『I'M FLASH!』


豊田利晃監督作品。復帰後の『蘇りの血』や『モンスターズクラブ』に比べたら、だいぶわかりやすくはなってるけど、やはり難しかった。この三作はすべて、豊田監督自身が脚本も書いている。おそらくテーマは同じで、全部で死生観を描いていると思う。
前二作が寓話的でポエティックだったのに対して、今回は最初のセリフが「DVD返してくるね」「気をつけてね」という日常会話で、ストーリーがちゃんとあるタイプの映画なのではないかと期待しました。
以下、ネタバレを含みますが、理解し切れていないため、ネタバレにもなっていないかもしれません。







殺し屋(松田龍平)と教祖(藤原竜也)の対決というような前情報を頭に入れてみていたら、少し雰囲気が違っていた。教祖は教祖をやめようとしているところから始まって、龍平他、二人の殺し屋がボディガードとして雇われていた。
この殺し屋三人組が良いキャラクターだった。若い衆を演じるのが永山絢斗。豊田映画には瑛太がよく出演していましたが、今回は弟さんが出演。チンピラ風おっさん殺し屋を演じるのが元アナーキーの仲野茂。仲野さんにしても音楽関係に明るい豊田監督ならではだと思うし、もう一人は龍平だし、三人とも監督らしい人選だと思う。ちなみに脇役も豊田映画ではお馴染みの板尾創路、大楽源太、渋川清彦などで固められている。

今回、他の豊田作品と違う点は、舞台である沖縄にこだわった画づくりがされているところだと思う。あと、料理がおいしそうに撮られていて、食事シーンも多い。特に食については、ストーリーと直接関係があるわけではないし、理由がわからない。舞台を丁寧に描写したのは、青すぎる海という“異世界感”と島という“孤立した空間”が、Life Is Beautiful(藤原竜也演じるルイの教団)の本拠地として最適だったのかもしれない。

また、ルイが水中で槍をもって魚を捕らえるシーンが何度か出てくるのが印象的。実際に、藤原竜也自身が潜って魚を獲っているらしい。しかも、ほぼカナヅチというところから特訓したという。役者魂を感じました。
そのあと、その魚を食べるシーンで、「苦しまずに死んでるからうまい」というような言葉をきっかけに、死生観の話になる。
このシーンに関わらず、死生観については序盤からずっと登場人物のモノローグを借りても語られているので、今回もテーマはその辺なのだと思った。ここ最近の豊田監督作品に貫かれているこの死生観ですが、それについて考えるようになったのは、原田芳雄さんの死が強烈なきっかけだったらしい。また、テーマが死生観であるならば、多用された食事シーンも、それを生のイメージとしてとらえていいのかもしれない。

ラスト付近で、和やかな会食シーンが一転して銃撃戦になるのは、タランティーノを意識しているような感じがしておもしろかったんですが、どうなんだろう。その後にやっと龍平と藤原竜也の対決になるのですが、もう本当に最終戦というかクライマックスで、もう少し二人の対決を長く見たかった気がします。藤原竜也の白い修行服と龍平の死神ばりの黒いスーツの対比も画的にも良かった。

過剰なまでの大量出血シーン、血みどろシーンがなかったのは、豊田監督らしくない気がする。血みどろが出産や生まれ直しをイメージしているならば、『モンスターズクラブ』では、ラストでメイクをして町に下りて行ったシーンだってそうなのだろうし、今回では、タイトル通りの閃光とともに、一方が死に、一方が目覚めるシーンで、それが体現されていたのかもしれないけれど、よくわからない。ただ、あのシーンは、ルイとバイクの少年は死ぬけれども、不思議と希望に溢れた印象を残す。未来みたいなものを感じさせてくれるからなのかもしれない。

テーマ曲は鮎川誠の『I'M  FLASH!』のカヴァーで、作品自体もこの曲からインスパイアされたとのこと。カヴァーしている面子が、チバユウスケ、ヤマジカズヒデ、中村達也、kenkenと豪華だけど、これが今まで豊田監督と関わってきた人なのがすごい。チバユウスケはTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTが『青い春』の音楽担当だったし、ヤマジカズヒデはdipが『ナイン・ソウルズ』の音楽担当。中村達也は『蘇りの血』の主演で、kenkenは『モンスターズクラブ』出演。

ちなみにチバユウスケは現在、SNAKE ON THE BEACHというソロプロジェクトを始動させたらしい。その楽曲から『赤い季節』という映画が作られていて、これの主演が新井浩文なのも楽しみで期待しています。予告を見る限り、なかなかハードボイルドな内容っぽい。彼の主演作は『松ヶ根乱射事件』以来というのは意外。

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