『タンジェリン』



2015年アメリカ公開。日本では2017年公開。『フロリダ・プロジェクト』のショーン・ベイカー監督。
iPhoneのみで撮影したことでも話題になった。5sとのこと。それでも立派な映画になっていた。

刑務所帰りのトランスジェンター、シンディは友達のアレクサンドラに彼氏のチェスターが女と浮気をしていたと聞かされる。激昂したシンディは各地でチェスターの居場所とチェスターの浮気相手の居場所を聞きまくる。
シンディは怒ってるからずっとイライラしている。歩き方も早足で、カメラ(iPhone)がその後ろをどんどんついていく。そしてどこに行ってもカリカリ、ギャーギャー。でも、刑務所帰りの彼女のことを歓迎している知り合いも多く、顔が広そうだった。

シンディと別れたアレクサンドラはバーのような場所で歌うことを宣伝するチラシをいろいろな場所で配っている。クリスマス・イブの群像劇です。

タクシードライバーのラズミックの様子も合間合間に出て来るので、最初はこの人がチェスターなのかと思っていた。ラズミックはアルメニアからの移民らしい。トランスジェンダーかと思って声をかけた娼婦が女性だったので怒っていた。どうやら、シンディやアレクサンドラとも知り合いとのことだったけれど、客だったらしい。でも、客というよりは親しそうにも見えた。
ラズミックは個人タクシーのようで、夜になったら家に帰ったけれど、そこには妻と子供、それに妻の母と母の友達なのか、高齢の女性がたくさんいて、ラズミックは耐えきれずに外へと出ていく。

シンディは浮気相手のダイナの居所を見つけて、娼館……のような使われ方をしているモーテルに乗り込んでいく。お店なわけでもないし、多分働いている女性たちも大事にはされていそうにないし、客も金があるわけでもなさそうだった。シンディに邪魔をされて割引券をくれなどと言っていた。
ダイナは細くて小さいが、シンディと髪をつかんだりの取っ組み合いの喧嘩をしていた。ダイナはチェスターなんか知らないなどと言っていたけれど、あとでそれも嘘だとわかる。強かである。

シンディはダイナより体格もよく力もあるせいか、引きずるようにしてチェスターの元へ連れて行こうとする。しかし、途中でアレクサンドラがバーで歌うことを思い出して、バーに先に向かうことにする。ダイナを引きずりながら。

アレクサンドラはあれだけチラシを配ったのに、別にお客さんもほぼ来ていない。歌はうまかった。でもそれだけでは駄目なのだ。でも、シンディは来ていて、無駄に拍手がでかく、盛り上げていた。この店の楽屋のような場所で、ダイナとシンディは一緒に何かのドラッグをやったり、化粧をしてあげたりしていた。この先のシーンを見れば決してそんなことはなかったと思うんですが、この時点だと少し仲良くなったのかと思った。結局は社会のはみ出し者同士なんですよね。似ている二人。

この後、まだ引きずるようにして、逃げられないように手をつないで、チェスターのいるというドーナツショップへ向かう。アレクサンドラも一緒。チェスターがまあロクでもない男で、ドラッグの売人をやってるようなんですが、言葉巧みにシンディにお前だけだよというようなこと言っていた。でも刑務所に入っている間にはやはりダイナとも繋がりを持っていたらしい。
そこにシンディに会いたかったラズミックも登場。彼は恋とかでは多分ないのですが、自分の家のまともな生活にうんざりしていそうだった。そこにラズミックの義母も登場する。義母はラズミックがシンディやアレクサンドラのようなトランスジェンダーと一緒にいること自体にも驚いていたけれど、ラズミックが名前を口にすると、「名前を知ってる仲なの!」と更に驚いていた。短い中で関係性が説明されるいいシーン。ついに妻と子供もドーナツショップに迎えに来る。

もうドーナツショップに全員が集まってギャーギャーやっていて大騒ぎ。ここが群像劇でみんなが集まる場所だった。オーナーの女性(アジア系。ママサンと呼ばれていたから日系という設定だったのかも)は出て行けと怒り、警察を呼ぶ。

店の外でも言い合いは続く。その中でアレクサンドラも一回チェスターと寝たことがわかってしまう。
一人で娼館というかモーテルに帰ったダイナは代わりの娼婦をもう雇われてしまっていて帰る場所もない。
ラズミックは家に帰ったものの、一人きり。後ろには派手に輝くクリスマスツリー。
アレクサンドラとシンディは険悪なムード。
はぐれ者たちは結局バラバラな場所に帰って、それぞれ孤独になる。クリスマスなのがまた寂しい。

けれど、アレクサンドラは必死に謝る。多分、会話を聞いていてもこの件でもチェスターが圧倒的に悪そうだった。ここまで観てきてアレクサンドラの性格もなんとなくわかってきているから、アレクサンドラを庇いたくなる。

少し離れた場所で、シンディは客を取ろうとして、車の中から尿を引っ掛けられてしまう。アレクサンドラは彼女をつれてコインランドリーへ。着ていた服とウィッグも洗う。
トランスジェンダーにとってのウィッグの位置付けがまだいまいちわかっていないのですが、『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』を観る限りだと、洋服か、洋服よりも大事なものであり、お金がないといいものも買えない。しかし、そんなに頻繁には変えられない。でも、見た目にも大きく関わる。アイデンティティまではいかないと思うけれど、とても大切なものなのだと思う。
二人でコインランドリーに並んで座って、アレクサンドラは自分のウィッグをシンディにかぶせてあげていた。ここでも『ヘドウィグ〜』を思い出した。たぶん、ごめんなさいという言葉よりも大きい気持ちがこもっている。
二人で並んで座っている様は、孤独な魂が寄り添っているようで、とても好きでした。
『ヘドウィグ〜』のことを思い出していたせいかもしれないけれど、なんとなく、『セックス・エデュケーション』のオーティスとエリックにも似ていると思ってしまった。喧嘩をしても、結局、はみ出し者同士なのだし、気が合う。恋愛は抜きにして、あんたにはあたしだけ。友情は続く。



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