『スポットライト 世紀のスクープ』
Posted by asuka at 2:08 PM
アカデミー賞作品賞、脚本賞受賞。
2002年に明るみになった神父たちによる児童虐待について、それを暴いたジャーナリストたちを描いた実話。
監督はトム・マッカーシー。
以下、ネタバレです。
アカデミー賞作品賞としては地味かなと感じてしまったんですが、それはカトリック教会との距離なのかもしれない。カトリック教会の存在の大きさが日本人だとわかりづらい人も多いと思うので(私もそう)その辺は想像で補わなくてはならない。
神父=神様なので目をかけてもらえると有頂天になるとか、神父のことは憎んでも信仰は別だとか、なかなかわかりにくい。ただ、劇中の登場人物が、ミサに行けなくなったと言っていたので、信仰は別というのはキリスト教徒でも難しいのかもしれない。
最初は小さな事件で、それを追っていくうちに、とんでもない事実が明らかになっていく。追っていくのは、ボストンの地元紙の特集欄“スポットライト”を担当する四人のチームだ。
序盤は人物の名前が多くて混乱した。登場はしない、話の中だけに出てくる人物や、登場しても少しだけの人物などだ。ただそれは、被害者や加害者、弁護士などこの件に関わってきた人物が想像以上に多いということなのだとも思う。四人が動くたび、少しずつ実態が明らかになっていく。
また、途中で、事件を洗い直しているだけの部分もあることが明らかになる。被害者は「何年か前にも資料を新聞社に送ったけれど見てくれなかったのか!」と憤る。その時には人ごとだと思ってあまり目を通さなかったのかもしれない。それでも、今回調べてみると、記者ですら自分がたまたま逃れていただけだというのがわかる。誰でも被害者になりえた。
最初にボストンの地区だけでも17人の神父が性的虐待を行っていて…という調べが付いた時、もっと前から調査をしていた機関にそれは少なすぎる、90人くらいではないかと言われ、さらに詳しく調べると87人に容疑がかかった…というシーンでぞっとした。
調べれば調べるほど、被害の大きさがわかっていく。そして、敵(カトリック教会)の得体の知れなさがわかる。
全貌がわからない巨大な闇に立ち向かって行く様子が『ボーダーライン』に似ていると思った。ただ、あちらの主人公が無力だったのに対して、こちらはスクープを焦らない地道な取材と裏取りで、なんとか明るみには出る。
今まで弁護士も巻き込んで隠蔽を繰り返していたことから考えると、まさに“世紀のスクープ”である。
ただ、まさにスポットライトというか、底知れぬ闇の一部しか照らせていない。
地道な取材の結果、地元紙がスクープを出したけれど、これで解決ではないのだ。
エンドロール前に出る文章がすごく怖かった。枢機卿がローマへ転属することになるなど、解決になっていない。
あまりの被害者の多さにも愕然とした。また、神父による性的虐待が起こった主な都市がリスト化されていたけれど、小さい字で何件も何件も出てきて、まったく終わらない。まさに、全世界的な規模の大きさだった。日本はリストに入っているかどうかは見つけられなかったけれど、日本でも事件は起こっている。
光を当てるとばっと散り散りにいなくなる虫を想像した。一匹見つかると百匹いるなんて話もあるし、まさに虫である。
全員を駆逐することは到底無理なのだろうと思わせる絶望感があったけれど、この映画をきっかけに、また調査が進めばいいと思う。
余計な人物描写はそれほどなく、スポットライトチームの面々も仕事に打ち込む姿がほとんどだったけれど、それでも個々の生活が見えてくるのがうまいと思った。特に、チームのリーダー、マイケル・キートンと、フットワークが軽く、正義感溢れる熱血漢のマーク・ラファロがうまかった。
calendar
ver0.2 by バッド
about
- asuka
- 映画中心に感想。Twitterで書いたことのまとめです。 旧作についてはネタバレ考慮していませんのでお気をつけ下さい。
Popular posts
-
アカデミー賞で作品賞、主演男優賞、歌曲賞ノミネート、脚色賞受賞。その他の様々な賞にノミネートされていました。 以下、ネタバレです。 北イタリアの別荘に夏の間訪れている家族の元に、一人の青年が訪れる。家族の父親が教授で、その青年は教え子である。 まず舞台の北イタリアの夏の風景が素晴...
-
ウェス・アンダーソン監督作品。前作の『ムーンライズ・キングダム』は、ブルース・ウィリスやティルダ・スウィントンは良かったし、家の中の撮り方も良かったけど、お洒落映画でしかないかなという感想だった。そのため、今回もかまえてしまっていたけれど、すごく面白かった。 やはり、撮り方な...
-
いわゆるロードショー公開はされない注目作を上映するのむコレ2018にて上映。 今年公開された映画らしい。 あまり内容を調べずに観たので、タイトルと、主演が『ゲーム・オブ・スローンズ』のラムジー役でお馴染み、ウェールズ出身のイワン・リオンだったため、RAFのイギリス部隊の話かと思っ...
-
試写会にて。わかったことと、わからないこと。 以下、ネタバレです。 クーパーがどうやって助けられたのかがよくわからなかったんですが、あの時のアメリアの顔は幻じゃなかった。映画の序盤でワームホールを通る時に、アメリアが“彼ら”の姿を見てハンドシェイクをする。結局“彼...
-
ドルビーアトモスで観たんですが、席が前方だったせいもあるかもしれないけれど、あまり音の良さはよくわからなかった。前回がIMAXだったからかもしれない。 IMAXと同じく、最初のプロモーション映像みたいなのはすごかった。葉っぱが右から左へ。 以下、二回目で思ったことをちょこ...
-
2013年公開。あんまり評価がよくなかったので映画館へは行かなかったんですが、ハリー・トレッダウェイが出ているということで観てみたらおもしろかった! 映画館で観れば良かった。 149分と多少長く、長いわりにエピソードが細切れでまとまってない印象はあったけれど、これも劇場で観ていれ...
-
ほぼ半月あけて後編が公開。(前編の感想は こちら ) 以下、ネタバレです。 流れ自体は前編と同じ。ジョーがこれまであったことを話し、それに対して、セリグマン(今回はちゃんと名前が出てきた。ステラン・スカルガルドが演じている男性)が素っ頓狂なあいづちをうつ、と...
-
IMAXレーザーというと109シネマズ大阪エキスポシティのものが有名ですが、このたび109シネマズ川崎と名古屋にも導入された。そのプレオープンで『ダンケルク』の上映があったので行ってきました。 ただし、大阪のレーザーはGTテクノロジー(旧次世代レーザー)という名称で、スクリーンの...
-
新宿シネマカリテにて、毎年行われているちょっと変わった作品を集めた映画祭カリコレにて上映。 ステファン・ダン監督初長編作品。カナダ出身なのと、同性愛もの、家族もの、音楽がふんだんに取り入れられたスタイリッシュな映像…ということこで、第二のグザヴィエ・ドランというふれこみの...
-
2000年公開。曲や映像づくりなど、とてもダニー・ ボイルらしい映画だった。 幻のビーチに辿り着くまでの話なのかと思っていたけれど、 かなり序盤でビーチには辿り着いてしまう。 そこから物語が展開していくということは、 ビーチがただの天国ではなかったということ。 一人旅の若者が...
Powered by Blogger.
Powered by WordPress
©
Holy cow! - Designed by Matt, Blogger templates by Blog and Web.
Powered by Blogger.
Powered by Blogger.
0 comments: