『嗤う分身』



2014年公開。イギリスでは2013年公開。
声優や俳優としても活躍しているリチャード・アイオアディ監督。コメディアンでもあるそうだけれど、本作にコメディ要素は一切ない。
アークティック・モンキーズやカサビアン、ヤー・ヤー・ヤーズなどのミュージックビデオも手がけているらしく、それはなるほどと思った。MV監督らしい、映像美は感じられる作品だった。

原題『THE DOUBLE』。自分の前に自分そっくりな人物が現れて…?という内容。最近、ジェシー・アイゼンバーグは、作品によってかつての童貞っぽさを出したりイケメンっぽさを出したり天才っぽさを出したり…と様々な面が見られるが、この作品では片方が童貞、片方がイケメンなので、なるほど、ハマり役。顔は同じでも、髪型や表情、口調などでうまく演じ分けていた。

開始してしばらくは世界観が唐突すぎて、なかなか話に入っていけなかった。
舞台も未来なのかなとも思うけれど、テレビや電話やジュークボックスが妙に古い。コピー機がやたらと大きい。
テレビでやっている番組も、チープなSFのような感じだった(『ザ・レプリケーター』というタイトルなのかも)。レトロフューチャーですね。独特な世界がしっかり作り込まれていて、美術が凝っていると思った。

主人公がいるところも社員と言っていたので会社なのかなと思うけれど、一番偉いのは社長ではなく大佐という人物らしいのでよくわからない。
そして、会社も主人公が住んでいる大きな団地のような場所も妙に薄暗い。主人公の家の机の引き出しにドミノが入っていたのも何か意味がありそうでなさそう。意味ありげな美術は多かった。

意味ありげといえば、SUKIYAKIソングとか、ジャッキー吉川とブルーコメッツの『ブルー・シャトウ』『雨の赤坂』『草原の輝き』『さよならのあとで』が使われていたのはなんでなんだろう。一曲ではなく、これだけ使われているということは意味があるのだと思うけれど。劇中には日本要素は一切ない。

自分にそっくりな人物が会社に入ってきて翻弄される。しかもそいつは自分より仕事ができて、コミュニケーション能力が高く、要領がいい。そのため、仕事の手柄や好きな女の子など、いい部分は横取りされ、やっかいごとだけが押し付けられる。

結局、このそっくりな人物はなんだったのか、というのは明らかにされないんですね。それで首を傾げてしまった。

自分にだけに見えている亡霊みたいなものなのかと思ったけれど、他の同僚も話していたので違う。
自分だけがそいつのことが同じ顔に見えているのかと思ったけれど、「そういえば似てるね」なんて言われていたのでそれも違う。また、似てることは周知の事実のようだったけれど、周囲は特に混乱していない様子だった。

ただ、殴ったら自分も血が出たので、同一人物の可能性がある。映画のタイトル出すとネタバレだから出さないけど(とはいえ超有名作だから今更ですが)、あの作品系の二重人格なのかとも思った。それで、周囲が合わせてるのかとも思った。でも二人同時に出ている場面もあったし、「○○君は新人なのにちゃんと仕事ができるのにお前と来たら…」みたいな怒られかたをしていたので、それも違う。

結局、飛び降りることになるときに、最初のほうシーンとループになるのかとも思った。同じく手を振っていたし、シチュエーションが似ていた。
また、ハナが遭っていたストーカー被害も、地下鉄とか家が近所で覗かれているとか共通項があった。でも、結局助かっていたし、ハナがピアスをして見せるなど、これも違う。

もしかしたら、全体が悪夢なのかもしれない。最初の地下鉄のシーンから、おかしな世界に舞い込んだのかとも思った。地下鉄ってそうゆうのの入り口っぽいし。

でも、なんの説明もないまま終わってしまった。こうゆうのは説明をするのも無粋なのかもしれないけれど。不思議な余韻は残った。謎を明かしてしっかり終わるタイプの映画ではないのだ。

エンドロールを見ていたら、エグゼクティブプロデューサーのところにマイケル・ケインの名前があって驚いた。イギリスの映画だし、別にいいんですけれども。

あと、ドストエフスキーの『二重人格』(『分身』)が元になっているらしい。読んでみたらもうすこし何かわかるだろうか。


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