『インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌』


コーエン兄弟監督作品。ルーウィン・デイヴィスは実在する人物なのかと思っていたが、最後に“現在のルーウィン・デイヴィスは”みたいな文章も出なかった。デイヴ・ヴァン・ロンクという実在するフォーク歌手をモデルにしているらしい。
アカデミー賞撮影賞と録音賞にノミネートされていました。

以下、ネタバレです。





フォークにこだわりを持つミュージシャンというだけで、もうロクでもなさそうな雰囲気だけれど、実際かなりのろくでなしだった。まず家がなくて、知り合いの家を点々としてカウチで寝させてもらっている。その家では暴れるし、女友達を妊娠させる。ライブハウスの店主のご好意で出演させてもらっているが、他の出演者 にヤジを飛ばす。
周囲の人間にはかなり恵まれているようだった。彼がろくでなしなのをわかっていて許容していそうだった。

キャリー・マリガン演じるジーンは本気で怒っていたけど。罵倒の数々が痛快ですが、特に、「コンドーム二枚重ねよりも、巨大なコンドームの中にお前ごと入れ」と「私に触るな、というか、生き物全般に触るな」が好きでした。

中盤以降、ニューヨークからシカゴまで車で目指し帰ってくる、ちょっとした旅があって、そこら辺だけロードムービーのようになっているのもおもしろい。ルー ウィンは頑固ですが、このタイプの主人公ってあんまり自分から行動を起こすイメージがなかったので。一箇所に留まっていることが多そう。どの辺まで実在の 人物のままなのかはわからないけれど、途中でロードムービーっぽくなるのは、コーエン兄弟の話の作り方のおもしろさなのかなとも思う。

また、最後の方で、教授の家で猫に起こされるところからループっぽくなるのもおもしろい。二回目はちゃんと猫を逃がさないようにするのは、ちゃんと学習しているのを感じた。ただ、ヤジをとばしてライブハウス裏で殴られるのは学習していなかった。

映画になるくらいだし、これは彼の特別な数日間の出来事なのかと思ったんですよね。でも、ラストを少しループっぽくすることで実はこれは彼の日常なのだとわかる。妊娠させたかもしれないのも、ジーンが初めてではないようだった。

ただ、最後のライブハウスのシーンでは、ボブ・ディランらしき男がステージで歌っていて、ルーウィンが感慨深そうに聴いていた。変わらない日常のようで、少しの変化はある。猫も逃がさなかったし、ほんの少しずつは前に進んでいるのかもしれない。ループっぽい作りの粋さがわかる。

主演はオスカー・アイザック。新スターウォーズにも出演予定。フォークの渋いギター演奏も歌も彼自身のものらしいのが驚いた。撮影をしながらの録音だったらしい。

『SHAME』でも歌を披露していましたが、キャリー・マリガンも歌っている。ジャスティン・ティンバーレイクは一応本業なので歌えるのも不思議ではないんですが、彼とのデュオも良かった。
ま た、フォークは金にならないから、ということで、ジャスティン演じるジムは変なポップソングをレコーディングするんですが、これがまたハマってる。この映 画の中ではこのポップソングは好意的なとられかたはしていないし、このキャスティングに少し厭味すら感じた。でも、こうゆうスカした若者みたいな役がうま いし似合う。

あとは猫がとにかく可愛い。教授の家から抜け出して、一緒に行動することになるのですが、抱きかかえて地下鉄に乗っている と、外の景色をよく見ている。車窓に猫の顔が映る。猫目線だろう映像もあった。歩くときにしっぽがぴんと立っているのも可愛い。シカゴへの途中、車を捨て ることになって猫をどうするか迷ったときの、え?なんで車降りるの?まさか置いてくの?みたいな不安の入り混じったつぶらな瞳が可愛かった。自分も降りた 方がいいのかな?というように、脚を出しそうになっていたけれど、あれは猫演技なのだろうか。

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