『鑑定士と顔のない依頼人』


こちらも去年の見逃し案件。『ニュー・シネマ・パラダイス』のジュゼッペ・トルナトーレ監督。音楽もエンニオ・モリコーネ。役者さんの演技や調度品などの美術も上質で、観ていてうっとりするミステリー。

以下、ネタバレです。






まず、ジェフリー・ラッシュ演じる主人公であるオークショニアであり美術品鑑定士が、人間不信ぽかったり、手袋をはずさなかったり、家の中に女性の肖像画のみを集めた秘密部屋を作っていたりと、偏屈を通り越して変態なのがいい。しかも、裏で安く絵を落札していたりとやっていることもあやしい。

そんなちょっと変わった主人公の元に、鑑定の依頼が来るところから物語が始まる。

両親が残した巨大な屋敷とそこに残された美術品や絵画の数々。そして、依頼人自体は姿を見せない。もう主人公に輪をかけてあやしいし、不気味。
ここから、ジェフリー・ラッシュ演じるヴァージルがこの屋敷の謎を解いていく、探偵ものになるのかと思った。

途中までは確かに探偵ものだった。姿を見せない依頼人は電話の声からすると若い女性。家を訪ねていくうちに、実は部屋にいることがわかったり、少しずつ謎が明らかになる。
それと平行して、地下室にはまた別の謎の部品が落ちていて、それを機械修理店に持っていくと、オートマタ(機械人形)の部品だと判明、少しずつオートマタも出来上がっていく…。

いろんな要素がつめこまれていて、謎が解かれていく様子にぞくぞくしながら観ていたのだが、女性が姿を現して以降、話の流れが変わる。

姿を隠しているときには好奇心のほうが強かったように思うが、顔を合わせて以降は、気づいたら老紳士のラブストーリーになっていた。
ヴァージルは人嫌いだから、どうしていいかわからず、機械修理店の青年に恋愛相談をする。プレイボーイだから、その辺に詳しいんですね。

オークショニアであり美術品鑑定士は恋する老紳士になり、機械修理店の青年は恋を相談される友人になり、謎めいた依頼人は憧れの女性になる。最初の肩書きめいたものがすり替わって、ヴァージルはもじもじしているし、もうストーリーのあやしさや不気味さがなくなってしまう。
そして、結局恋が成就して、ヴァージルの家に一緒に住むことに。ヴァージルの家を案内していて、屋上にさしかかった時の明るく安っぽさすら感じる太陽光。ああ、これでハッピーエンドなんですね。めでたしめでたし。

な、わけはなかった! 作り物の世界から一気に現実へ。いや、現実なんてもんじゃない、天国から地獄へ。
あそこまでやる必要はなかったのではないかと思うくらい残酷ではあるけれど、あのまま終わらなくて良かったと思うし、自業自得的な面もある。

ラストシーンでヴァージルが訪れる店『ナイト&デイ』の内装が歯車をあしらったもので、美術的にもとても恰好良い。
テーブルに一人で座るヴァージルを真ん中に置いてのショットは、序盤でレストランで一人で食事をしていた時のショットと同じなのが気になった。ただ、最後のショットでは手袋をはずしているし、人を待っていると言う。カメラが引いていくので、まるでヴァージルが歯車の中に埋もれていってしまうようだった。美しいです。

ジェフリー・ラッシュ、全体的に好きだったんですが、特に好きだったのは、オークショニアの仕事をしている時です。張りがあって、独特の調子もうまく、恰好良かった。良い声。
ただ、まだ62歳なことに驚いた。もっとおじいさんなのかと思ってた。役の上でもおじいさんの話だと思っていたけれど、たぶん、もっと若い設定だったんだろう。

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