『最強のふたり』


2011年にフランスで大ヒットし、日本でもTIFFやフランス映画祭でもすでに上映されています。ハリウッドリメイクも決まっているらしい。原題『Intouchables』。英語にすると『アンタッチャブル』なので、タイトルが既存の作品とごちゃごちゃになってしまうからこの邦題になったのかな。別に『最強のふたり』でもいいとは思うんですが、『Intouchables』のほうが、よりいろいろと想像できる、深みのあるタイトル。

大富豪の白人の障害者と貧困層の黒人の介護人。趣味も話題も暮らしもまるっきり違う二人が出会って、さてどうなるか。予告を何度か観て既に泣いていました。映画本編は実話ベースだからか、ドラマチックというよりは静かに進んでいく。泣くことはあっても号泣という感じではなかったです。また、少しシニカルなフィリップ(富豪)とそのシニカルもユーモアで受け流すドリス(介護人)のやりとりでは何度も笑わされた。この泣きと笑いのバランスが絶妙だった。
障害者とその介護の話だと、難しい問題故に、慎重に扱われた結果、内容が重くなったり暗くなったりして、鑑賞後にしんみりしそうだが、全体にカラッと明るくまとめてあるため、爽やかな感動が残った。

以下、ネタバレです。







一番好きだったのが、フィリップ曰く“退屈な”バースデーパーティのシーンです。フィリップが室内楽団にクラシックの中でも有名な曲をドリスに聞かせる。最初はどうでもう良さそうだったドリスも「これはコーヒーのCMの曲だ!」など徐々に興味を持ち始め、そのうち、音楽から受けるイメージについて話し出す。まるで子どものような吸収力。先生(フィリップ)もいいのだと思うが、教養がどんどん身に付いていき、内面が魅力的に変わっていく。
その後、今度は先生がドリスに交代し、Earth Wind & Fireを聴かせる。ダンスをして見せると、他のバースデーパーティー出席者も一緒に踊り出す。
互いに影響しあって、いままで知らなかったことに触れ、心が豊かになっていく。理想的な関係です。しかも、周囲の人物まで巻き込んで、どんどん状況が良くなっていく。1+1が2どころではない大きな数字になっていく。まさに相乗効果。

二人のキャラクターが魅力的である点も、映画全体を良い雰囲気にしている。
フィリップは障害者でありながらひねくれたところがない。障害を持つことになった原因であるパラグライダーも、本来ならばやりたがらないだろう。勇気があるが、女性には奥手という面もかわいらしい。
ひねくれたところがなく見えたのは、ドリスに出会ってからなのかもしれない。よりひねくれた状態で登場したドリスは、良くも悪くも怖いものなし。どうしようもない若者にも見えたが、ラストでは穏やかな表情になっていたし、責任感が芽生えたせいか、大人になったのがよくわかった。

宣伝文句である“最強のふたりに起こった最高の奇跡とは”というのはどうかなと思った。奇跡が起こると言われると、どんでん返しとか大きな山場を想像してしまう。フィリップの病気が治ったり、ドリスの弟と対立していた輩がフィリップ宅に侵入してきて銃乱射とかを想像してしまった。また、フィリップが死んでしまうような着地点になっていなかったのも良かった。
と思っていたら、エンドロールで実話のご本人たちが登場。ご存命でした。この映像が車椅子に座ったフィリップの後ろにアブデル(ドリスの元になった方)が立っていて、二人で遠くを見ているもので、会話などはないけれど、力強さを感じる。
奇跡が起きるというよりは、二人の出会いそのものが奇跡だったのではないかと思う。人との出会いによって、今後のすべてが変わっていく。

原題の“Intouchables”は、決して交わることが無かったであろう、フィリップとドリスの関係や、頭部より下が麻痺をしていて、文通相手に触れられないことをおそれるフィリップのことを指しているのではないかと思う。
ドリスは車椅子に乗せるときにフィリップを抱きかかえるため、文字通り触れている。勢いあまってそのままダンスをするシーンもある。そして、ラスト、フィリップはドリスの小ニクい配慮で文通相手に対面することになる。“アンタッチャブル”から“アン”がはずれる、この幸福な変化がこの映画の醍醐味だと思う。

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