『ルビー・スパークス』


2012年公開。ポール・ダノ主演ということで、観たかったんですが、脚本とルビー役のゾーイ・カザンが実生活でも彼女だということで、なんとなくの嫉妬心から映画館へは行けませんでした。

スランプに陥った作家が書いた小説の女の子が、現実に飛び出してきて恋に落ちる…というストーリーから、ファンタジーお洒落恋愛映画かなと思っていた。もちろん、ファンタジー的な要素もあるし、ポール・ダノもちょっと髪の毛を茶色く染めていたり、ルビーのファッションもお洒落ではあったけれど、それだけではなかった。

映画の序盤の二人は、きっと付き合い始めて三ヶ月くらいの良い面しか見えてない時期のようでとても楽しそう。しかし、時間が経つにつれて嫌な面が見えてくる。嫌われるのを恐れて、主人公のカルヴィンはルビーを思い通りにあやつろうと、タイプライターに文章を打ち始める。

「あなたが付き合えるのはあなただけ」という元彼女の言葉が示す通り、カルヴィンは相手を自分の型にはめようとしていた。ルビーは自分の創作物なのだから、恰好の相手だった。

ラスト付近、怒ったカルヴィンは黙ってカチカチとタイプライターを打ちながら、ルビーに様々な指示を送る。しかし、目の前で服を脱ぎながら踊ったり、あなたのことが好きだと言っていても、まったく嬉しくも楽しくもなさそうで、そのうち、犬にしたり、「あなたは天才!」と連呼させるなど、わざと自分の嫌なことをさせていた。
まるで自分で自分を責めるようなその所業。カルヴィンのセリフはなく、タイプライターを泣きながら打っているだけだったが、支配者気取りの狂った感じから、どうしたらいいか自分でもわからなくなってしまったような苛立ちまで、見事に演じていた。歪で暗くて、いつものポール・ダノです。

人を思い通りにすることで、その虚しさに気づくという逆説的な方法がとられていた。本来は相手は自分の思い通りに動かないのが普通なのだと、やっと気づいて成長する。
一見、奇抜なストーリーと思いきや、その根本にあるのは普遍的でわかりやすく、共感も得られるメッセージだった。

彼女との別れもタイプライターの文章で。言葉はなく、タイプされる文字を映していくというカメラワークがうまい。

監督は『リトル・ミス・サンシャイン』のジョナサン・デイトン&ヴァレリー・ファリス。あまり深い描写はないけれども、カルヴィンの家族の一風変わった家などはこの監督らしく、もう少し細かく見たかった。ファミリーものではなくあくまでもラブストーリー主体ということだろう。
作中でははっきりとは描かれないけれど、カルヴィンは母親の恋人・モートをあまりよく思っていなさそうだった。モートによって変わってしまった母親のことを憂いてるようだった。それも結局、彼女の気持ちを考えず、いつまでも自分の知っている母親でいてほしいという願望からなのだろう。
モートの奔放さがルビーと似ているのも面白い。カルヴィンは元々ルビーのそんな部分に憧れを抱いて作ったのだろうから、モートのことも、心の中では憧れていたのではないだろうか。憧れ半分、嫉妬半分かもしれないけれど。
カルヴィンの相談相手であり、友人でもある兄のハリーも魅力的なキャラクターだった。

曲の使い方も素敵だったんですが、音楽のニック・ウラタさんは『フィリップ、きみを愛してる!』の方らしい。

一つ気になったのは、結局ルビーは本当に小説から飛び出してきたのかなど、存在がよくわからないままだというところ。最後には記憶を消したルビーと偶然会ってもいたから、存在がまるまる消えてしまったわけでもなかった。最後に“彼女はもうカルヴィンの創造物ではない”と書いていたので、本物の人間になったということなのだろうか。
最後、小説を書く手段をタイプライターからMacBookに変えてたけれど、あのタイプライターもしくは紙が原因だったのだろうか。でも別に、どこかで拾ってきたタイプライターという風でもなく、ずっと使っていたものだったようなので、不思議なタイプライターってわけでも無さそうだったけれど。

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