『天国でまた会おう』



セザール賞5部門受賞。『BPM ビート・パー・ミニッツ』のナウエル・ペレーズ・ベスカヤートが出演してますが助演。主演はアルベール・デュポンデル。彼が監督、脚本をつとめている。

公式サイトの雰囲気や、『パルナサスの鏡』が引き合いに出されているあたりで勘違いをしていたのですが、そんな楽しげで華やかな話ではないです。
『その女、アレックス』のピエール・ルメートル著の小説を原作にしている(という情報を知ってから観たらまた違ったかも)。

以下、ネタバレです。












主人公の男アルベールが警察に話を聞かれているシーンから映画は始まる。彼の過去回想で進んでいく。

塹壕で時間稼ぎをして休戦を待っているフランス軍が映し出される。ドイツ側も攻撃を仕掛けてこない。なんとなく意外な気がしてしまったけれど、前線の兵士たちは誰も戦いたくないのだ。当たり前だ、死にたくないもの。
ところが中尉のプラデルは、戦争したがりで、二人の兵士に様子を見て来いと命令する。こういう男がいるから無駄な死が増えるし、戦争は終わらないのだな…と思った。全員泥だらけなのにこの中尉だけはきれいなのも嫌な感じだった。
様子を見に行った兵士たちは案の定撃たれ、それを合図にしたように交戦が始まる。しかし、撃たれたのも後ろから=ドイツ軍ではなくフランス軍から撃たれているとアルベールは発見する。プラデルの仕業だろうとすぐわかるが、気づかれたのを知ったプラデルにアルベールは生き埋めにされそうになる。それを助けたのがエドゥアールで、彼はそれが原因で顔に消えない傷を負ってしまう。

この、プラデルとアルベール、エドゥアールの関係が戦後も因縁のように続いていく。

この先、アルベールによるプラデルへの復讐と、エドゥアールと父との関係が描かれていくが、人間関係が複雑に絡み合っていて、まったく別々の話のようで同時に進行していくのがおもしろかった。

エドゥアールは父との間に遺恨が残っているので、いっそ死んだことにしてほしいと言う。アルベールはそのアリバイづくりに奔走するが、墓の業者がプラデルで、しかも彼はエドゥアールの姉の夫になっていて、エドゥアールの家に住んでいた。プラデルは運転も乱暴だし、汚職を繰り返していて、戦時中に嫌な奴だった人間は戦争が終わっても嫌な奴のままだった。戦争は一人の人間に起こった一つの出来事に過ぎない。思えば、戦場で無理な指示をしてくる上官の戦後の生活の様子などは、映画ではほとんど描かれない。
アルベールにしても、戦争から戻っても働き口がなく、復職もできず、妻にも逃げられて孤独になっていた。

エドゥアールは絵が上手く、芸術的な才能があるようで、自分の怪我をした顔を隠すための仮面を作っていた。この仮面の数々がどれも個性的で、セザール賞衣装デザイン賞受賞も納得。ただの仮面ではなく、ちゃんと感情が示されているのがおもしろかった。口がへの字の仮面の口の部分を逆にしてにっこりさせるのもいいアイディアだと思った。特に詐欺のカタログが出来上がったときの悪い顔の仮面は笑ってしまった。
ナウエルはほとんど顔が出ない。上部だけ出ている時もある。しかし、パントマイム的な手の動きと仮面の表情だけで感情が伝わってくるのだから、演技力があるし、難しかったと思う。また、『BPM』の次が本作なのだから振り幅がすごい。

アルベールは死んだことになっているエドゥアールの墓の案内などをして、エドゥアールの家族とも会い、仕事まで紹介してもらう。そこで父親はエドゥアールのことを決して嫌っていないことも知るが、エドゥアールは聞く耳を持たなかった。
エドゥアールは自分の絵の才能と戦没者慰霊碑が求められていることを知り、慰霊碑のデザイン詐欺で儲けようとする。金だけせしめて慰霊碑は作らないという詐欺です。
しかし、回り回って、地元の有力者である父の元へデザイン画がたどり着き、息子が生きているのではないかと気づく。
父と息子は対面するが、この時のエドゥアールの仮面も良かった。かなり派手でリアルな孔雀の頭。しかし、目の部分はエドゥアールの目なので、父を見つめる目は見えるし、父もきっと本人だと確信したと思う。そこで仲直りをしたようにも見えたが、エドゥアールはそのまま屋上から飛び降りてしまう。普通の鳥ではなく、孔雀なのも意味があった。綺麗だが飛べないのだ。

プラデルは自分の悪行で自爆した面も強いんですが、部下の妻と知らずに不倫して部下に逃げられる、汚職がエドゥアールの父にバレる、エドゥアールの姉にも愛想をつかされる。そして、アルベールの前で半ば事故のような形で生き埋めになって死ぬ。因果応報です。

さらに、ずっとアルベールを尋問していた警察(国境警備隊みたいな人かも)は、休戦間近の時にプラデルが様子見をさせに行った兵士の親だった。彼の復讐も一緒に遂げていたのだ。そのため、無事に国境を越えさせてもらう。

情報は入れないようにしていた面もあるんですが、雰囲気的にミステリアスな仮面の男(エドゥアール)とそれに巻き込まれる普通の男(アルベール)が、フランス各地で興行を繰り広げる友情珍道中ものかと思ったら違った。
興行的なシーンは、エドゥアールが催すパーティ一回だけです。

このパーティでも、各国の指導者たちを模した仮面を被った人物たちをシャンパンで撃っていくというシーンがあったが、本作は思っていた以上に戦争映画だった。戦時中の話が序盤に少し、あとは戦後ではあるんですが、戦争自体が終わっても人々の心の中に残った傷は癒えない、人との関係も終わらない。簡単には戦争は終わらないというのがよくわかった。
普通は、終戦を迎えた時点で映画も終わってそこでめでたしめでたしとなる作品が多いと思うが、本作はその先と過去も少し描かれていて、戦争は人生の中での出来事の一つに過ぎないのだと気づいた。そんなことすらわかっていなかったのだ。



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