『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』


世界観がたまらなく好きでした! ジム・ジャームッシュ監督、トム・ヒドルストンとティルダ・スウィントンが吸血鬼の恋人同士、ジョン・ハートとミア・ワシコウスカも吸血鬼役で出るという情報だけでもう、とんでもなく期待をしていたんですが、裏切られませんでした。ただ、アート寄りの作品なので、好き嫌いは出そう。

ガチガチに作り込まれた景色の中に、完璧に作り込まれた俳優さんが配置されていて、どこを切り取っても絵になる。まるで美術品を鑑賞するみたいに映画を観ました。
完璧に作り込まれているので人間味はない。いいんだよ、吸血鬼だもの。

以下、ネタバレです。







吸血鬼の話のせいで夜や部屋の中でのシーンが多いからかもしれないけれど、色もかなり寒々しく統一されていた。その中で、コップに入った血の赤さだけがとても鮮明に見えたのは、たぶん何か色をいじっているのだと思う。モノクロ映画で血だけが赤いような印象だった。

小さいコップで飲み干して、恍惚とした表情で口を開くと牙が少し見えるのが色っぽかった。ただ、このように血を摂取している以上、人間の首に噛み付いて血を吸うシーンはないのだなと思って残念な気がした。ヴァンパイア映画において、一番色気のあるシーンだと思うので。途中のセリフでも出てきますが、15世紀ではなくもう21世紀なのだから、とのことです。時代遅れなんですね。

トム・ヒドルストン演じるアダムとティルダ・スウィントン演じるイヴは恋人同士というより結婚してました。しかも何世紀も前から。
ラブストーリーというと、二人の危機が訪れて克服してハッピーエンドみたいなものが多いですが、二人にはあてはまらない。もうそうゆうのは越えた存在だった。
ミア・ワシコウスカ演じるイヴの妹、エヴァが現れて一騒動あるという前情報を聞いた時にも、二人の中を邪魔するのかと思ったら、恋仲ではなくもっと大幅にひっかきまわす役だった。
最後のほうの血がなくてピンチに陥っているときに、イヴが「あなたに贈り物をしたいから全財産をちょうだい」と言ったときも、恥ずかしながら全財産を持って逃げてしまうのかと思ってた。琵琶にも似たウードという楽器を買ってきてあげてた。ギターも置いてきてしまったし、音楽好きの彼にモロッコの楽器を。本当に愛ですね。

二人がベッドの上で向かい合って全裸で寝ているシーンがあったんですが、まったくいやらしくない。本当に絵画みたいでした。裸だと余計に作りものめいていた。

二人の背格好がよく似ていたのもおもしろい。長身で手足が長くて、性別が曖昧。ティルダが髪が白に近いブロンドで服装も白、対するトムヒは黒髪に黒い服装だったので、二人が寄り添っていると、陰陽のマークにも見えた。

血を吸うシーン自体は出てこないですが、最後の最後で噛み付こうとしているワンショットが出てくる。こちらに向かって歯を剥いている画で、そうくるとは思わなかったし一瞬だったので、イヴの顔しか見てなかったんですが、アダムも口を開いていたのかな。それを確かめにもう一度観たいくらい。

エヴァはあぶなっかしいし言うことを聞かないし、あーこれ絶対に何か悪いことが起こるな…と思っていたら案の定起こるあたり、かなりイライラさせられた。ただ、観終わってからは、あの無邪気さが子供っぽくて可愛く思えてくる。酷い目に遭わされたけれど、憎めない役だった。でも、あのタイプは反省しないだろうし、直らないと思う。

舞台がいまや廃墟の町となったデトロイトと、治安が悪いことでも有名なタンジールというのも良かった。デトロイトのつぶれた劇場が駐車場になっている建物は実際にあるみたいですね。
また、両方の町のライブハウスが出てきたのもおもしろかった。特に、タンジールのライブハウスで歌っていた女性は役名がヤスミンで本名もヤスミンのようだった。「これから有名になるな」というアダムの言葉は、そのままジム・ジャームッシュの言葉に置き換えられるのかもしれない。
アダムはアンダーグラウンド音楽を作っていて、でも姿を見せないあたりがミステリアスで人気があるという役だったし、部屋でもヴィンテージギターを弾いたりアナログ盤をかけたりしていた。エンドロールでも劇中で彼が作ったとされる重くディレイのかかった曲が流れていたし、音楽映画の側面のあると思う。

いくつか謎が残ってるんですが、手袋をしていたのはなぜなんでしょう。今回みたいに突然逃げることになることもあるから指紋をつけないようになのかな。サングラスも同じ理由でしょうか。
エヴァがパリで起こした事件がなんだったのかは明らかにならなくてもいいんですけれど、タンジールへ行く飛行機のロンドン経由がまずいのはどうしてだったんでしょうか。パリとは関係ないけど近いから? それとも、ロンドンでも何かやらかしたことがあるんでしょうか。そう考えると、長い年月の間に、行けない場所がかなり増えていそう。
アダムが発注した弾丸は、胸に当てていたし、いつか自殺をするためだったんでしょうか。

いくつか謎が残っていても、すべてをあきらかにする必要はないか、とも思えるのが、こうゆうアート系作品のいいところ。観ていて、どことなく懐かしい気持ちになってしまったのは、昔、このタイプの耽美趣味の作品を頻繁に観ていたせいでしょう。

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