『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』



『ミッション:インポッシブル』シリーズ5作目。監督は前作のブライアン・シンガーからクリストファー・マッカリーに変わった。マッカリー脚本、監督シンガーで『ユージュアル・サスペクツ』で組んでいたり、『ワルキューレ』『アウトロー』『オール・ユー・ニード・イズ・キル』でトム・クルーズとも何度か一緒に仕事をしたりと馴染みの顔のようだ。
そのせいか、とてもリラックスしているというか楽しそうに演じているような印象を受けた。

前作『ゴースト・プロトコル』のチームプレイがとても好きだったので、今回はどうなるだろうと思っていたが、ポーラ・パットン演じるジェーンの出演はなかったものの、サイモン・ペグ演じるベンジー、ジェレミー・レナー演じるブラントは引き続き登場。特に、ベンジーが大活躍である。

以下、ネタバレです。







ポスターなどのメインビジュアルで使われている、トム・クルーズが飛行機に捕まって飛ぶスタント無しのシーンは最初で出てきます。あれがクライマックスではなく、話の導入部分だというのがまず良い。クライマックスだった場合、映画を観ながらもあのシーンを待ってしまうけれど、最初から出てくれば純粋に気持ちを盛り上げる役割しか持たない。もったいぶらないあたりも好感が持てた。

ほぼいろいろなアクションシーンの連続だった。少し、『ワイルド・スピード SKY MISSION』を思い出した。そのどれもこれもが見ごたえのあるものだった。

飛行機の次はオペラ会場内でのアクション。ステージでは開演中で、観客は観賞している中、舞台装置を使いながら戦うのがスリリングだった。それが、イーサンと敵一人ではなく、複数で展開されるのもおもしろい。裏方のベンジーとも連携をとりつつ、戦う相手も何人か存在し、多角的に見られる。
また、この一連は台詞はほぼ無く、オペラがずっと流れていた。今回、ドルビー・アトモスで観たんですが、ここのオペラの音響が素晴らしかったのも、一役買っていると思う。伸びやかな歌声と、その裏での死闘というギャップにしびれる。

ドルビー・アトモスですが、この他にテーマ曲の音が粒っぽく飛んできたり、蹴っ飛ばすときのガスッという音のキレなども良く感じた。

その次は、発電所に潜入してデータを盗む極秘任務。実際に潜入するのがベンジーで、裏方がイーサンという普段とは逆の取り合わせ。ベンジーはあくまでもすまして歩いていくだけで、そのための下処理をイーサンがやる。
ここの水中アクションもおもしろかった。水中だから動きづらく、しかも息が続かないので時間が限られているため緊張感がある。そこで予期せぬ出来事が起こるものだから、思わず「あっ!」と声が出てしまった。

その次は、さきほど死にかけたイーサンによるカーチェイス。ベンジーが助手席で、「なんでイーサンが運転席なの?」と言っていたのも笑った。観客の気持ちを代弁してる。車のまま階段を下りたり宙返りしたりとめちゃくちゃだった。横に座ったベンジーの反応も最高で、一拍おいたあとでの「あぶない!」もかわいかった。

終盤に近づくにつれて話が核心に迫っていき、アクションはそこまで派手ではなくなる。けれど、最後の対決シーンの、イルサとイーサンの共闘が恰好良かった。一瞬、シーンとなる間の取り方もよくわかっていた。

今回のヒロインというか、ボンドガール的な役割のイルサがとても良かった。敵なのか味方なのかわからないあたりが峰不二子っぽくもある。あそこまで肉感的ではないけれど、不思議な色気があるし、暗い過去を背負っているのが好みでした。
イルサを演じたレベッカ・ファーガソンはそれほど映画に出ているわけではないけれど、今回かなり好評っぽいし、実際に良かったので続編にも出てきそう。別れ際に「私を見つけられるわ」と言っていたのは、伏線なのか、それとも前半の台詞とかけているだけなのかわからないけれど。

今回、イーサンの奥さんの描写がなかったのが気になる。『ゴースト・プロトコル』でも、最後にちらっとは出てきて、その“離れてはいるけれどいつでも見守っているよ”という関係が好きだったので、どうなったのだろうと思った。
イーサンとイルサは、いい感じにはなっていたけれど、結局キスなどはしないので恋愛まではいってなさそう。

台詞がかかっているといえば、前半にアレック・ボールドウィン演じるアランがブラントに向かって、「Welcome to CIA.」と言い、最後には逆にブラントがアランに「Welcome to IMF.」と言うんですが、最初のCIAの時に字幕が「これがCIAだ」となってしまっていて、最後は「ようこそ、IMFへ」になっていて、まったくかかってなかったのが残念。粋な台詞は粋なまま残して欲しい。

序盤のオペラのシーンでは、オーストリアの首相の暗殺を止めようとするんですが、イーサン自身が首相を撃っていた。軽い怪我を負わせることで、最悪の事態を避けようとする狙いだったけれど、今回、イーサンの無謀な行動は目立ち、少しジャック・バウワーを思い出してしまった。ただ、ジャックが単独でごりごり進み、視聴者すら置いてけぼりにしていたのに対して、イーサンには仲間がいる。

一人で突っ走ろうとするイーサンに、ベンジーが嫌だ俺もついていく、「なぜなら俺はイーサンの友達だからだ!」ってうわーっと一気に話すシーンがある。たぶん、一気に話さないと恥ずかしくて言えないようなことを臆面もなく言っちゃうんですが、そこで、イーサンがほのかに嬉しそうな顔をするのがとてもいい。
トム・クルーズは『オール・ユー・ニード・イズ・キル』でも、あるシーンでこの表情になるんですが、私はトム・クルーズのこの顔がとても好きだなと思った。ちなみに、『オール・ユー〜』では嬉しそうにプラスしてほっとしたという顔をしているんですが、今回は嬉しそうに得意げが入っているのがちょっとかわいい。

なんとなくだけど、イーサン=トム・クルーズに見えた。高嶺の花的な存在のスターになかなかこんなことを言う人もいないだろうし、「俺のことを友達と思ってくれるの?」とでも言うような、孤独感から解放されたような顔に感じた。考え過ぎかもしれませんが。

また、最初にベンジーがこう表明することで、ベンジーのこの映画内での立ち位置が前提としてはっきりする。今作ではブラントはCIA側に寄っているようだったが、ベンジーは何があっても、イーサンの味方なのだ。結局、ブラントもイーサンのことが好きなのは最後にわかるけれど。

前作『ゴースト・プロトコル』はブラントが可愛かったが、今作ではベンジーが可愛い。前作はジェレミー・レナーのギャップ萌えによる部分が多かったけれど、今作はサイモン・ペグの本来の魅力が存分に発揮されている。
お調子者で飄々としているようでいて、いい加減ではない。仕事はしっかりするし、仲間は裏切らない誠実さを持つ。

ベンジー七変化というか、いろいろな恰好をしているのもいい。最初は姿を隠す兵士のような、カモフラージュっぽい服装。着ぐるみのようだった。
そして、オペラに行くのにはタキシード。イーサンに無線で「その服装、似合ってるよ」と言われ、きょろきょろと探していたのが可愛かった。
発電所に潜入するときにはいいスーツ。そのスーツが窮屈だったのか、すぐに脱いでアロハに。後半ではたぬきだかあらいぐまだかの顔がどーんと出てるダサセーターならぬダサTを着ていたり、最後には警察のコスプレも。

もう映画全体がほとんどサイモン・ペグのプロモーション・ビデオみたいになっていて、サイモン・ペグのことが相当好きな人の意見が入っているのを感じた。
トム・クルーズは『ショーン・オブ・ザ・デッド』でペグのことを知ってファンになったそうだし、映画にも製作に関わっているし、もしかしたら彼の意見なのでは…とも思った。



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