『エベレスト3D』



1996年に起こった実話。私はこの事実を知らなかったので、ハラハラしながら観ました。知っていたらまた違った気持ちで観たと思う。
邦題に3Dと付いているので3Dで観たが、それほど効果が感じられなかった。わざとらしさがなく、自然だったのでわからなかったのかもしれない。
それよりも、3Dで観るならついでにとIMAXを選んだのは大正解だった。前半は山の綺麗な風景が高精細で観られるのもいいし、後半は大きなスクリーンと大音量で観て栄える迫力の映像だった。地上での映像はほとんどなく、ほぼエベレストの映像なので、まるで自分がそこにいるかのような感覚になった。それは、『ゼロ・グラビティ』がほぼ宇宙の映像で、自分まで宇宙に行ったような気持ちになったのと似ている。私が一番エベレストに近づいた時間だった。それは、終わったあとには疲れるほどである。それくらい没頭してしまった。また、自分が映画館にいるのが不思議な気持ちにもなった。

出演はジェイソン・クラーク、ジョシュ・ブローリン、ジェイク・ギレンホール、キーラ・ナイトレイ、サム・ワーシントンなど豪華。髭のマイケル・ケリーは『フォックスキャッチャー』時のマーク・ラファロに似ていた。
字幕で観たのですが、吹替も小山力也、山寺宏一、堀内賢雄、杉田智和など、俳優ではなくちゃんとした声優を使っているので良さそう。登山隊の面々はかなり着込んでいてゴーグルを付けていたり帽子をかぶっているので見分けがつき難い。ゴーグルを付けていなくても、少し前に出てきた人物が薄着になってはじめてサム・ワーシントンだとわかった。それが、声が杉田智和ならさっきの人物と今の人物が同じだとすぐにわかるだろう。

以下、ネタバレです。








実話ということで、エンドロール前にご本人の写真や映像が出てくるが、どの人も似ていた。また、実際にあった事故のことを調べてみると、今回の映画化は、起こったことをかなり忠実に描いているようだ。
私はこの悲劇的な事故を知らなかったので、さあどうなるんだろうと少しわくわくした気持ちで観ていた。困難は立ちはだかるものの、みんなで乗り越え、頂上に立てるのだろうと思っていた。それか、一人くらいは非業の死をとげることはあるにせよ、また頂上に立てなかったとしても、全員でが命からがら下山するものだと思っていた。事実は8人死亡という、もっと厳しいものだった。

最初のほうこそ、“にっぽん百名山”のような山紹介番組や観光ビデオのようだった。うっとりするほど景色が綺麗。途中の寺院で僧侶に無事を祈願してもらっていたのもおもしろかった。
途中のキャンプも楽しそう。ジェイク・ギレンホール演じるスコットが隊長をつとめるのはその名もマウンテン・マッドネス隊。上半身裸で日光浴をしていたり、お酒を飲んだりしていた。
この映画の主人公ともいえるジェイソン・クラーク演じるロブ・ホールが率いるアドベンチャー・コンサルタント社の一行も、酒を飲みはしないものの(頂上までとっておくと言っていた)、夜にテントの中で踊ったりしていた。

クレバスにかけた梯子から落ちそうになるシーンはあったが、そこが一番のピンチであり、見せ場なのかと思っていた。ポスターにも使われている。
途中で高山病になる人はいたものの、もちろん省略もしているのだろうが、思っていたよりも簡単そうで、これくらいなら行ってみたいなとも思ってしまった。

けれど、最終アタックが始まってからが本番だった。特に標高8000メートルを超えた地点からはデスゾーンと呼ばれているらしい。人間はそんな高度で生きられるようには作られていないというセリフも出てきた。空気の薄さと寒さと天候の悪さが重なる。さっきまで余裕だったスコットもふらふらになっていた。この辺から、これは簡単な気持ちでは行くことはできない場所なのだというのがわかった。

それでも、数名が頂上へたどり着いていた。日本人のヤスコ・ナンバさんもたどり着き、頂上へ日本国旗をさしていた。ここまで英語だったけれど「ありがとう…」と日本語が出たときに涙が出てしまった。突如聞こえてきた日本語はとても美しかった。それに、日本人だからということで知らず知らずに感情移入してしまっていたらしい。
けれど、下りは天候不順と酸素不足により更に厳しくなった。ここの嵐のシーンの音響の迫力もIMAXならではだと思う。バリバリとした雷の音も怖かった。雪の中に倒れ込み、動けなくなったナンバさんの姿を見て、どうか助けてあげてと思った。自然の前での人間の無力さを思い知らされた。
ちなみに、ヤスコ・ナンバを演じたのは『ドクター・フー』のスピンオフドラマ『秘密情報部トーチウッド』のトシコ・サトウ役の森尚子。吹替でも彼女自身が担当しているようだ。

もう一人、郵便局員のダグにも感情移入していた。みんなより歩みが遅れていた。ガイドのロブは、もう時間切れだと言って下山するように言ったが、もう頂上が見えている場所なのだ。そんな場所から引き返せるだろうか。ましてや、前年に失敗して二度目である。高額な参加費を稼ぐのも、郵便局員では容易ではないだろう。
でも、頂上までは気力でなんとかなるとしても、そこから下山するのは大変なことだろう。気力もそこで尽きる。時間も大幅にオーバーし、酸素も足りなくなる。嵐も迫って来ている。
けれど、ロブもなんとか頂上に連れて行ってあげたいと思い、参加費を特別に割り引いてあげていたようだし、情がわいていたのだろう。その上、数日間、苦楽を共にしていたら当然のことだ。
本当はあの場面で、心を鬼にして、何が何でも下りると言わなくてはならなかったのだ。そのためのガイドだろう。友達ではないのだ。優しさが命取りになった。

少し前に、NHKで、カカボラジという山の登頂を目指すドキュメンタリーが放送されていた。挑戦するのはベテランの登山家三人だったが、本当に登頂直前で引き返していた。きっと引き返すことも勇気なのだ。命があれば、また挑戦できる。



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