『ヘレディタリー/継承』
Posted by asuka at 6:41 PM
ホラーが苦手なんですが、最近は(とはいえ、今まで観てないからもしかしたら昔からかも…)出来のいいホラー映画が多く、特にジャンル映画好きでない人からも評価されていたので観ました。
あと、信頼している制作会社A24だったということもあります。
出演はトニ・コレット、アレックス・ウルフなど。
監督はアリ・アスター。今回が長編監督デビュー作らしい。
ちょっともう思い出すのも怖いので感想もあんまり書きたくないので短めに。
以下、ネタバレです。
祖母が亡くなる葬式から始まる。
亡くなった祖母の夫も息子も亡くなっていて、祖母含め、全員精神を患っていた。
一応、主人公的なポジションである母のアニーも、夢遊病である。そのため、途中、どれが本当でどれが夢想なのかわからないシーンもあった。主人公が信用できないタイプの物語はそれだけで不安定になる。本作は共感すべき人物がおらず、誰目線で観たらいいのかがわからない。
唯一まともだと思われた父も、後半では薬を飲んでいたし、昼間から酒を飲むなど疲弊していた。
謎の文様のペンダント、謎の文字、どこか不気味な妹チャーリー…と怖いけど、ちょっとわくわくもしてしまうような謎解き要素が出てくる。チャーリーは死んだ鳩の首をハサミでちょんぎりポケットに入れるとか、葬式で板チョコを齧っているとか、描く絵がちょっと怖いとかあやしい要素が満載なんですが、板チョコ描写は「ナッツが入ってなかった?」というセリフで、アレルギー持ちであることを示すための前ふりだった。
チャーリーが兄のピーターに着いて行ったパーティで、ピーターが女の子と遊ぶため、「そこでケーキでも貰って待ってな」と言うんですが、そのケーキ、少し前にナッツ刻んで入れてたんですよね。観てる人だけが、あーあと思う。思うけれど、ここから起こることが本当に酷い。
アレルギーが発症して、ピーターが急いで病院に連れていく。普通なら、間に合って、アニーに怒られて終わりですよ。でも、この映画では、息ができないチャーリーが車の窓から顔を出し、ピーターは動物を避けるためにハンドルを切って、チャーリーの頭が電柱に当たってもげるという…。
こうなったら嫌だなということが連続で起こった。
家に帰ると、遅く帰ってきたのを心配していたのか、「ああ、帰ってきたわね」みたいなアニーの声だけ聞こえる。カメラはピーターを追うんですが、ピーターは父母と顔を合わさずに、直接自分の部屋へ戻る。えっ!それは…と思っていると、翌朝、アニーの半狂乱の悲鳴が響く。そりゃそうだ、車の後部座席に娘の首なしの遺体があるのだから。
悲鳴は響き続け、そのまま葬式のシーンに移る。
この連続描写がうまいなと思ったんですが、他でも同じ景色を映していてぱっと朝に変わったりと時間の示し方の演出が良かった。
ちなみに、アニーの叫び声も怖かったですが、叫び顔も怖い。A24のサイトでピンバッチが売っている。
自分の代わりに夫が燃えてしまい、何かがぷっつりと切れたアニーの顔も怖かった。
変に茶色くて歪んだ景色だなと思ったら、チャーリーの葬式の会食の場に入れないピーターがステンドグラス越しに部屋の中を見ていた景色だった。
大きい音をさせるびっくり描写はほとんどないんですが、登場人物の視点(というか、登場人物のすぐ後ろをついていく視点)になってるカメラとか、閉められた扉をじっと映すカメラなどが不穏で怖く、撮り方も凝っている。チャーリーのシーンだけではなく、嫌な予感が連続で的中してしまう。人を不安な気持ちにさせるのだ。
個人的にですが、子供の頃に『オーメン』を観たせいで、首がちぎれる描写が特に怖いんですが、この映画ではこの先も何度もちぎれる。怖い。
特に上から吊るされた人がワイヤーで自分の首をちぎるのは本当に怖かった。
また、頭打ちつけも個人的に苦手ですが(追記:なんで苦手なのか考えてたんだけどたぶん『ツイン・ピークス』)、これも多かった。怖い。
考えうる限りの怖い描写が次々と出てくる。ここが一番怖かった!というシーンが何箇所もある。
チャーリーが喉を鳴らす癖も、死んだ後も何回か聞こえてきて怖かった。また、チャーリーが絵を描いている鉛筆の音が右上のほうからずっとカリカリカリカリ聞こえてくるのも怖かったので、映画館向け。
あと、関係ないのですが、TOHOシネマズ新宿はMX4Dのせいで他のスクリーンも揺れるんですが、その揺れすらも効果になってしまっていて怖かった。
また、映画自体がすっきりと終わるわけではないので、観た後も残り続ける。
ホラー映画でも後半が痛快爽快だったり、ストーリー展開がうまいと膝を打つようなタイプだと、終わった後でもすっとしますが、そうではないため、自分の中に残ってしまう。
部屋の奥にぼんやりしたものが映っていて、あ!幽霊がいる!という描写が多かったんですが、このままだと家で見てしまいそう。
同じ家族の幽霊でも『ア・ゴースト・ストーリー』とは全く違う。あのような家族を見守る優しいゴーストが珍しいのかもしれないけれど。
嫌な気持ちが残ってしまっていて、まだ怖い。
ストーリー的には、最初は家族の不和なのかなと思っていた。結局、チャーリーを亡くしても三人で頑張っていこうねという話なのかと思っていた。けれど、父までもが薬を飲み始めた時点でこれは違うぞ…と思った。
悪魔崇拝の話だった。公式サイトのネタバレ解説を読むと、なるほど、最初からほのめかされていたのね、と思う。でも、映画を観ずにネタバレだけ読んでもまったく怖くないであろうあたりが、おもしろい。Wikipediaにもストーリーが全て書いてあるが、読んでも特に怖くない。やはり、ストーリーというよりは映画自体が怖かったのだ。
王にされて崇められたピーター(というよりは悪魔が入っているのか)の表情には色気があり、アレックス・ウルフの演技もうまいと思った。
けれど、救いはこれくらいです。
人の名前のアルファベットが一文字ずつ引き継がれていく継承エンドロールが凝っていた。
けれど、それすらも怖い。ここまで怖い気持ちが残る映画もなかなかないのではないかと思う。怖かったし、いやーな気持ちが残っているけれど、観なきゃよかったとは思わない。けれど、おすすめできるかと言ったらなかなかしづらい。
calendar
ver0.2 by バッド
about
- asuka
- 映画中心に感想。Twitterで書いたことのまとめです。 旧作についてはネタバレ考慮していませんのでお気をつけ下さい。
Popular posts
-
アカデミー賞で作品賞、主演男優賞、歌曲賞ノミネート、脚色賞受賞。その他の様々な賞にノミネートされていました。 以下、ネタバレです。 北イタリアの別荘に夏の間訪れている家族の元に、一人の青年が訪れる。家族の父親が教授で、その青年は教え子である。 まず舞台の北イタリアの夏の風景が素晴...
-
ウェス・アンダーソン監督作品。前作の『ムーンライズ・キングダム』は、ブルース・ウィリスやティルダ・スウィントンは良かったし、家の中の撮り方も良かったけど、お洒落映画でしかないかなという感想だった。そのため、今回もかまえてしまっていたけれど、すごく面白かった。 やはり、撮り方な...
-
いわゆるロードショー公開はされない注目作を上映するのむコレ2018にて上映。 今年公開された映画らしい。 あまり内容を調べずに観たので、タイトルと、主演が『ゲーム・オブ・スローンズ』のラムジー役でお馴染み、ウェールズ出身のイワン・リオンだったため、RAFのイギリス部隊の話かと思っ...
-
試写会にて。わかったことと、わからないこと。 以下、ネタバレです。 クーパーがどうやって助けられたのかがよくわからなかったんですが、あの時のアメリアの顔は幻じゃなかった。映画の序盤でワームホールを通る時に、アメリアが“彼ら”の姿を見てハンドシェイクをする。結局“彼...
-
ドルビーアトモスで観たんですが、席が前方だったせいもあるかもしれないけれど、あまり音の良さはよくわからなかった。前回がIMAXだったからかもしれない。 IMAXと同じく、最初のプロモーション映像みたいなのはすごかった。葉っぱが右から左へ。 以下、二回目で思ったことをちょこ...
-
2013年公開。あんまり評価がよくなかったので映画館へは行かなかったんですが、ハリー・トレッダウェイが出ているということで観てみたらおもしろかった! 映画館で観れば良かった。 149分と多少長く、長いわりにエピソードが細切れでまとまってない印象はあったけれど、これも劇場で観ていれ...
-
ほぼ半月あけて後編が公開。(前編の感想は こちら ) 以下、ネタバレです。 流れ自体は前編と同じ。ジョーがこれまであったことを話し、それに対して、セリグマン(今回はちゃんと名前が出てきた。ステラン・スカルガルドが演じている男性)が素っ頓狂なあいづちをうつ、と...
-
IMAXレーザーというと109シネマズ大阪エキスポシティのものが有名ですが、このたび109シネマズ川崎と名古屋にも導入された。そのプレオープンで『ダンケルク』の上映があったので行ってきました。 ただし、大阪のレーザーはGTテクノロジー(旧次世代レーザー)という名称で、スクリーンの...
-
新宿シネマカリテにて、毎年行われているちょっと変わった作品を集めた映画祭カリコレにて上映。 ステファン・ダン監督初長編作品。カナダ出身なのと、同性愛もの、家族もの、音楽がふんだんに取り入れられたスタイリッシュな映像…ということこで、第二のグザヴィエ・ドランというふれこみの...
-
2000年公開。曲や映像づくりなど、とてもダニー・ ボイルらしい映画だった。 幻のビーチに辿り着くまでの話なのかと思っていたけれど、 かなり序盤でビーチには辿り着いてしまう。 そこから物語が展開していくということは、 ビーチがただの天国ではなかったということ。 一人旅の若者が...
Powered by Blogger.
Powered by WordPress
©
Holy cow! - Designed by Matt, Blogger templates by Blog and Web.
Powered by Blogger.
Powered by Blogger.
0 comments: