらしい。そして、都会からやって来たFBIのジェーン(エリザベス・オルセン)と地元の保安官と協力して捜査を進めていくことになる。
コリーも娘を同じように亡くしていて、しかも遺体は野生動物に食われてしまっていてもう検視も何もできない状況だったことがあとで明らかになる。だから、今回遺体を発見した時のコリーは、どんな気持ちだったのか想像するとやりきれない。今回こそ、どうしても犯人を捕まえたかっただろう。
ジェーンはこの土地のことを何も知らないから、いわば観客と同じ目線であり案内役である。最初に訪れた時は自動車も冬仕様ではなかったし、服装も薄着だった。見くびっている。でも、この場所の土地の異常さは捜査をするうちに明らかになっていき、私もそれを知っていく。あまりにも無知だった。
雪山で見つかった遺体の少女の兄はヤク中ということで、悪いやつとも付き合いがあって、映画を観ながら、ああその辺りなのかなと思う。でも、違った。ただ、この映画の場合は違ったが、保留地でのドラッグが蔓延も根深い問題らしい。
そして、捜査班は殺された(というか、暴行は受けていても、直接の死因は凍死)少女の彼氏がいた掘削所へ乗り込む。
捜査の進展具合がよくわからないし、FBIはジェーン 1人だけで、お手伝いは来たものの権限は持たず、犯人が捕まえられたら運とも言っていたし、もしかして捕まらないのでは…と思い出していた。
しかし、掘削員たちの暮らすトレイラーハウスの扉をジェーンがノックする。中では髭の男性がシャワーを浴びている。そのままの姿で扉を開くと、扉の外には“殺された”少女が。一瞬にして過去に場面転換し、事件の種明かしが始まった。うまい。
シャワーを浴びていた男性がジョン・バーンサルだったため、こいつが犯人か!と思ってしまいました。
二人がトレイラーハウスで会っていたところに、他の掘削員たちが帰ってくる。酔っていて、暴行をしたということだった。少女はここから裸足で逃げる。
彼氏も退役軍人のようだったが、退役軍人は職が見つからないらしいから、仕方なくここで働いていたのかもしれない。それでも、少女と一緒に、抜け出して新しい場所に行こうと話している姿は、たとえ夢物語だとしても幸せそうだった。
ここで働く他の白人たちも訳ありなのだろうとは思う。周囲に何もない、女もいない、楽しみがない。それはわかるが、だからレイプをしていいというわけはない。それに、インディアン保留地の近くで掘削をしているということは、追いやられた先住民たちをさらに追いやる行為でもある。
コリーは、逃げた犯人を追い、少女と同じように裸足で放置をする。「道へ出れば助かるが、お前など100メートルくらいしか走れないだろう」と言っていたけれど、本当にそれくらいしか走れず、すぐに肺から血を出していた。
少女は10キロ走ったのだ。それだけ、生きたいという強い意志があったのに、結局死んでしまったことを思うと本当にやりきれない。
親は自分のことを責めていたし、その気持ちもわかるけれど、少女のことは映画内でほとんど描かれないけれど、10キロ走って逃げたという情報だけで、性格までわかる。このあたりも描き方がうまいと思った。
たぶん本当にしっかり者で、親たちも信用していたのだと思う。
コリーとジェーンの病室での会話のシーン。「生き残るか、諦めるかしかない」というコリーの言葉が重い。普通に、のうのうと暮らしていては死んでしまうのだ。
保留地の中では、死因はガンより殺人の方が多いらしい。少女は、大人になるための通過儀礼のようにしてレイプをされる。そして、映画の最後には、『失踪した女性の人数は把握されていない』というテロップが出る。
やりきれない。こんなことなら、まだ猟奇殺人もののほうが救いがあった。
最近、ホワイトトラッシュを題材とした映画が多いけれど、本作はホワイトトラッシュとは違うけれど、こぼれ落ちた人々、見捨てられた人々、取り残された人々を描いているという点では共通していると思う。
そんな状況になっていることを、まったく知らなかった。知ることができただけでも、観てよかったです。
『ウインド・リバー』
Posted by asuka at 8:31 PM
『ボーダーライン』の脚本のテイラー・シェリダンが監督・脚本。その時点で気づくべきだったんですが、“なぜここで少女ばかりが殺されるのか”というコピーから猟奇連続殺人ものだと勝手に思っていたのですが、もっと重く、深く、考えさせられる内容だった。ニック・ケイヴの音楽も合っている。
主演はジェレミー・レナーとエリザベス・オルセン。「この扉を出たら君もアベンジャーズだ」のホークアイとスカーレット・ウィッチコンビ。
以下、ネタバレです。
舞台はワイオミング州ウインド・リバー・カントリー。冬は雪深く、厳しい土地のようだった。ここにインディアン保留地が舞台。私はインディアン保留地というのも知らなかったんですが、先住民が集められた場所がアメリカ国内に300箇所以上あるらしい。
本作で描かれている限り、牛がピューマに襲われたり、周囲には何もなかったり、雪もかなり降るようだったりと、住むのも大変そうな場所だった。
ジェレミー・レナー演じる コリーはここで野生動物被害に対応するハンターをしている。どうやら妻との関係がうまくいっていないようで、妻はこの場所を離れるらしい。観ているうちに明らかになるのだが、妻はネイティヴ・アメリカンの血をひいていて、白人のコリーはここに婿入りしたようだ。
コリーは野生動物の捕獲途中に少女の遺体を見つける。裸足、口から血が出ていて暴行の痕もあるという異常な状況。口からの血は、寒さで肺が傷つき、出血したとのこと。夜はマイナス30度になるらしい。そして、都会からやって来たFBIのジェーン(エリザベス・オルセン)と地元の保安官と協力して捜査を進めていくことになる。
コリーも娘を同じように亡くしていて、しかも遺体は野生動物に食われてしまっていてもう検視も何もできない状況だったことがあとで明らかになる。だから、今回遺体を発見した時のコリーは、どんな気持ちだったのか想像するとやりきれない。今回こそ、どうしても犯人を捕まえたかっただろう。
ジェーンはこの土地のことを何も知らないから、いわば観客と同じ目線であり案内役である。最初に訪れた時は自動車も冬仕様ではなかったし、服装も薄着だった。見くびっている。でも、この場所の土地の異常さは捜査をするうちに明らかになっていき、私もそれを知っていく。あまりにも無知だった。
雪山で見つかった遺体の少女の兄はヤク中ということで、悪いやつとも付き合いがあって、映画を観ながら、ああその辺りなのかなと思う。でも、違った。ただ、この映画の場合は違ったが、保留地でのドラッグが蔓延も根深い問題らしい。
そして、捜査班は殺された(というか、暴行は受けていても、直接の死因は凍死)少女の彼氏がいた掘削所へ乗り込む。
捜査の進展具合がよくわからないし、FBIはジェーン 1人だけで、お手伝いは来たものの権限は持たず、犯人が捕まえられたら運とも言っていたし、もしかして捕まらないのでは…と思い出していた。
しかし、掘削員たちの暮らすトレイラーハウスの扉をジェーンがノックする。中では髭の男性がシャワーを浴びている。そのままの姿で扉を開くと、扉の外には“殺された”少女が。一瞬にして過去に場面転換し、事件の種明かしが始まった。うまい。
シャワーを浴びていた男性がジョン・バーンサルだったため、こいつが犯人か!と思ってしまいました。
二人がトレイラーハウスで会っていたところに、他の掘削員たちが帰ってくる。酔っていて、暴行をしたということだった。少女はここから裸足で逃げる。
彼氏も退役軍人のようだったが、退役軍人は職が見つからないらしいから、仕方なくここで働いていたのかもしれない。それでも、少女と一緒に、抜け出して新しい場所に行こうと話している姿は、たとえ夢物語だとしても幸せそうだった。
ここで働く他の白人たちも訳ありなのだろうとは思う。周囲に何もない、女もいない、楽しみがない。それはわかるが、だからレイプをしていいというわけはない。それに、インディアン保留地の近くで掘削をしているということは、追いやられた先住民たちをさらに追いやる行為でもある。
コリーは、逃げた犯人を追い、少女と同じように裸足で放置をする。「道へ出れば助かるが、お前など100メートルくらいしか走れないだろう」と言っていたけれど、本当にそれくらいしか走れず、すぐに肺から血を出していた。
少女は10キロ走ったのだ。それだけ、生きたいという強い意志があったのに、結局死んでしまったことを思うと本当にやりきれない。
親は自分のことを責めていたし、その気持ちもわかるけれど、少女のことは映画内でほとんど描かれないけれど、10キロ走って逃げたという情報だけで、性格までわかる。このあたりも描き方がうまいと思った。
たぶん本当にしっかり者で、親たちも信用していたのだと思う。
コリーとジェーンの病室での会話のシーン。「生き残るか、諦めるかしかない」というコリーの言葉が重い。普通に、のうのうと暮らしていては死んでしまうのだ。
保留地の中では、死因はガンより殺人の方が多いらしい。少女は、大人になるための通過儀礼のようにしてレイプをされる。そして、映画の最後には、『失踪した女性の人数は把握されていない』というテロップが出る。
やりきれない。こんなことなら、まだ猟奇殺人もののほうが救いがあった。
最近、ホワイトトラッシュを題材とした映画が多いけれど、本作はホワイトトラッシュとは違うけれど、こぼれ落ちた人々、見捨てられた人々、取り残された人々を描いているという点では共通していると思う。
そんな状況になっていることを、まったく知らなかった。知ることができただけでも、観てよかったです。
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