『ヘレディタリー/継承』



ホラーが苦手なんですが、最近は(とはいえ、今まで観てないからもしかしたら昔からかも…)出来のいいホラー映画が多く、特にジャンル映画好きでない人からも評価されていたので観ました。
あと、信頼している制作会社A24だったということもあります。
出演はトニ・コレット、アレックス・ウルフなど。
監督はアリ・アスター。今回が長編監督デビュー作らしい。

ちょっともう思い出すのも怖いので感想もあんまり書きたくないので短めに。

以下、ネタバレです。










祖母が亡くなる葬式から始まる。
亡くなった祖母の夫も息子も亡くなっていて、祖母含め、全員精神を患っていた。
一応、主人公的なポジションである母のアニーも、夢遊病である。そのため、途中、どれが本当でどれが夢想なのかわからないシーンもあった。主人公が信用できないタイプの物語はそれだけで不安定になる。本作は共感すべき人物がおらず、誰目線で観たらいいのかがわからない。
唯一まともだと思われた父も、後半では薬を飲んでいたし、昼間から酒を飲むなど疲弊していた。

謎の文様のペンダント、謎の文字、どこか不気味な妹チャーリー…と怖いけど、ちょっとわくわくもしてしまうような謎解き要素が出てくる。チャーリーは死んだ鳩の首をハサミでちょんぎりポケットに入れるとか、葬式で板チョコを齧っているとか、描く絵がちょっと怖いとかあやしい要素が満載なんですが、板チョコ描写は「ナッツが入ってなかった?」というセリフで、アレルギー持ちであることを示すための前ふりだった。

チャーリーが兄のピーターに着いて行ったパーティで、ピーターが女の子と遊ぶため、「そこでケーキでも貰って待ってな」と言うんですが、そのケーキ、少し前にナッツ刻んで入れてたんですよね。観てる人だけが、あーあと思う。思うけれど、ここから起こることが本当に酷い。
アレルギーが発症して、ピーターが急いで病院に連れていく。普通なら、間に合って、アニーに怒られて終わりですよ。でも、この映画では、息ができないチャーリーが車の窓から顔を出し、ピーターは動物を避けるためにハンドルを切って、チャーリーの頭が電柱に当たってもげるという…。
こうなったら嫌だなということが連続で起こった。

家に帰ると、遅く帰ってきたのを心配していたのか、「ああ、帰ってきたわね」みたいなアニーの声だけ聞こえる。カメラはピーターを追うんですが、ピーターは父母と顔を合わさずに、直接自分の部屋へ戻る。えっ!それは…と思っていると、翌朝、アニーの半狂乱の悲鳴が響く。そりゃそうだ、車の後部座席に娘の首なしの遺体があるのだから。
悲鳴は響き続け、そのまま葬式のシーンに移る。
この連続描写がうまいなと思ったんですが、他でも同じ景色を映していてぱっと朝に変わったりと時間の示し方の演出が良かった。
ちなみに、アニーの叫び声も怖かったですが、叫び顔も怖い。A24のサイトでピンバッチが売っている。
自分の代わりに夫が燃えてしまい、何かがぷっつりと切れたアニーの顔も怖かった。

変に茶色くて歪んだ景色だなと思ったら、チャーリーの葬式の会食の場に入れないピーターがステンドグラス越しに部屋の中を見ていた景色だった。
大きい音をさせるびっくり描写はほとんどないんですが、登場人物の視点(というか、登場人物のすぐ後ろをついていく視点)になってるカメラとか、閉められた扉をじっと映すカメラなどが不穏で怖く、撮り方も凝っている。チャーリーのシーンだけではなく、嫌な予感が連続で的中してしまう。人を不安な気持ちにさせるのだ。

個人的にですが、子供の頃に『オーメン』を観たせいで、首がちぎれる描写が特に怖いんですが、この映画ではこの先も何度もちぎれる。怖い。
特に上から吊るされた人がワイヤーで自分の首をちぎるのは本当に怖かった。
また、頭打ちつけも個人的に苦手ですが(追記:なんで苦手なのか考えてたんだけどたぶん『ツイン・ピークス』)、これも多かった。怖い。
考えうる限りの怖い描写が次々と出てくる。ここが一番怖かった!というシーンが何箇所もある。

チャーリーが喉を鳴らす癖も、死んだ後も何回か聞こえてきて怖かった。また、チャーリーが絵を描いている鉛筆の音が右上のほうからずっとカリカリカリカリ聞こえてくるのも怖かったので、映画館向け。
あと、関係ないのですが、TOHOシネマズ新宿はMX4Dのせいで他のスクリーンも揺れるんですが、その揺れすらも効果になってしまっていて怖かった。

また、映画自体がすっきりと終わるわけではないので、観た後も残り続ける。
ホラー映画でも後半が痛快爽快だったり、ストーリー展開がうまいと膝を打つようなタイプだと、終わった後でもすっとしますが、そうではないため、自分の中に残ってしまう。

部屋の奥にぼんやりしたものが映っていて、あ!幽霊がいる!という描写が多かったんですが、このままだと家で見てしまいそう。
同じ家族の幽霊でも『ア・ゴースト・ストーリー』とは全く違う。あのような家族を見守る優しいゴーストが珍しいのかもしれないけれど。
嫌な気持ちが残ってしまっていて、まだ怖い。

ストーリー的には、最初は家族の不和なのかなと思っていた。結局、チャーリーを亡くしても三人で頑張っていこうねという話なのかと思っていた。けれど、父までもが薬を飲み始めた時点でこれは違うぞ…と思った。
悪魔崇拝の話だった。公式サイトのネタバレ解説を読むと、なるほど、最初からほのめかされていたのね、と思う。でも、映画を観ずにネタバレだけ読んでもまったく怖くないであろうあたりが、おもしろい。Wikipediaにもストーリーが全て書いてあるが、読んでも特に怖くない。やはり、ストーリーというよりは映画自体が怖かったのだ。

王にされて崇められたピーター(というよりは悪魔が入っているのか)の表情には色気があり、アレックス・ウルフの演技もうまいと思った。
けれど、救いはこれくらいです。

人の名前のアルファベットが一文字ずつ引き継がれていく継承エンドロールが凝っていた。
けれど、それすらも怖い。ここまで怖い気持ちが残る映画もなかなかないのではないかと思う。怖かったし、いやーな気持ちが残っているけれど、観なきゃよかったとは思わない。けれど、おすすめできるかと言ったらなかなかしづらい。


0 comments:

Post a Comment