『来る』



中島哲也監督作品。出演は松たか子、妻夫木聡、小松菜奈と監督お馴染みのメンバー以外にも岡田准一、黒木華など。
ホラーだとは思うけれど、いわゆるホラーという感じではない気がしました。でも、血はたくさん出るし、体は千切れる。
怖さよりは、嫌な気持ちになったり、絶望感を味わったりという面が多かった。

以下、ネタバレです。









予告編を見る限り、群像劇だと思っていた。不仲な夫婦と娘の元に何か怖い存在が現れて、でも力を合わせて乗り越えるのかなと思ってた。化け物は倒され夫婦仲も元に戻る。けれど、そんな話ではなかった。
中盤で妻夫木聡演じる秀樹があっさり殺される。
この秀樹が何から何まで苛々させる存在で、もう最初から人の話を聞かない。外面だけがいい。会社の女性社員とも関係を持ってそうだったし、結婚式に来てた派手めな女性たちともたぶん…。ブログに子育て写真を載せたり、実際は関わっていないのに良いことを書いて(これも結局外面…)イクメン会のスターになる。しかも満更でもない。イクメンたちのオフ会みたいなので、全員でIKUMEN CLUBと書いてあるトレーナーを着ていて、よくあんなむかつく小道具を思いつくなあと感心した。
子供ができて住んだ新居にはHOMEのO部分に写真をいれられるフォトフレームが置いてあって、なんだかその小道具もイライラした。
子育てを一切手伝わないのに育児書を読んで頭でっかちになってアドバイスだけしてくる、あれは悪気はないんですか? あのような性格なのだろうか。
とにかく私だけじゃないはずだけど、観客のヘイトを一身に集めまくる。

ただ、怪奇現象が起こり始めて、民俗学者でもある友人に相談して、オカルトライターの野崎を紹介してもらってからは、ほんの少しだけ印象は変わった。
野崎役に岡田准一。つるっとした美形のイメージだったけど、髭のせいもあるのか、年をとって顔に味が出てきた。
彼の友人の真琴は霊媒師兼キャバ嬢ということだったけれど、刺青が多く入っていて髪がピンク色で…ということで、キャバ嬢というよりはバンドマンに見えた。
「馬鹿なんで」が口癖なのは、周囲に散々そう言われたのだろう。でもいい子。

真琴の姉は凄腕の霊媒師で、予告で姿は見てるけど序盤だと電話だけ。それでも只者じゃなさは伝わってきた。
しかし、結局、秀樹は殺される。

それ以降は、秀樹の妻の香奈の話になる。
秀樹のことを、死んでほしかったと言っていて、観客としても、ここまでの秀樹の描写を見ていたらわかると思わざるを得なかった。
主要人物が死んでも悲しいと思わせないのは、うまく誘導されていたのだと思う。
後半で民俗学者の友人も、野崎に「あいつのことなんてどうでもいいと思ってたんでしょ?」と言うけれど、おそらく野崎も思っていたし、私たちも思っていたので、そのセリフを聞いてはっとしてしまった。
しかし、そう思っていたせいなのか、育児ノイローゼ気味だったせいなのか、香奈もわりとあっけなく殺される。
夫婦が二人とも死んでしまうとは思わなかったので驚いた。

そして、後半は真打ち登場というか、凄腕霊媒師の琴子の独壇場になる。
一本線ではない、少し変わった構成だなと思う。
夫へのヘイトがたまりにたまった段階でどかん、妻が病んでいく様子、そして祓いといった三部構成といった感じ。
未読ですが、原作もこうなっているらしく、一部の語り手が秀樹、二部が香奈、三部が野崎となっているらしい。ということは、かなり原作に忠実なのだろうか。

祓いのシーンは、神職大集合という感じでかなり盛り上がる。
沖縄のユタのばばあたちがタクシーでわいわいしてるシーンでは、ああ、こういうピンチに駆けつける空気の読めないばばあが最強って法則でもあるよな…と思いながら観ていたけれど、そのタクシーが襲撃されて、一瞬でばばあたち全員が滅せられてしまう。法則が逆手にとられていて、絶望感があおられた。
その後、三重から(?)新幹線で向かっていた重鎮っぽいじいさんたちが別れて乗ろう、一人でも辿り着かねばみたいに言ってるのも、相手の強大さがわかって怖かった。姿は出ません。じいさんたちが神主なのもあとでわかる。
実は私は、この一連のシーンが映画内で一番怖かった。

マンションの外に祓いの舞台が設置されている様子は、重大なことが起きようとしているのに少しわくわくしてしまった。女子高生たちがはしゃいでて、場違いだな…と思っていたのですが、巫女さんたちで、あとで舞を踊っていた。
神社にある清めの白い石が敷き詰められたり、太鼓が叩かれていたりと、全部盛りのようになっていた。これは外国でも受けそうな要素だと思った。

部屋で祓っている琴子とわたわたしてる野崎の対比は少し笑ってしまうほどだった。パンチを一発くらっていた。リセッシュのような除菌スプレーが除霊に役立つと言われていたのもへーと思ってしまった。

ただ、祓いのシーンだけではないのですが、どうしてもVFXの安っぽさが気になってしまった。体が千切れていてもあまり怖くなかったのも、偽物っぽかったからかもしれない。日本映画はお金がないので仕方ないけれど…。

また、結末が少しわかりにくかったけれど、知紗を返そうとしていたのは、取り憑かれていた琴子なのだろうか。虫を吐いていたし、野崎と真琴が必死に対抗したということなのかな。
最後はオムライスの夢を見ていたくらいだし、もう取り憑いていないと思う。

琴子の行く末は謎のままだったが、琴子と真琴の比嘉姉妹シリーズが原作にあるらしいので、ここで死んだわけではないと思う。比嘉姉妹シリーズ興味ある。

序盤で、妖怪なんていない、人は都合の悪いことを妖怪のせいにすると言っていたので、結局夫婦仲の修復に重きが置かれるのかな…と思っていたけれど、そんな結末にはならず、がっつり化け物退治だった。ただ、姿が出てくるわけではないです。ちゃんと妖怪はいたのでよかった。おもしろかったです。

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