『グリーン・ブック』



本年度アカデミー賞作品賞受賞。でありながら、異論が噴出している作品。
できることならこんな先入観は無しに観たかった。
監督は『メリーに首ったけ』のピーター・ファレリー。
主演はヴィゴ・モーテンセンとマハーシャラ・アリ。マハーシャラ・アリは各映画賞の助演男優賞を受賞しています。ただ、映画を観ると、助演というよりは主演級に思えた。

以下、ネタバレです。










ヴィゴ・モーテンセン演じるトニーはクラブで用心棒として働いていた。チップを騙し取ったりなどしていて、あまり品はない。家に来ていた業者が黒人だったときに、彼らが使ったコップを捨てるなどする人種差別主義者。
そんな彼が、上品で金持ち、カーネギーホールの上に住むピアニストのドクター・ドン・シャーリー(マハーシャラ・アリ)の運転手として働くことになる。

衣装などからはそれほどよくわからなかったけれど、舞台は1962年。特にアメリカ南部では人種差別が行われているが、ドクは自ら進んでツアーに出かけて行く。

グリーンブックというのは、黒人が泊まることのできる宿を記載した本。南部の奥に行けば行くほど、汚いモーテルになっていっていた。
年代がわからず観ていた序盤、トニーが、泊まる場所は同じ場合もあるし違うこともあると言われていた時に、運転手だからトニーの泊まる場所のランクが下がるのかなと思っていたが違った。

また、演奏をする場所でもトイレは別だし、バーに行けば黒人というだけでいちゃもんをつけられる。レストランにも入れない。それは南部に行けば行くほど酷くなっていく。

序盤、面接の時のドクは本当に王族のような服装だったし、後部座席に座っている時も姿勢良くきりりとしていた。言葉遣いや身のこなしが上品。
対するトニーはあらゆる面で粗野。やめろと言っても車内でタバコを吸うし、吸い殻やゴミも外へ捨てる。文字もうまくかけない。
フライドチキンも車内でぼろぼろこぼしながら手づかみで食べていた。ドクはそれを見て顔をしかめていたが、怖々食べてみて、トニーに心を開き始める。
(しかしその後、セレブの食事会でフライドチキンが出されるのは強烈な皮肉。良かれと思ってやったことが差別になる)

ツアーをしながら正反対の二人が仲良くなるロードムービーなのだが、やはりどちらかというと、トニーの心は変化するが、ドクの心はそこまで変化しない。というのも、ドクは最初から、なんか粗野で嫌だなとは思っていたと思うが、その程度である。黒人が使ったコップを捨てていたところからスタートするトニーとはわけが違う。

ただ、トニーも要は単純なんですよね。保守的な家庭で育って周りがそうだったからというだけで差別していたけれど、ちゃんと付き合ってみれば、別にすぐに考えは変わる。

それよりはドクの心中が気になった。序盤は人種差別主義者なのがわかっていながらトニーを雇った。おそらく、腕っぷしを買ったのだろう。それは、南部へ行って、自分が暴力にさらされるのがわかっていたからだ。
兄とは疎遠だと言っていた。一体何があったのかは明らかにされないし、トニーは単純だから、こっちから手紙書けよなどと言っていたが、おそらく修復不可能なのだと思う。それは、同性愛者であることも関係しているのかもしれない。
白人の前で演奏することの葛藤をしめすシーンにも泣いた。感情を吐露する演技が本当にうまく、マハーシャラ・アリ、さすがの助演男優賞だなと思った。この先もたくさん賞をとりそう。演奏後ににこっと笑うのも、上品な振る舞いも、知性も、感じを良くして馬鹿にされないように、もっと言うと、暴力を振るわれないように必死に身につけたものなのだろう。
6年前に黒人のミュージシャンが袋叩きにあった場所にツアーに出る。彼の勇気だと言われていたけれど、たった6年である。いつ暴力を振るわれてもおかしくない。実際、ステージ以外の場所では殴られることもあった。それでも、事態を変えていくためには、出かけて行かなくてはならない。そのために身につけたピアノの技術であり、身のこなしなのだ。

後半、黒人ばかりのバーでくだけた感じで演奏をした時にも、演奏後に営業スマイルを見せていて、あ、癖になっちゃってるんだな?と思った。また、そのバーで現金を出していたのは、気が緩んだのだろう。白人ばかりの場所では決して見せないだろうし、気を張っていると思う。ほぼずっと、気を張って生活しているのだと思う。

それに比べると、イタリア人とはいえ、白人のトニーはあらゆる面で気楽に見えたし、自分は気楽だったなと気づいたと思う。
でも、アカデミー賞関連で反感をおぼえられたシーンは、銃で脅してドクを救うシーンなのかなとも思った。

あと、実話だから本当のことなのかもしれないけれど、最後もトニーがドクの“お城”に向かってほしかった。クリスマスに大家族がわいわい集まっているトニーの家。逆にお手伝いさんも帰してしまい、一人きりのドクの家。トニーは家で難しい顔をしていたのだから、彼が動くべきだった。シャンパンを持ってトニーの家を訪れるドクも、それも勇気なのかもしれないが…。でも、最後まで彼に勇気を振り絞らせてどうする。あのあと、保守的なトニーの家族はちゃんとドクを受け入れたのだろうか。トニーが受け入れたように、しっかり話せばわかるのだろうか。ドクが嫌な思いをしていないといいなと思う。

終わり方はふんわりとしていて、何も解決していないといえばしていないが、人種問題が解決してない時代の話なので仕方ないのかなとも思う。
でも、レストランに入れてもらえなかったり、黒人というだけで夜間外出して収監されたりと、劇中で感じた怒りがふわっとしたもので誤魔化されて、なんとなくいい話としてまとめられていることも事実。
この二人だけの話として考えれば、とも思うけど、それも視野が狭すぎる。

マハーシャラ・アリは多くの白人に観てほしくて、敢えて白人監督の映画に出たそうだ。確かに観やすさはある。鑑賞後に爽やかな気持ちになるのも悪くない。でも、だからこそ一方で反感を持たれるのはわかる。

正反対な二人のコミカルなやりとりはおもしろかった。でも、アカデミー賞というには…?という疑問が呈されるのもよくわかる。でも、『ブラック・クランズマン』については依然公開されていないのでどちらがどうとは言えないのも…。

内容は関係ないですが、おいしそうな食べ物が次々に出てくる映画でもあった。フライドチキン、食べたくなりました。


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