『Mr.ホームズ 名探偵最後の事件』



イアン・マッケランが日本での公開日にツイッターで“MITENE.”と書いていました。監督は『ドリームガールズ』や『愛についてのキンゼイ・レポート』のビル・コンドン。
ミッチ・カリン著『ミスター・ホームズ 名探偵最後の事件』という同名の小説の映画化。アーサー・コナン・ドイルによるものではない。

探偵業を引退した老いたシャーロック・ホームズが、その引退のきっかけとなった事件をもう一度振り返って行く。
翻訳はアンゼたかし。

以下、ネタバレです。








最初に『セメタリー・ジャンクション』に出てきたような英国の田舎の駅が出てきて、まずそれで盛り上がってしまった。
ホワイトクリフが見えていたので、英仏海峡のあたりだと思われる場所に、養蜂を営みながらひっそりと暮らすホームズ。
イアン・マッケランが演じているんですが、あまりにもおじいさんでイアン・マッケラン年とったなーと思っていたら、場面が30年前に映ったときにそんなに老いてなくてびっくりした。歩き方がよたよたしていたのも演技だった。過去では背筋もピンと伸びている。顔の皺などはメイクによるものだけれど、動きがまったく違っていた。
養蜂を営んでいたのは93歳のホームズ、過去は63歳くらいか。実際のイアン・マッケランは現在76歳のようです。演じ分けが素晴らしかった。

所謂、鹿撃ち帽とパイプのホームズのイメージはワトソンの創作で、この映画ではかぶっていない。けれど、そのせいでホームズだと信用されなかったり、残念がられたりしていた。
また、実際の事件を元にした小説をワトソンが書き、それが映画化されたものをホームズが観に行き、「結末が違う。くだらん」と文句を言ったりもしていた。

ホームズと言えばカタブツのイメージで、創作なんかは信じない。それは他の作品の若いホームズもそうだし、この映画でもそうだ。けれど、この映画のホームズは93歳である。

年老いているので、記憶も曖昧、だけれど、過去の、引退をするきっかけとなった事件は解決したい。自分に死が迫っているのがわかる中、時間と戦いながら事件の解決を目指すホームズというのは新しい。

家には家政婦とロジャーという10歳の少年がいる。年老いているから、家政婦がいなくては生活もままならないのに冷たく当たる。それも、元々のホームズのイメージではあるけれど、少年には優しい。それは懐いてくれているからかもしれないし、孫のような気持ちでもいたかもしれない。

ホームズが日本に行った経緯があんまりよくわからなかったけれど、頭をはっきりさせるためのヒレザンショウを探すのが目的だったのだと思う。映画の中では日本特産スパイスみたいな感じで扱われているし、これからはロイヤルゼリーの代わりにこれ!みたいに重宝されていたけれど、日本人でもさっぱりわからない。液体のように見えたので、うなぎなどにかける粉山椒とはまた違うようだった。
映画では広島のしかも爆心地のあたりで見つけていましたが、実際には沖縄とか小笠原とか、南のほうのものらしい。別名琉球山椒ともいうらしい。

日本でウメザワという男性と一緒にレストランに入るのですが、『インセプション』の最初に出てきたサイトウのいた建物のような、少し中華風のものだった。トンデモ日本風です。それでも、ちゃんと日本で撮影していたらしい。

ヒレザンショウも手に入れ、記憶を呼び覚ましながら、少しずつ過去の事件を紐解いていく。
過去パートは、他でよく観るシャーロック・ホームズのようだった。純粋な推理ものです。生まれてくる前に子供を亡くした女性アンが悪魔の楽器と言われるアルモニカを使って交信しようとする。アルモニカを教えている先生はどうも怪しい。けれど、そんな見た目にも怪しい人物が犯人なわけはない。細かい仕草や会っていた人物から夫殺害を計画している…?かと思いきや、それも違う。小さいけれどどんでん返しがあって、事件は解決した…ともう一度思いきや、悲劇的な結末を迎える。

結局、解決できたと思った事件ができていなかったということで、ホームズは引退した。落ち込みもしたし、後悔を抱えながら30年生きてきたのだと思う。
昔の事件当時、30年前には気づけなかったことに93歳のホームズは気づいていく。過去の事件と現在、そして日本に行ったときに起きたことはばらばらな出来事であり、直接的に繋がることはないけれど、間接的に繋がっていく。

過去のアンと生まれてこなかった子供、現在の家政婦とその子供ロジャー、日本のウメザワ親子。どれも親子である。アンは子供を亡くし、自らも命を絶った。それはたぶん自分のせいで、ウメザワが父を亡くしたのもおぼえていないが自分のせいでもありそう。そして、自分のせいでロジャーが病院へ運ばれる。
もうこれ以上、周囲の人を亡くすのは嫌だったのだろうし、大事な人を亡くした人を見るのも嫌だったのだろう。

過去のワトソンも出てくるが、顔は出てこない。それでも強烈な存在感だったし、過去のワトソンはホームズを助けていた。記憶の中にはいるけれど、今は死んでしまっていない。もうホームズの周りには誰もいないのだ。尚更、これ以上亡くしたくない。

そのためにはどうするのか。ホームズは、自分から周囲に優しくなろうとする。93歳という年齢のせいもあるのかもしれないがやっと気づいたのだ。自分が30年前に優しくなっていたら、たぶんアンは救われていた。もう亡くしたくないから、家政婦にも優しい言葉をかける。ウメザワにも、途中から創作による手紙を書いた。あんなに嫌っていた創作という手法が必要なときもあることがわかったのだろう。

そして、最後、ホームズは自分の周りに石を置いて死者を弔う。マイクロフト、ワトソン、ハドソン夫人、ウメザワのご両親、アン。みんなもう周囲にはいない。死者に想いを馳せながら、過去の自分がまったく孤独ではなかったことにも気づいたのだろう。
優しいホームズなんてどうなの?と思われるかもしれないが、93歳という年齢のことを考えると、人間味のあるホームズも良かった。

何より、ホームズが途中で死んで、少年が跡を継いで事件を解決!みたいな話じゃなくて安心した。

養蜂は、ホームズが引退後はやりたいと話すシーンが原作に出てくるらしい。また、緋色の研究という本が出てきたり、怪我をしたときに「バスカヴィル家の犬にかまれたみたい」というセリフが出てきたりもする。映画内の映画のホームズ役が『ヤング・シャーロック/ピラミッドの謎』のニコラス・ロウなのもおもしろい。

ロジャーを演じたマイロ・パーカーですが、トーマス・B・サングスターに似ている、というか同じ顔をしていた。将来が楽しみです。ポスターを見るだけでワクワクする、ティム・バートンの次回作『Miss Peregrine’s Home For Peculiar Children』にも出演が決まっている。

ウメザワ役に真田広之。日本でのことはそれほど描かれないしちょっとした役ではあるけれど、存在感があった。

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