『レヴェナント:蘇りし者』



アカデミー賞で監督賞、撮影賞、何よりレオナルド・ディカプリオが初の主演男優賞を受賞。
アカデミー賞予想みたいなものが毎回あるけれど、日本ではほとんどの作品が公開前のため、イメージや事前情報を頼りにするだけのものになってしまう。
私は、この映画を観る前にはアカデミー賞前に公開されたので観ていたし、『スティーブ・ジョブズ』のマイケル・ファスベンダーが受賞して、ディカプリオは逃すんじゃ…みたいなことを言っていましたが、とんでもない。どう考えても、こちらでした。
マイケル・ファスベンダーが悪いというわけでは決してない。あれはあれでとても好きです。

ただ、ディカプリオっぽさという点なら、『ウルフ・オブ・ウォールストリート』のほうが…とも思う。あの作品のときに受賞しても良かった。

それでも今作は、がんばったで賞も含め、ここでとれなかったら本当にわざととらせないようにしているのではないかと思うような熱演だった。
改めておめでとうございます。

以下、ネタバレです。








小難しかったりワケがわからなかったりする、所謂アート系作品なのかと思っていたが違った。中盤以降はセリフがほとんどなくても、行動原理はわかりやすいし、エンターテイメント作品だと思う。
考えてみたら、『ゼロ・グラビティ』『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』のアレハンドロ・G・イニャリトゥ監督である。エンターテイメントでないわけがない。

わりと、そんなにうまくいく?とか、そんなことがあっても死なないの?とか、不死身さについてはいろいろあるけど、実話じゃないしまあ…と思っていたら、実話だったので驚いた。
もっとも、クマに襲われて仲間に見捨てられたけれど生還したという伝説のような話が残っているだけのようだけれど。

フィッツジェラルド(トム・ハーディ)に息子を殺されたヒュー・グラス(レオナルド・ディカプリオ)が置いていかれて復讐するという大まかなストーリーはだいぶ前に聞いていた。

実際に観てみてその通りで、どんでん返しのようなものはない。細かい枝葉もそれほどない。俳優陣の圧倒的な演技力と、自然の雄大さと、びっくりするようなカメラワークでぐいぐい進んでいく。

中盤以降、セリフがほとんどないというのは、そもそも置いていかれたグラスが一人きりで行動するからでもあるけれど、喉をかっ切られているから、ヒューヒューしてしまっていて、話せないという部分もありそうだった。

それにしても、恐るべき回復力である。最初は這って歩いていたのが、立ち上がり、杖をつきながら歩き、馬にも乗れるようになる。まるで、人類の進化のようだった。

特に、山を登った先に、バッファローの群れがいたシーンと、その後のインディアンの若者との邂逅は感動してしまった。
煌煌と燃えさかる火と、そこで肉に食らいついている様子から、生命の躍動を感じた。
先程まで死にかけていて、真っ白い雪の世界の中、一人きりで這い回っていて、いつ死んでもおかしくないような状態だった。このシーンで、弱々しい心臓の鼓動が初めてドクンと強く脈打ったような印象を受けた。

息子を殺し、グラスを置き去りにしたフィッツジェラルドは、集団のリーダーなのかと思っていたが違った。
リーダーは別にいて、それはドーナル・グリーソンが演じていた。ディカプリオとトム・ハーディだけで、他の俳優はそれほど出番がないのではないかと思っていたけれど、結構出てきて嬉しかった。
金持ちの毛皮商である。おぼっちゃんっぽい役が似合っていた。赤毛を長めにした髪型も良かったし、丈の長いコートも美しく育ちが良さそうだった。
これは終盤にフィッツジェラルドを探しに行くシーンなのですが、毛皮ごわごわで髭ボサボサという熊のようなディカプリオと、妙に小綺麗なドーナル・グリーソンの対比が良かった。

トム・ハーディ演じるフィッツジェラルドはリーダーでもないし、インディアンに頭皮をはぎ取られた過去があって、布などを巻いて頭をずっと隠しているなど、少し可哀想な役どころだったし、小物感を漂わせていた。
殺人を犯したけれど、極悪人とまでは言い切れない感じがする。
そもそも最初のインディアンによる襲撃は、本当にグラスたち銃声を響かせたからバレたのではないのか。それが発端となって一連の悪いことが重なったのだとしたら…。神経質なだけの男なのではないか。
でも、金に汚そうだったし、やっぱり悪い人なのかな。目つきは凶悪だった。

メンバーの中のグラスを尊敬している若者役にウィル・ポールター。朴訥ながらも、まっすぐで、でも言い含められると何も言えずに従っちゃう弱さもあるいい役だった。彼も、案外出番が多くて嬉しかった。
でも、なんとなく、前よりも男前になってきてる気がする。別にいいんですが。
前まではどっしりした小僧とかジャイアンみたいな印象だったのに、本作では頭身が上がっているというか、成長してるから当たり前なんですが、しゅっと引き締まった印象。表情のせいかもしれない。ぼんくらっぽさはない。
今回の演技を見ていると、今後もいい役まわってきそうで楽しみ。

今作は演技の他に、カメラワークがとんでもなかった。
最初のインディアンによる襲撃シーンはそのただ中に自分もいるようなカメラだった。混乱の中心へ連れて行かれる。
矢がどこかわからないところから飛んでくる。すぐ近くの人がその矢に射たれて倒れる。一歩間違えれば自分に当たったのではないかというひやひや感。戦況がわかりやすい。
手持ちのシーンもあったけれど、POVではない。近いとは思うけれど、誰かの目線ではない。
『ゼロ・グラビティ』でも一部あったし、『バードマン』は全編そうだったけれど、ここも長回し風である。撮影は同じく、エマニュエル・ルベツキ。カメラがぐるっと周囲を見渡すと、そこかしこで戦いが起こっている。カメラの前で俳優が演技をしているわけではない。映ってない部分でも何かしらの動きがある。その臨場感と迫力に圧倒される。すべて見のがさないようにしようと、必死でスクリーンを見てしまう。

登場人物の過剰なクローズアップも何度かあった。
それは、ディカプリオの息でレンズが曇るほど。あれは演出なのだろうか。本当だとしたらそれをそのまま使っているのも過酷さが伝わってくるしすごい。

熊に攻撃されるシーンも迫力があった。ヒグマっぽいなと思ったけれどグリズリーと言っていた。いま調べたら、ヒグマの亜種らしい。
とにかくでかくて、あんな巨体でのしかかられたら動けない。そこを鋭い爪でがりがりやられるわけです。それが、かなり近くでとらえられる。
顔のにおいを鼻をすんすんいわせて嗅いでいたのも怖い。息づかいがすぐそばで。
動かなくなったときに一回去ったし、死んだフリは案外有効なのかもしれない…と思いながら見ていた。

においや熱気まで伝わってきそうな近いカメラもあるけれど、遠景でとらえているシーンも多い。本作はたき火のシーン以外はすべて自然光を使っているというのも大変さがうかがえるが、ドキュメンタリーっぽい感じもするのでなるほどと思った。

だだっ広くて真っ白で、誰もいない場所にぽつんと立っている様子は、大きなスクリーンで観てこそ価値のあるものだと思う。
できればIMAXで観たかった。
この時期、話題作の公開が相次いでいて、『レヴェナント』は一週間しかIMAX上映をやらなそうなのが残念。
それを考えても、本作はこの時期ではなく、もっと前に公開してほしかった。なるべくIMAX作品が重ならない時期に。

馬ごと崖を落ちるシーンの、崖の上からのショットも素晴らしかった。普通ここからは撮らない。誰がいるわけでもないし、誰の目線なのだろう。
木がクッションになったからか、グラスは生きていたけれど馬はおそらく即死。そこでグラスが何をするかというと、腹をかっさばいて、内臓を取り出し始める。
ああ、こんな感じで内臓を使ってあたたまるシーンって『スターウォーズ』でもあったな、臭いって言ってたし臭いんだろうな…と思っていたら、なんと自らが馬の中に入ってしまう。
臭いも尋常じゃないだろうけど、隠れる場所としては最適である。雪も凌げるだろう。
カメラはもう一度上にあがるが、馬が倒れているようにしか見えない。
朝、皮がぱりぱりに凍ってしまって出るのに苦労するのもリアリティがあった。

終盤の復讐シーン、雪崩は人工的に起こしたものらしいけれど、CGではないとのこと。一発勝負である。また、本当に色んな作品で見るけれど、白い雪には赤い血が映える。

ラストショット、グラスというかディカプリオのアップなのですが、目線が少しずつ移動して、こちらを見た。これが、安全な場所で見ているつもりが、あちらからも見られているというやつです。何か、時代や場所は違っても、映画の世界とスクリーンのこちら側が繋がってしまったような感じがして、どきっとした。

バッファローの肉を譲ってくれたインディアンと、雫を舌で受け止めるシーンは過酷な映画の中、オアシスのような感じがした。ただ、友情が芽生え、ここから二人で行動するのかと思ったら大間違いだった。

民族を越えた対話のようなものも少しだけ描かれている。
そもそも、グラスの妻は違う民族なので、彼自身は差別意識はないようだった。
ラスト付近でも、女の子を助けることで情けをかけられていた。

けれど、そこまで民族や差別、侵略の歴史など、メッセージ性は強くない。説教臭さよりも、あくまでも楽しさ優先の作りになっている。

それでも、復讐については一応メッセージ性があったかな。復讐は何も生まない。神の手に委ねる。もちろん、復讐心を糧にして死の淵から蘇ったのだとは思うけれど、それでも最後の一手は加えなかった。

なんとなく、民話的というか昔話のようだった。最初に、熊に襲われるというのもなんとなく、昔話っぽいと思う。

上映時間2時間36分ということだけれど、本当にあっという間で、長さを感じなかった。夢中で観ていたら終わっていたし、もっと映像を観ていたいという想いも残った。



0 comments:

Post a Comment