『007 スペクター』



ダニエル・クレイグがジェームズ・ボンドを演じる007シリーズとしては四作目。『カジノ・ロワイヤル』と『慰めの報酬』が続き物だったのに対して、前作、『スカイフォール』は単体でも楽しめる作品だった。今作は前の三作の総まとめという印象なので、人物名など忘れている場合は見返しておいたほうがいい。
また、今作は『スペクター』というタイトル通り、007シリーズ初期に出てきた悪の組織が出てくるため、過去作も観ておくとオマージュのようなものに気づくことができる。ストーリーは『カジノ・ロワイヤル』で仕切り直されているため、続きではない。なので、知識として知っているならば改めて見直す必要はないと思うし、見直さなくても話がわからなくなるようなことはない。
私は、過去作をほとんど観ていないため、『ロシアより愛をこめて』『サンダーボール作戦』『007は二度死ぬ』『女王陛下の007』を観ました。

以下、ネタバレです。







クリストフ・ヴァルツ演じる悪の大将みたいな人の名前がブロフェルドだと明かされたときにニヤリとした。最初、ヴァルツが白いペルシャ猫を撫でていないことに少しがっかりしたけれど、中盤で白猫がうろうろしていたときは嬉しかった。爆破の後、片目を怪我して出てきたときも、『007は二度死ぬ』と同じ姿なこともわかった。できることなら、ここでスキンヘッドになってくれると尚良かった…(けれど、クリストフ・ヴァルツは後ろ姿でもわかるくらい頭の形が特徴的なので、スキンヘッドは似合わないかもしれない)。この辺は、過去の作品を知らないとわからないことだし、サービスだと思う。
私は『スカイフォール』で初めて007に触れて、Mやマネーペニーでニヤリとできなかったので、今回、基礎知識を入れておいて良かったと思う。

また、オマージュは『女王陛下の007』の雪山の頂上の謎施設と、スキー客がわさわさ乗って来て見失うところだろうか。どうせなら、スキーでの追いかけっこや雪崩を起こしてもらいたかった。そこまでやるとそのまんまになっちゃうし、別にここがメインではないからだろうか。

あとは、メキシコのパレードが『サンダーボール作戦』のオマージュかなとか、電車内での戦闘は『ロシアより愛をこめて』かなとも思ったけれど、そんなことを言っていたら何にでも当てはめられそうな気もするしわからない。

最初のメキシコでの建物崩壊から、崩れた壁を利用して滑り台のようにすいーっと下に降り、そこに都合良くソファがというコントのような流れ、そこからの垂直飛びやくるくる回る曲芸のようなヘリコプター。とにかく派手。
中盤の砂漠の真ん中の施設の建物の爆破も、砂漠だからいいだろとでも言うように、見たことがないような大爆発が起こる。
最後には、『スカイフォール』では少し爆破されただけだったMI6の建物も、爆発により崩壊。

建物の壊し方やアクションなどが派手なので、それに呼応するように話の流れなども大雑把である。これだけやっておいて、脚本が繊細だったらバランスがおかしいのでこれはこれでいい。

一番、おいおいそれは…と思ったのは、ボンドがブロフェルドの施設で拘束されていて、頭に針を刺されているシーン。かなりハイテク機器に見えるのに、ちょっと虚をついただけで、がっちりした拘束がとかれる。
それで、少し前まで頭に針を刺されていたのに、ふらつくこともなくスタスタと走って脱出する。

ここですごくボンドっぽいなと思ったのは、ちゃんと、ボンドガールであるレア・セドゥの手をひいているところ。一人で走って、その後ろに女性がついて走る…というようにはならない。

ここで虚をつくときに使ったのが、オメガの腕時計に仕組まれた小型の時限爆弾。運転している車の謎ボタンを押して、上部から飛び出してピンチを脱するシーンもあった(『ゴールドフィンガー』で助手席が同じ仕組みで飛び出すシーンがあった)。『スカイフォール』でも、小型発信器やグリップがDNAを認識してボンドしか撃つことができない銃などが出てきたが、Qの秘密道具が、より派手になっている。

ショーン・コネリー版を観て思ったんですが、ボンドはスーパーマンなんですね。絶対に負けないヒーロー。そして、傍らには綺麗な女性がいる。スパイガジェットを使いこなしてピンチを脱出。きっとこれこそが、ジェームズ・ボンドなのだ。今回の『スペクター』ではその要素がより濃く感じられた。

私はこれまでダニエル・クレイグ版しか観ていなかったし、映画館でしっかりと観たのも『スカイフォール』が初めてだった。だから、それがジェームズ・ボンドなのだと思っていたけれど、おそらく元々のボンドファンからしたら、普通のスパイ映画と変わらないと思われていたのではないだろうか。今作は昔の作品と比べてみると、より一層、ジェームズ・ボンドらしいのだと思う。それは、スペクターという昔からの悪の組織が出てきたせいもあるのかもしれない。悪の組織との対決である。ど派手にするしかないじゃないか。

ラスト付近、MI6内部でブロフェルドとガラス越しに対峙するシーン、ガラスの銃痕がスペクターのタコのマークになっていた。ここも、大写しになるわけではないし、なんの説明もされないし、実際に銃痕はこうはならないんだろうけれど、遊び心を感じてニヤリとした。現実味はない。

『スカイフォール』が深刻な調子だったのに対して、『スペクター』はどっかんどっかん敵をやっつけながらもりもり進んでいく感じだった。やはり同じダニエル・クレイグ主演であっても、雰囲気はまったく違うと思う。007っぽさでいったら間違いなく『スペクター』なのだ。
これは、どちらが出来が良い悪いではなく、単純な好みですが、私はそれでも『スカイフォール』のほうが好きだった。元々007シリーズのファンならばまた違った意見にもなると思う。でも、私は007シリーズというよりダニエル・クレイグ好きで『スカイフォール』を観たのだ。それで、とてもあの作品が好きになってしまった。ダニエル・クレイグが演じているのはジェームズ・ボンドなので、本当ならば今回の路線でいいのだと思う。でも、今回の路線でやるなら、(あの頃の)ショーン・コネリーのほうが合っている。ダニエル・クレイグがこれをやらなくても良かったのではないか。
ダニエル・クレイグもセクシーイケメンであることは間違いないのですが、彼はクールなタイプだと思う。この作風であれば、ショーン・コネリーボンドのような、匂い立つような雰囲気、胸やけするような濃さ、それでいて飄々とした感じ、胸毛、ニクらしいニヤけ顔などがあったほうがいいと感じた。

148分と上映時間が長いせいかもしれないけれど、登場キャラが多い。モニカ・ベルッチ演じる悪の組織メンバーの未亡人はもう少し活躍してほしかった。ボンドガールが二人とのことだったので、片方が悪役なのかなと思ったけれど、出番が少なかった。フェリックス・ライターも名前だけ出てきたけれど、本当はジェフリー・ライトが出てくると嬉しかった。
悪役も、クリストフ・ヴァルツはたくさん出てくるけれど、アンドリュー・スコットはちょこっとしか出てこなかったのが残念。最初、親しげな態度だったので、私が悪役と思い込んでいただけでもしかして仲間なのかなと思ったが、やはり悪役だった。送り込まれた悪役なので仕方がないけれど、クリストフ・ヴァルツとアンドリュー・スコットの会話シーンなどもあると良かった。一緒に映っているシーンがないのが残念。リーダーと末端のものなので仕方がないのか。
悪役、クリストフ・ヴァルツとアンドリュー・スコットではアクション的な見せ場がないと思われたからか、すっかり映画スターになったデビッド・バウティスタも出てくる。ボンドとの殴り合いなどは彼担当です。

ミスター・ホワイトがこんなに活躍すると思わなかったので驚いた。予告で何度も「You are a kite dancing in a hurricane,Mr.Bond.」のシーンは観ていたのに、あれがミスター・ホワイトだとは気づかなかった。本作ではスペクターの謎について話すし、今回のボンドガールは彼の娘である。
考えてみれば、『カジノ・ロワイヤル』ではお決まりのセリフ、「Bond,James Bond」が出てきたのは、ラストでミスター・ホワイトに名前を聞かれた時だった。『慰めの報酬』の序盤にも出てくるし、最初から重要人物だったのかもしれない。
『スカイフォール』には一切出てこないので、彼のことはダニエル・クレイグボンドの最初の二作を観ていないと、急に出てきても誰かわからないだろう。

今作ではマネーペニーやQが後方支援ではあるけれど、ボンドのサポートにあたっている。若い仲間たちは無理難題を言いつけてくるボンドに文句を言いながらも、彼のことを慕っているからしぶしぶと協力していて、その関係がとてもいい。Mも最終的には協力していた。いい上司。

Qはいつもはボンドと離れたところでパソコンをパチパチやりながら指示を出したりするんですが、見かねて雪山まで押しかけるんですけど、そこのベン・ウィショーの冬仕様の服装が可愛かった。もこもこしていた。
結局はそこでもお願いを聞いてしまうんですが、捨て台詞のように、「I really really hate you」と言っていたのが可愛かった。really二つも付けなくても。字幕ではあっさりと「腹が立ちます」となっていたけれど、それどころじゃない憎まれ口だと思う。
あと、クリスマスがどうのと粋っぽいことを言っていたのに、それが省略された言葉の字幕が付いていたのも残念だった。(「M has been Chsing me for Christmas decorations,〜」?)
なので、吹替でも観たくなりました。

最後、Qの一人アジトみたいなところにボンドが来て「忘れ物がある」と言うシーン、Qのことを迎えに来たのかと思ったら車だった…。「彼は新しいところに馴染めなくて一人でここに」みたいな話が最初に出てきたので、どこか新しい環境に連れ出してあげるのかと思った。Qも結構嬉しそうな顔していたし。あれでは、Qは独りきりでずっとあの場所で仕事をすることになってしまう。でも、別に一人でのほうが仕事しやすいタイプなのかもしれないしいいのかな…。


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