『ウォーリアー』



2011年公開。日本では8/4にDVDスルーになった。
前から評判は聞いていたけれど、DVDになるまでだいぶ時間がかかった。

トム・ハーディ演じるトミーとジョエル・エドガートン演じるブレンダンの兄弟が主役。兄のブレンダンが自己破産寸前になっていて、教師の仕事だけではどうにもならない…というときに、弟のトミーがファイトマネーで救うのかと思った。
ブレンダンは妻と娘二人と暮らし、職にも就いていて一見まともそうなのに比べ、トミーは住所も不定みたいだったし、屈強な体だったし、どことなく悪そうな雰囲気だった。だから、莫大な掛け金のかかる違法な路上ファイトなどをするのかなとも思ったけれど、ブレンダン自らが闘っていて驚いた。
よく見たら、DVDのパッケージも二人が並んでいる姿だった。トム・ハーディしか見ていなかった…。
ちなみに、2011年のトム・ハーディというと、『インセプション』やかつらの似合ってなかった『嵐が丘』の後で、『裏切りのサーカス』の前です。体型的にはこの頃が一番好みかもしれない。役作りとはいえ、『ダークナイト ライジング』はパンプアップしすぎな気が…。

兄弟が中心の話だけれど、二人が対峙するのが映画の中盤あたりだった。そこまでは別々に人生を歩んでいた。
トレーニングも兄弟でも一緒にはやっていなかったけれど、一人一人に時間は割かず、画面を分割して見せていたのはうまい。トレーニングの方法は違うにしても、一人一人やっていたら時間も倍かかるし、それよりは試合に時間を割きたいと思ったのだろう。

二人で夜の海で再会するシーンで、二人がまったく違う境遇にいることがわかる。
そもそもは父が酒乱だったことが原因だった。トミーは母と逃げ、ブレンダンは父の元に残った。残った理由としては、後に妻となる女性と付き合っていたことと弟を気に入っていた父の目をひきたいこと。ただ、家庭を持ったけれど自己破産寸前だし、父は結局、トミーのトレーナーをしている。
トミーは母と逃げたが、母は病気だった。本当はブレンダンにも一緒に来て欲しかった。母を失ったあと、トミーは海兵隊に入る。

お互いがお互いのことを恨んでいて、でも、それぞれの言い分もわかる。結局は父が悪い。
けれど、その父も、飲酒を1000日間断って、反省しているようだった。妻を亡くしたせいか、年老いたせいか、だいぶ丸くなっている。
トレーナーとしてトミーにつきつつ、試合中はブレンダンのことも応援していた。

映画の後半1/3くらいはずっと総合格闘技の試合だった。それだけ、格闘技シーンに力が入っていたのだろう。実際の格闘家も出演していたらしい。ただ、普段格闘技を見ないため、格闘シーンのリアルさなどはあまりよくわからなかった。

ただ、闘い方として、トミーは腕っ節が強く、一撃KOなどもして見た目が派手。入場曲もなく、試合が終わったらさっさと帰ってしまう。ラストネームを母の旧姓にしていたせいで、名前を検索しても出てこない。謎めいた強い選手に観客は熱狂する。

対するブレンダンは、実況アナも最初バカにしていたけれど、実は根性があり、身体能力も高く、技のかけかたなどに素質がありそうだった。地味だけれど、普通の男が勝ち上がっていく様子にも観客は盛り上がる。
また、ブレンダンの場合は、家族や同僚、教えている生徒など、応援してくれる身内も多数いた。トミーには応援してくれる身内は一人もいない。強いてあげれば父かもしれないけれど、ブレンダンにとってはそれが一番羨ましいのかもしれない。

ラストネームも違うし、闘い方、境遇などもまるで違うから、二人が兄弟だとは盛り上がっている観客たちは知らない。映画を観ている私たちだけが知っているから、あの観客たちとは違う盛り上がりで見ているという優越感があった。

だから、決勝戦の前に、ニュースで“驚くべき事実が〜”みたいな感じで発表しなくても良かったのではないかと思う。どうせ観客たちは盛り上がってるんだし、兄弟だとわかったところで、変わる事実はなかった。映画を観ている人たちは知っていることだし、わざわざそこで発表されてもなんの驚きも無い。

実は兄弟でしたという発表と共に、実はトミーは軍を逃亡していて、試合が終わったら逮捕されるという情報も明かされる。それも、公にする必要があったんでしょうか。相棒の奥さんもそれ、レポーターに言っちゃうってことは、やっぱり少なからずトミーのことを恨んでいたのかな…。
逃亡したという事実だって、父親にひっそり話すとか、映画を観ている側に伝える術はいくつもあったはずだ。それを公の場で、試合を観ている観客にまで明かさなくてもいいのにと思ってしまった。

二人は闘う理由も違ければ、ここまで歩んできた人生も違う。でもどっちも譲れないのは変わらない。
圧倒的に強いのはトミーだったけれど、暴力的だし、ゴングのあとで一発殴るという反則をした時点で、ああ、ブレンダンが勝つのだなと思った。
ブレンダンが技をかけてトミーの肩をはずしてからも、片手でパンチを繰り出したり、来いよというように挑発したりしていた。
この最後の試合のトミーというか、トム・ハーディは今までとは顔つきがまったく違っていて、本気を出しているのが伝わってきた。

最後に、トミーを抱きしめながら、ブレンダンが「俺を許してくれ」と言ったのが感動的だった。中盤に夜の海で会ったときには、「母さんと逃げたお前を許してやる」という、なぜか偉そうな態度をとっていたのだ。闘ううちに、成長したのかもしれない。

また、父が、二人の姿を見て、本当に自分の役目は終わったのだなと安堵の表情を浮かべていたのも良かった。大きくなったな、二人とも、というあたたかい視線を送っていた。台詞はないのだけれど、表情ですべてが伝わってきた。
父親役のニック・ノルティは、本作でアカデミー賞助演男優賞にノミネートされたとのこと。


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