『ブラック・クランズマン』



スパイク・リー監督。アカデミー賞で脚色賞を受賞。
作品賞が『グリーンブック』になったことで、スパイク・リーや『ブラックパンサー』のキャストが怒ったという話がありましたが、今までは映画を観ていなかったので理由がわからなかった。やっと日本でも公開されたので、やっと理解ができました。
コロラドスプリングスの警察署の初の黒人刑事である、ロン・ストールワースが書いた書籍を原作とした実話。
主演はジョン・デヴィッド・ワシントン。デンゼル・ワシントンの息子であり、クリストファー・ノーランの新作への出演も決まっている。ロンの代わりにKKKに潜入するフリップ役にアダム・ドライバー。アカデミー賞助演男優賞にもノミネートされていました。

以下、ネタバレです。










予告編はとてもコミカルな作りでてっきりコメディなのかと思っていたが違った。もちろんくすっとしてしまう部分もあったけれど、コメディ要素は思ったよりも少ないので、予告編の編集の力だと思う。けれど、予告編を作った方はアダム・ドライバーの魅力(というか、いつものアダム・ドライバー)をよく知っていると思った。やられっぱなしの少し情けない男性という印象。でも、映画内ではもっとしっかりした人物だった。
ロンの代わりにKKKの内部に潜入するフリップという刑事の役なのですが、彼はユダヤ人なのだ。KKKは白人至上主義で、白人のアーリア人以外は排斥する団体である。そのため、ユダヤ人も差別される。フリップは始めは自分がユダヤ人であることを隠すようにしていたけれど、途中からは誇りを持つようになっていたようだったし、潜入したことで、ロンの気持ちもわかったのではないかと思う。

ロンはアフロヘアだし、服装もおしゃれだったので、警察署の人気者なのかと思っていた。しかし、ただ単に70年代後半から80年代という時代の流行のヘアスタイル、流行の服装だったようである。
彼はコロラドスプリングス初の黒人刑事だったせいもあるのか、最年少だったせいもあるのか、警察署内でも白人たちに差別を受けていた。トード(蛙)と呼ばれていたり、わざとぶつかられたり、これは新米だからかもしれないけれど資料室の担当だったり。
警察が黒人を目の敵にしていて、不当な逮捕や暴力を繰り返すものだから(『デトロイト』で観たのも記憶に新しい…)、当然ロンの友達や恋人は、ロンが刑事なことが気に食わなかったりもして、大変な立場だと思う。それでも警察になりたいと思っていたから辞めることはできないと言うのも良かった。

後半に私服のロンがKKKの爆弾を持った女性を追いかけて捕まえようとしたけれど、逃げられそうになり、そこにパトカーが来るシーンがある。ああ、良かった、助けに来たと思ったら、パトカーから出てきた白人警官たちは、ロンを攻撃する。味方などではないのだ。黒人差別が普通であり、先入観が植えつけられている。白人女性が叫んでいたら、真偽など確かめず、黒人男性に手錠をかける。

彼自身は黒人だから大々的には潜入できないのですが、ついていくような形で潜入したKKK内部の様相は胸が痛かった。射撃訓練なのだろうか、KKKの人らが的に向かって銃を撃っているのだが、的は見えない。あとからロンがその場を訪れた際に的が映る。黒人が逃げている姿なのだ。また、KKKの会合でみんなで昔の映画を観ているシーンでは、黒人が酷い目に遭うシーンで歓声が起こっていた。人を人とも思わぬ対応を見て、ロンは何を思ったのだろう。

また、KKKの最高幹部のデュークは「アメリカ・ファースト」とか「アメリカを再び偉大に」と言っていて、なるほど、トランプはKKKではないし、映画の時代は違うけれど、その辺りで繋げてトランプ批判も映画内に織り混ぜるのだなと思いながら観ていた。しかし、80年代のトーク番組で、デュークが実際に「アメリカ・ファースト」、「アメリカを再び偉大に」と言っているらしい。トランプがKKK最高幹部の言葉を使っていたのだ。創作ではないと思わなかった。ぞっとした。

最後にシャーロッツビルでの極右集会とそれに抗議するデモの実際の映像が流れる。2017年である(アメリカで本作が公開されたのが2018年8月10日らしく、ちょうど一年後だったとのこと)。現代であっても何も変わっていない。この抗議活動で亡くなったヘザー・レイヤーさんのためと、他、不当な差別でなくなった人々のために、アメリカ国旗の反旗が掲げられる。
アメリカ・ファーストなどとお気楽なことは言っているのがどうかしている。これは反旗で終わる映画なのだ。

『グリーンブック』は確かに入門編というか初心者向けだと思う。そこまで踏み込まないけれど、人種差別についてなんとなくわかるし、鑑賞後に爽やかな気持ちになる。また、くすっとさせられる部分もあり、いい話を観たなあという印象が残る。でも、残ってすぐに消えてしまうかもしれない。所詮おとぎ話である。
特に、アメリカ人なら初心者向けなどとは言ってられないと思う。目をそらさずに、もっとしっかりと向き合わなきゃ駄目だと思った。受けた印象の重さがまったく違う。
だから、アカデミー賞作品賞が『グリーンブック』だったというのは、選ぶ人たちに勇気がなかったんじゃないかと思う。この事態に向き合うのは相当怖いものだと思うので。でもこのままではきっと何も変わらなさそう。両方観てみてやっと、『ブラック・クランズマン』や『ブラックパンサー』ではなく『グリーンブック』が受賞したことでの呆れや絶望感、無力感がよくわかった。

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