『いとしきエブリディ』


試写会にて。
淡々としていながらも、観終わったあとにふわっとしたあたたかさが残る良作。原題は『
EVERYDAY』 ですが、ここに“いとしき”が付けられた邦題はすごくいいと思う。
IMDbのキャスト欄を見たところ、同じ名前の人が四人いて、何かと思ったら四兄弟は実際の兄弟らしいです。
以下、ネタバレです。





ストーリーは、刑務所に入った父親を待っている四人の子供と母親の、出所するまでの日々という、いたって単純なもの。その日々は何も起こらないわけではないけれど、過剰にドラマティックには描かれないし、説明もほとんどない。父親の捕まった理由も不明。

春とか冬とか何ヶ月後みたいな表示は出なくても、スクリーンに映し出されるイギリスの田舎の農村風景を見れば、季節の移り変わりがわかる。草が枯れていて牧草ロールが置かれていれば冬の準備、樹木から葉が落ちていれば冬、草が青々としていたら春から夏くらいなのだろうなと思う。同じように、登場人物の服装からも季節がわかる。

そんな中で、刑務所内の父親はほとんど同じ服装だし、部屋からは季節もわからないのが対照的だった。刑務所内の男の心情は語られなくても、それだけで過酷さがうかがえる。

季節の移ろいが何回か繰り返されるので、何年間かの話なのだろうなとは思うけれど、季節ごとにまとめて撮影しているのかと思ったら、実際に5年間かけて撮影されたらしい。そういえば、子供たちの表情は少しずつ確実に成長していた。

まるで、ドキュメンタリーのような密着加減だし、子供たちは実際の兄弟とのことですが、ここで泣いてくださいとか、演技はさせていたらしい。自然すぎて、どこからどこまでが演技なのかわからない。

季節は変わっていっても、学校に通う道は繰り返し出てくるし、朝食は掻き込むようにシリアルだ。母親一人で時間と余裕のない育児の日々が続いて行く。
映画に出てるのは、他の日と違った何かがあった日で、他は気が遠くなるような日常が続いていたのだろう。それを一人で乗り切るのはつらい。子供を一人で寝かしつけて、ベッドでため息をついていた。
それなのに、ハシシを持ち込んだのがバレて刑期を伸ばす父親は阿呆です。妻の多少の浮気も仕方ないと擁護したい。子供たちだって、海で遊んでもらってて楽しそうだった。
でも、父親は妻のことが好きすぎる描写が何度も出てくるんですよね。たぶん、子供より好きそう。だから、可哀想ではあるけれど、だったら余計におとなしくしてないといけないだろう。

ラストで家族六人で冬の海にいるシーンが本当にいい。カメラが上へ移動していって、家族以外に誰もいないのがわかる。なんてことはないシーンなのに、じんわりと滲み出るような感動が広がる。マイケル・ナイマンの音楽もいい。

音楽は全編にわたって、寄り添うように、見守るように穏やかに流れている。それが、イギリスの田舎の風景とよく合っている。イギリス東部のノーフォークという町らしいです。山が見当たらなく、だだっ広いのがたまらない。
父親のいる刑務所はロンドンにあって、電車で面会に向かうんですが、一時間半の映画内に「電車が遅れた」というセリフが二回くらい出てきて、イギリスの郊外の電車って本当に遅れるのだということを再確認しました。

父親役のジョン・シムという役者さんは、どことなくレディオヘッドのトム・ヨークに似てた。THE英国人な顔立ちで好きです。調べたら、イギリスのドラマによく出ている人みたい。特にDoctor Whoが気になる。
同じ監督マイケル・ウィンターボトム、音楽マイケル・ナイマンの『ひかりのまち』(99年)は妻役の女優さんとも一緒に出ているみたいで観たい。

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